第一章 1話 『平凡な日常』
蝉の鳴き声が耳に障り、朝にもかかわらず部屋は熱かった。
さっき妹のサヤに臭いと言われて若干落ち込んだ……。
とりあえずシャワーを浴び、支度を済ませた。
「だるぅ……」
サヤが作った朝食を食べ、外に出るとタイミング良く自転車に乗る男性が家の前で止まった。
「おはよう、ハヤト」
「本当、いつもタイミングが良いな、リョウ」
自転車を庭から出し、俺はいつもの通学路ルートをリョウと一緒に走り出した。
自転車に乗っていても、風が生温く、余計に汗が垂れてくる。
周囲には日陰になるような所が一切ない。
夏休みに入り、友達の
俺とリョウは昔からの幼馴染。唯一、何も考えず喋る事の出来る親友。
他の友達は上辺だけの関係、深くは関わらない様に自分で制御している。人と接するのが苦手な為、親友と呼べるのはリョウだけ。
ただリョウはクラスの人気者で勉強とスポーツが優秀である。
暑い……夏休みなのに学校に行って補習か。
「午前中だけ補習だよな?」
「俺は部活だから知らねーよ」
「リョウは部活か。 何でお前は勉強もスポーツも優秀なんだよ⁉︎」
※
俺は
女性は好きだが、産まれてから一度も彼女と言う存在はいない。スポーツもそれなりに出来き、モテないわけでもないが……。
リョウは部活をやりに来ているが、俺は補習で学校にーー夏休みの貴重な時間を無駄に……とは言えないか。
事実、テストの点数が悪かった。勉強しない自分が悪いのはわかっている。
特にこれと言って予定があるわけでもないのに休みの日に学校は憂鬱である。
「ハヤトが言ってた夢の女の子って可愛いのか?」
「教えない。リョウも一緒に補習出たら教えてやる」
夢の女性は完璧なる存在、俺の理想をそのまま映し出したのではないかと思うくらいだ。
夢なのに鮮明に覚えている。
ただ……あの子はなぜあんなに悲しそうに歌っているのだろか?
それと。
……いつもと違う夢、獣と戦う女性の姿。
「ハヤト、今日機嫌悪いな? 夢の女の子に振られたのか?」
リョウはニヤニヤしながらそう言った。
「何でもない。 ほっといてくれ」
「うわーハヤトめんどくせー」
「ハヤトー! リョウー!」
後ろから俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。俺は聞こえない振りをし、自転車をこぎ続けた。
親友とは言えないが、唯一まともに話せる女性の友達がいた事、その友達は面倒くさい奴だと言う事を思い出しだのだ。
左に寄せて結んだ赤い髪を靡かせ、自転車で追いかけてきた。
背丈は百五十後半で、目は少しキツく、赤い瞳をしている。顔立ちは良すぎるくらい良く、全校の男子のアイドル的存在ーーただ俺とリョウの前では口が悪い……裏の顔ってやつだ。
夢の女性は表裏がない子であって欲しいと、ユウリを見ると思ってしまう……。
リョウだけは振り返り、「おはよう、ユウリ」と言った。
小さい頃からよく三人で遊んでいた。俺とリョウはユウリのせいでいつも怒られ役に回され、口喧嘩ではいつも泣かされた。それから俺は女性と話すのが苦手になってしまった。
「ハヤトー? シカトですかー?」
「おはよ。 てかその喋り方止めろって。 キモいぞ」
「はぁ? 女性に向かって、キモいはないでしょ!」
「ハヤト、ユウリも止めろって。 二人とも仲良い癖にいつも喧嘩ばっかだな」
いつも俺とユウリの喧嘩を止めるのはリョウの役目だ。だから俺達三人はずっと一緒なんだろうと思う。
『あの男ならグェンレイトを助けられるかもしれない。フィル頼む……』
どこからか声が聞こえてきた気がする……けれど振り返っても誰もいない。
「気のせいか?」
「ハヤトどうした?」
「たいした事じゃないんだけど、なんか誰かに見られていたような……」
「気のせいだろ! てか昨日、他のクラスの子に告られてたろ?」
「あぁ……話した事ないし、タイプじゃなかった」
「もしかしたら、振った子がハヤトの事見てたんじゃないのか? 」
「止めてくれ。本当にそうだったらマジで引くぞ……」
ユウリは何か不満そうな顔でこっちを見ていた。
「へぇーハヤト告白されたんだー? OKすれば良かったのに、勿体なーい。 まぁハヤトが付き合っても続かないでしょうねー」
「ユウリはいちいちうるさいんだよ」
「心配してあげてるんじゃない! 本当、ハヤトは女心が分かってないんだから」
夏休みに入ってまでユウリと言い合いをして補習をする前から疲れてしまった。別にユウリ嫌いなわけではない。いつもの事だ。
心配してくれてるのは分かるが、お節介すぎる。
学校に着き、リョウとユウリと別れ、教室に向かった。
午前で補習が終わり、自宅に帰った。
「ただいま。 誰もいないのか……」
汗でベタベタする身体をシャワーで洗い流し、半袖、短パンに着替え、自分の部屋へ。
部屋は余計な物がなく、あるのはテレビとパソコンとベッドのみ。
暑さと補習で疲れた身体は、ベットに横になった。
ふと、昨日見た夢を思い出した。
獣と戦う女性の姿を。
俺を庇い、倒れて動かなくなってしまった女性を……。
「はぁ……あんな夢、もう見たくない……。 夢の中なら変えられるかな? 俺はあの子を助けたい……!」
両目を瞑り、右腕で塞いだ。
女性の事を考えていて、いつの間にか俺は眠っていた。
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