2-14 日常編Ⅺ

 「中々我らが七人揃うことはないが、今回は集まりが悪すぎやしないか?」

 「仕方がないのではないかと、七人のうち三人は日本におります。一人は仕方がないとしても、あとの二人がこちらに顔を出すのは聊か難しいのではないかと、何せ一人は投獄されておりますれば、今回は致し方ないかと」

 「そうだな。日本にいる者たちが参加していないのは理解できるが、他二人はどうした?」

 「自国での任務でも入ったものかと」

 しかしこれでは話にならん、と二人は顔を見合わせ、ため息。

 「今回は話を詰めるのはやめておこう」

 「致し方ないですね」

 再びため息を交わすと二人の姿は掻き消えていた。

 

 先延ばしにされた話し合いは世界の終わりが先延ばしになったことを意味していた。


 *


 「七つの鉢?」

 首を傾げる親友(笑)に、我らが委員長様は呆れたご様子だ。

 「貴方はニュースは見ませんの?」

 「えっとぉ……」ルームメイトが耳打ちをすること数十秒。

 「テロリストってことだな」とおそらく殆どの内容を削ぎ落とした情報しか取り込めていない親友。

 女性陣は首を傾げてため息。

 「お前もわかってないよな?」という視線を向けられ、咄嗟にどのように対応しようかと思案する。

 《七つの鉢》について何も知らないのか、と問われれば答えはノーだ。

 この世界でその存在を知らない人間の方が圧倒的に少数派だろう。

 国際手配されている組織の中では唯一、新国連と真正面からやり合っている超が付くほどの武闘派集団である。所属するメンバーが新国連―NOAHのメンバーと拮抗した力を持つといわれている。

 双方ともに潰し合いを望んでおらず、現在は冷戦状態との見方がなされている。

 実際には幾度となく両者は対峙し、表には出ない歴史に記されることのない戦いが繰り返されていた。

 情報媒体が限られていたらしいから親友(笑)が知らないのも無理はない。

 魔導学院の大食堂に設置されているモニターからは《七つの鉢》が日本の魔導学院の姉妹校にあたるギリシアの魔導学院を襲撃し、NOAHの№1、ロイス・メルヴィルと小規模の戦闘が行われたが、見事にロイス・メルヴィルが退けたという内容の報道がなされている。

 これでは《七つの鉢》が完全なではないか。

 世界の秩序を保つという名目で帰還者を兵器として紛争地帯へと送り込む。そんな非人道的な行為を黙認させてしまうほどに新国連の力は圧倒的だった。

 圧倒的な暴力を持って世界の頂点に君臨した。

 《七つの鉢》は帰還者たちの自由の獲得と平等という定義の見直しを目標に掲げている。前者が占める割合が大きいのだろうとは思うが、後者の考えに賛同する帰還者は少なくない(あくまで表には出さない)。

 誰もが、今得ることのできている平和が例え仮初だったとしても現状維持を望んでいる。

 帰還者を管理してくれれば安心。

 帰還者も多少の危険はあるがその危険に十分に見合う待遇を受けることができる。

 異能力者にとっても、そうでない人たちにとっても最高の妥協点が用意された世界。それが二十三世紀という時代だ。

 この世界はぬるま湯だ。管理された世界のどこが楽しい?

 俺は、決して態度や表情に出すことはないが、反新国連という思想を持つ人間である。

 肩が揺すられる。「オイ!」と親友(笑)は訝しむように顔を覗き込む。

 「で、どうなんだ。知ってるのかアイツらのこと」親指を立て背後にあるモニターを指す。

 「報道されていること以上は知らねぇよ」本心を隠すように顔を僅かに背け首を竦める。

 顔を背けた先には委員長が眼を細めて疑いを掛ける視線を送る。

 そんなに見つめられたら勘違いされちゃうよ? とウインクをする。

 軽蔑した視線が返ってくる。

 委員長は面白いなぁ、いや、このクラスの奴らは中々に面白い。

 いい暇潰しになるかもしれない。

 最後の戦いまでの―暫しの時を今は楽しもう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る