……王族

 アルレシアのお父さんとお母さん達のいる所へと向かうと言ったな?

 あれは嘘だ。

 と言うよりも、出来なかった。

 理由は簡単。中庭から建物内へと入る扉や通路が何処も狭くて俺が通り抜けられなかったからだ。

 いや、まさかこの巨体が通らない作りになっているとは思わなかった。

 アルレシアの弟アルレンくんがいたという事で察していたが、やはりここは王城に備えられた中庭の一つだそうだ。

 しかも、中庭のうちで最も狭く、王族や護衛の方々以外は基本立ち入る事が出来ない半ばプライベートゾーンとして確立している場所。

 特に大荷物をこさえてやってくる用事はないらしく、ここへと来る道や扉の大きさは相応のものになっている。

 故に、俺は通る事が出来なかったのだ。この立派なフリルが邪魔してな。あと、角が。

 俺が移動出来ないという事でアルレシアのお父さんとお母さん達がいる場所へと向かう事は諦めた。

 なので、アルレシアのお父さん達をここに呼ぶ事になってしまった。

 アルレシア曰く「父様も母様も妹達も特に気にしないから」と軽い調子で黒服さん達にここへと来るように頼んでしまったのだった。

 ……一国の王を出向かせていいのだろうか? まぁ、娘のアルレシアが言うんだから、多分大丈夫だろう。

「とゅわっ!」

 で、一分も待たずに何やらランニングシャツとハーフパンツを身に纏ったいい感じに肉体が引き締まっているナイスミドルなおじ様が中庭に入って来ると同時にアルレシアへとサマーソルトキックを繰り出して来た。

 アルレシアはそれを冷静に対処し、そのままアルレンくんにしたように足を掴んで池へと投げ飛ばそうとした。

 けど、それよりも早くナイスミドルなおじ様が魔法をぶっ放してアルレシアに直撃させる。魔法の直撃を受けたアルレシアは僅かによろけるも、強行して足を掴もうとする。

 魔法の直撃により、僅かに動きが鈍ってしまいアルレシアは足を掴めず、ナイスミドルのサマーソルトキックは彼女の顎を的確に打ち抜いた。

 普通なら、これで仰け反ったり意識を奪われたりするだろううけど、アルレシアは気合で。もしくは魔力流動による身体強化で耐え抜き、ナイスミドルなおじ様が着地する寸前に彼の腹に掌底をお見舞いする。

 アルレシアの掌底は、まるで予期していたかのように受け止められてしまう。

 暫し視線を交わす二人……。そして互いに笑みを浮かべる。

「ふむ、強くなったではないかアルレシア」

「お褒めに預かり恐悦至極だ父様」

 どうやら、このナイスミドルなおじ様はアルレシアのお父さん――つまりは王様のようだ。

 ……えぇ。マジかよ。肉体こそ引き締まってるけど、服装は完全に夏場の休日家でくつろいでるお父さんだよ。王様の威厳なんて欠片もないよ。よくよく見れば、あの宝石が埋め込まれた腕輪をしてるけどさ。

「そうね。もう少しでサイロンを越えるんじゃないかしら」

「それは本当か母様?」

 そして、王様に遅れる形で入ってきた女性はアルレシアのお母さん――王妃様らしい。王妃様は純粋に娘の成長を喜ばしく思っているようで、にこにこと笑顔をアルレシアに向けている。

 ……娘を褒める王妃様の恰好も、朝方ジョギングをするご婦人のような服装だ。端的に言えば、ちょっと地味眼の色合いをしたレディースジャージを身に纏っている。ちょっと長い髪をポニーテールにして纏めている。因みに、ポニーテールに纏めているバレッタ……って言うんだっけ? に王族の証である例の宝石が取り付けられている。

 何だろう……俺の中で王族イメージが音を立てて崩れて行くぞ。

 王族って、もっと煌びやかで、威厳と言うかオーラがあって、凄みがある人達だよね?

 でも、今俺の目の前で朗らかに笑いあっている三人の王族はどうみても王族に見えない。お転婆娘に休日のお父さん。そしてジョギングが趣味そうなお母さんと言う普通の一家にしか見えない。

「あ、姉様だ」

「本当に帰って来てた」

 と、今度は瓜二つの顔をした少女達がやって来た。多分……と言うか確実にアルレシアの妹達あろう。見た目的にアルレシアの一つか二つ下くらいに見えるし、アルレンくんより年上なのは確実だな。そして恐らく双子だ。

 片方は眠そうな目をしており、長い髪を纏めて右肩に掛けている。もう片方は目をパッチリ開けていて、長い髪を纏めて左肩に掛けている。王族の証である宝石が埋め込まれた指輪は二人共右の中指にしている。

 彼女達の服装は………………やはりと言えばいいのか、王族とはかけ離れたものだった。

 一言で言えば部屋着だ。だぼだぼでよれよれの半袖のシャツにほつれが目立つハーフパンツ。長年着古しました感が半端が無い。物持ちがよい、と言えば美徳だけど、袖も首回りも伸びきって波打っているのを見ると流石に捨てるか雑巾にしろよ、と言いたくなる。

 そして、二人の着ているシャツには文字がプリントされているのだ。片方が『そろそろほんきだす』で、片方が『ねばーぎぶあっぷ』と書かれている。

 しかも、だ。これらの文字は日本語なのだ。しかもひらがな。どうして日本語で、そしてひらがなで書かれているのか謎過ぎる。フォーイさんに言葉を習った時に日本語は一切出てこなかったんだけど……何故だ? 何故異世界に日本語が存在する?

「おー、アルラにアルリじゃないか。久しぶりだな」

「久しぶり姉様」

「相も変わらず元気そうで何より」

 妹達の姿を確認したアルレシアは笑顔で彼女等の下へと歩み寄り、そのまま肩に腕を回して二人を同時に抱きよせる。

 抱き寄せられたアルラちゃんとアルリちゃんは表情をあまり変えなかったけど、僅かに口角を上げて何処か嬉しそうにしている。そりゃ、一年以上も会えなかったんだから、嬉しくない訳ないか。姉妹中が悪くなければ。

 にしても、王族って結構ギスギスしてたり乾いてあり、どろどろしてたりって印象が強かったけどアルレシア達の家族仲はかなりよさげである。

 家族仲が良好なのはいい事だけど……やっぱり王族には見えないよな。

 …………もしかして、この世界の王族の正装ってラフな感じなのかな? って思った瞬間だった。

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