BORDERRHINE―神様の防衛戦線

小暮悠斗

第一章 世界と覚醒

prologue

 鳴り響く警告サイレン以上にここにいる人間たちは騒がしい。

 辺りを見回せば声を張り上げて部下と思しき女性に唾をまき散らしながら何やら指示を飛ばしている。

 また別の場所からは、

 「熱源探知! レーダー目標を捕捉しました!」

 「距離は!?」

 「距離はっ……せん……」

 「どうした!」

 「目標ロスト―見失いました!!」

 「ステルス機能搭載かっ……」

 「これでは迎撃できません!」

 

 緊急事態らしい。

 『大変だ、大変だ』と、あくまで傍観者を気取る俺の肩を後ろから強く握りしめる人物がいた。


 振り向きと眉間に深く皺を刻み込んだ白髪混じりの高級スーツに身を包んだ男が視線を逸らすことなく立ち、こちらを見据えていた。

 

 相手を認識したのち微笑を浮かべて話しかける。

 「これはこれは、お久しぶりです。総理」

 すると、軽く手をあげてこちらを静止すると端的に用件を口にする。

 「先ほどロストした熱源体の撃破を頼む」

 「了解です」と敬礼のデスチャーとともに応える。

 出撃準備のため総理に背を向けて人でごった返した通路を歩く。

 背中越しに「よろしく頼む」と声がした気がしたので軽くあげた手を左右にプラプラと振ってそのままその場を後にした。


 出撃前には独特の緊張感がある。

 国のため、家族のために戦う者、そうした者たちとは違う緊張感が俺を襲う。

 俺は死ねない。だって―。

 『俺は俺を守るために生まれたのだから』

 「出撃お願いします」

 職員の声によって現実に引き戻された俺は頷くことで了解の意を示した。


 出撃した後にはいつも虚無感が襲う。

 なぜこんなものに俺は緊張感を覚えてこれほどまでに思い詰めなくてはならないのだろう、と。

 「見えました。アレです!」

 興奮―緊張の色が見て取れるサポート役として同乗する自衛官。

 「えぇ、見えますね」と素気ない返答をした後、輸送機のハッチを開けるように指示し「行ってきます」と告げて身を投げるようにしてコバルトブルーの世界へと降下した。


 体いっぱいに風を感じながら目標へと軌道修正をしつつ一時の空中散歩を楽しむ。

 さてと、お仕事しましょうか。

 そして俺は、自然落下では不可能な旋回、急上昇、急降下を繰り返しながら目標の正面へと回り込む。

 「核弾頭ミサイルかな?」

 兵器に関する知識は皆無に等しいがミサイルというものの存在くらいは知っているし、判別もできる。

 早くも輸送機は戦域からの離脱を完了している。

 太陽ウザいな。

 水面に乱反射する陽射しが上からだけでなく下からも俺を責める。

 「暑いの苦手なんだよ。俺の領分じゃないから―さ」

 ミサイルを正面で受け止める。

 しかし、ミサイルの速度は減速することなく日本本土へと向けて飛行を続ける。

 はぁ、ため息を漏らしながらも俺は自分の力を行使する。

 

 「顕現せよアポロン!!」

 

 瞬間―ミサイルは軋みそのまま破裂した。

 猛烈な爆風と共に熱風が迫りくる。

 本来人間が耐えることなどできない熱風の中で、その熱さに対峙していると無線が入る。

 「ご無事ですか!?」

 どうやら先ほどの自衛官のようだ。

 俺は「大丈夫です。問題ありません、帰還します」と答えると自衛官の応答を待たずに無線を切った。

 暑い暑いと手で扇ぎ、愚痴を零しながら俺は帰還した。

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