2-13 日常編Ⅹ

 来訪者が去った今、手元には一通の封書と用途不明の鉱石(おそらく雷光石)が残された。雷光石は、異世界に点在する希少な鉱石である。

 そして、

 「ダハハハ。いけポチ!」

 幼女を預けていきやがった。

 視界の端には地獄の番犬ケロべロスに跨り邪神を追い回す天真爛漫な幼女の姿があった。

 悪い行為のツケは巡り巡ってくるものだ。ざまぁみろ、と悪巧みをしていたであろう邪神を一瞥する。

 封書にはオリーブをくわえた鳩が印璽いんじされた封蝋シーリングワックスが捺されていた。

 新国連の紋章―それ即ち、創世機関NOAHの紋章でもある。

 封書の内容は簡素なものだった。


 『年度末に総会が予定されている。それまでには何とかする』


 この一文を伝えるためにメンバーに使いを頼むとはよほど警戒しているのだなNOAHのは―しかし、託した相手が悪い。

 握られた封書の文字が掻き消え、新たに文字が浮かび上がる。


 『七つの鉢から地に注がれる日は近い。それまで暫しの間、苦難に耐え忍べ』

 

 七つの鉢とは七つの災厄のこと。聖書に記される最後の戦い―ハルマゲドン。その日が来るまで耐え忍ぶ。それが俺のである。

 

 神崎の口は弦を描く。

 もう暫くの辛抱。それまで、ここでのんびり過ごすのも悪くはない。性格の不一致は否めないが、幼女の玩具と成り果てている邪神も一応はNOAHに一員であり、独立武装組織七つの鉢の一員でもある。

 所謂、同志である。

 少しばかし格好をつけすぎた。我ら《七つの鉢》は、世間で言うところのテロリストである。

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