第一章 2話 『異世界からの呼び出し』
月明りが暗闇を照らし 、辺り一面を優しく風が吹く。夢の中で見る景色に俺は、眠った事に気付いた。
ただいつもとは何かが違う。夢の中では女性が歌っているのだが……。
……あの鈴が鳴るような美しい声が聞こえてこない。
「誰かを探してるのですか?」
急に後ろから話掛けられ、ビックリした俺は情けなく尻餅をついてしまった。
女性は俺の事を見て「クスッ」と手を口に当てて笑っていた。その仕草がとても可愛く、俺は見惚れてしまっていた。
…… いつもだと俺には気付いていないのに。
「……君は誰なんだ? これって夢?」
「私はフィル・グレイスと言います。 フィルって呼んでくださいね。 いまは貴方の夢の中に私の魔法で私の世界ーー『グェンレイト』とリンクしている状態で、言わば異世界です」
「え……? 異世界⁉︎ 信じられない……俺の頭がおかしくなったのか……? 魔法? 見せてくれ……もし魔法が本当だったら異世界も信じる。 攻撃はしないでくれよ」
「魔法と言っても貴方が言われている攻撃魔法の他にも、防御魔法、移動魔法など、他にも色々とあります」
魔法はアニメやゲームの話であって、実際あるわけないと俺は思っているーーそんな話をさせても信じれない。
この目で確かめるまでは……。
現に見たことがない。
「……わかりました。今から簡単な魔法を見せますね」
フィルはそう言うと左手を上に伸ばし、詠唱し始めた。
「天より降りし生命の水よ、大地に降り注ぎ、恵みを与えん」
フィルの周りには魔法文らしきものが浮かんでいた。その光景に俺は「マジかよっ⁉︎」と、つい声が出てしまっていた。
「ウォーターレイン!」
詠唱が終わり、空一面に雲がかかり雨が降り出した。
雨を降らすだけの魔法?
「もう一つ見せてくれないか? 今度は攻撃魔法とかで」
疑り深い俺は、まだ信じられなかった。
「わかりました。 では、私から見て十メートル程離れたあの岩を壊しますね」
「雷鳴の如く光の矢、仕留めよ」
「ライトニングレイ!」
目にも止まらぬ速さ、数十本の光の矢は十メートル向こうの岩目掛け、飛んで行った。
「ドドッドドドドドドッ!」と光の矢は岩に直撃し、砂煙が上がり、視界が遮られた。
砂煙が治り岩を確認すると、そこにあった筈の岩は粉々に崩れていた。
「信じてくれましたか?」
……これって夢じゃないのか?
俺は頬をつねった。
……普通に痛いぞ。
俺は頷く事しか出来なかった。事実、本物の魔法を見せられては……。
「それでは本題に移ります。突然ですが、私の世界ーーグェンレイトに来て頂けませんか?」
「え? いや……マジ突然すぎるから……てか何でフィルの世界に行かなきゃないんだ?」
「貴方の中には大いなる力が眠っています。 その力が私……グェンレイトに必要なのです。 魔獣を倒す力が……もしグェンレイトに来て頂けれるのであれば、貴方の生活は保障致します。 食事、寝床、身の回りのお世話など。 必要な物があればなんでも。 それと……わっ・たっ・しっ・ですっ」
五秒程、俺とフィルの間に沈黙が続いた。
どう反応していいのか分からず、フィルの事を見ていた。
この子は天然?それとも素でやっている事なのか……俺は凄く悩んでいた。
空気を察したのかフィルが顔を真っ赤にし、慌てている様だ。
「……何か変でしたか? 貴方の世界ではなにかをお願いするときに使うのではないのですか? お兄様にこれを言えば貴方は来てくれると言ってたのでやってみたのですが……」
あぁ……この子天然だ。何故か俺は少し安心した。
「多分だけど、最後のわ・た・しはおかしいと思う」
「えっ……そうなんですか……お兄様のバカ……」
フィルの兄さんは一体何者なんだ……こんな事を妹に言わせるなんて……襲って下さいと言ってる様なものだろ……。
「まず、なんで俺に力があるってわかるんだ? ただの平凡な高校生だぞ? 俺なんかが本当に役に立てるのか?」
「私は貴方ならきっとグェンレイトを救ってくれると信じてます」
魔獣は何なのか分からないし、怖い気持ちもある。でも誰かを助ける事の出来る力が本当にあるなら役に立つしかないだろ。
……友達に家族と離れる事になるのか。
少し寂しくなるな。特に兄妹と離れるのは……。やっぱりサヤに言われた通り俺はシスコンだったかもしれない。
でも、昨日見た夢がもし本当になったらフィルは死ぬかもしれない。正夢にしない為にも、グェンレイトに行って俺は強くならなければ……。
「……わかった。 フィル、俺をグェンレイトに連れて行ってくれ。 力になれるか分からないけど」
「本当ですか? ありがとうございます! それでは私の手を掴んで下さい。 転生させます」
いままでの景色が消え、全体を優しい光で覆われ、俺とフィルだけが残った。
俺はフィルの手を掴み、フィルは俺の手を引っ張り俺を引き寄せた。
顔と顔が近付き、焦っている俺を見て「クスッ」とまた笑っていた。
「チュッ」
フィルの唇が頬に当たった。俺は顔を真っ赤にさせ、身体中が熱くなった。フィルは照れている俺を見て「ニコッ」と笑っている。
「これはお礼ですっ」
優しい光で覆われた空間は次第に暗くなり、俺の意識が途切れていった。
俺と四人の精霊使い《エレメンタラー》 SattO @Sa-ttO
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