1-1 旅立ち

 「太陽。アナタならその力をみんなのために使うことができるわ」

 そんな言葉をかけてくれた母はいつも笑顔だった。

 この世に生を受けて十五年。

 優しい母と双子の兄。そんな二人との家族三人での生活は充実したものだった。

 しかし五年前、国の役人だという男たちが来て兄を連れて行ってしまった。

 特殊な力の波動を観測しただとかいろいろと説明を受けたがそんなことは兄を連れ去っていい理由にはならない。

 しかし兄は黙ってそれに従い、母もその要請に応じた。

 

 そして今度は俺自身が望んで兄の後を追おうとしている。

 そのことを母に話すと兄の時とは違い大反対をくらってしまう。

 兄の時は黙ってすべてを飲み込んだ母が、なぜそこまで反対するのか俺にはわからなかった。


 しかし、ついに国が建設した研究機関へと向かう日。

 母は寂しげな表情を見せながらも笑顔で見送ってくれた。

 一通の封筒を手渡された。

 住所宛名書きは一切なく、代わりにキスマークがつけられていた。


 「これをこれからアナタの行く機関のトップに渡しなさい」


 そうひと言告げると母は昔と変わらぬ優しい笑顔で手を振ってくれた。


 後ろ髪をひかれる思いを断ち切って俺は家を出た。

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