VSスティさんその1

 アルレシアとあれやこれやして、ディアやアオダくん達に色々と手伝って貰い、遂にスティさんとのガチの模擬戦の日がやってきた。

 模擬戦を行う場所は何時も模擬戦をやっている広場であり、その中央に俺とアルレシアが経ち、向かいにはスティさんが佇んでいる。周りには空を警戒しているベルティーさんと今の時間に外へと続く道を守っているスイギさん以外の守護獣の皆さんが見守っており、他の皆もぐるりと円を描くようにステイさんを囲んでる。

 この二日はスティさんと全く言葉を交わす事はなかった。互いに逢えば会釈はしたけどそれだけ。夜も俺はスティさんとではなくアルレシアと寝ていた。

 アルレシアとの連携は、まぁ、形にはなった。アルレシアが来てからの一年で模擬戦も行っていたし、その中で彼女とコンビを組んだ複数戦もした事があったから、ある程度は感覚と言うのが残っていたのも大きいな。

 そんな訳で、俺とアルレシアは互いに邪魔をせず、そして援護が出来るフォーメーションが完成したのだ。

「双方とも準備はいいか?」

「えぇ」

「あぁ」

「ブォウ」

 審判役を買って出てくれたフォーイさんの言葉に、俺達は頷く。フォーイさんは近くに鎮座している岩の上に座っており、そこから俺達の様子を見る事にしたようだ。

 ルールの再確認はされない。しなくても分かるしな。俺達はスティさんに有効打を一撃入れればOK。逆に入れられずに力尽きたら俺達の負けだ。

「では、始めだ」

 フォーイさんの合図と共に、俺とアルレシア、そしてスティさんが動き出す。

 まず、俺の隣りに立っていたアルレシアが俺の背に乗ってくる。俺は乗りやすいように少し屈む。

 これが俺とアルレシアのコンビネーションの一応の完成形だ。アルレシアが騎乗する事により、まず離れ離れになる心配はほぼなくなるので、孤立し難くなる。更に、基本は移動は俺が担当し、アルレシアが魔法弾による攻撃を行う。互いに役割を分担して個々の負担を減らしている。そして、視野に関しては後方はアルレシアに頼む事により、彼女の言葉によって的確な行動をとれるようにしている。

 アルレシアが俺に騎乗した状態での戦闘は最初はあまり上手くは行かなかった。主に、アルレシアが振り落とされる敵な意味で。

 鞍何てついていないので乗り心地も悪いし、足を引っ掛けるフックも無いので踏ん張りが利きづらい。そのような状態で乗っていれば、急にターンでもしようものなら吹っ飛ばされてしまう。

 事実、アルレシアは何度も吹っ飛ばされた。現在は俺の背中に足を着いて中腰の姿勢となり、フリルを掴んで姿勢を制御し振り落とされないようにすると言う力技で無理矢理解決している。

 因みに、スティさん相手に個別で移動して挟み撃ちをする……何て真似はしない。そもそも通用しないから、俺がスティさんの後ろを取ってもアルレシアが後ろを取っても結果は変わらず、どちらか一方を即行で沈めて残りを倒すって感じにやられる未来が容易く想像がつく。

 なので、ばらばらに行動するんじゃなくて、一所に纏めて……と言うよりも騎乗して貰った方が攻撃に関しても防御に関してもよくなる。

 アルレシアが騎乗スタイルを取ったのを感じてから、俺は一旦スティさんから距離を開ける。その際に、アルレシアが三発程魔法弾をスティさんへとぶっ放す。

 スティさんはアルレシアの青白い無属性の魔法弾を避けようともせず、そのまま直撃を受ける。しかし、スティさんの身体には傷一つ付いていない。

「威力はまぁまぁね」

 涼しい顔して魔法弾を受け切ったスティさんの身体には清らかな光に包まれる純白の鎧が纏われている。先程まで鎧なぞ来ていなかったけど、魔法弾が当たる直前に纏ったのを俺は見た。

 あれはスティさんのギフト【聖鎧】によって生み出された鎧だ。

 ギフトとは、魔法とは別の力で、何でも理の外にある力……らしい。生まれた時から持ってたり、ある時突然典型と共に与えられたりするからギフト、だとか。

 で、このギフトは持っているひとはかなり少ないらしい。この箱庭の森でもギフトを持っているのはスティさんを除けばアルレシアしかいない。

 ステイさんのギフト【聖鎧】は聖属性の性質を持つ鎧を瞬時に生み出して身に纏う事が出来る。その鎧の強度は今ではベルティーさんの攻撃にも耐える事が出来る程に昇華されている。

 事実、アルレシアの放った魔法弾が直撃しても鎧には傷一つない。この鎧を纏っているスティさんに有効打を与えるとか……正直無理っぽいなぁ。

 でも、鎧だって全身隈なく纏っている訳じゃない。関節部分は動きを阻害しない為に、目や鼻、口は視界や呼吸を確保する為に鎧で覆われていない箇所が存在する。有効打を与えるとなると、そこを狙うしかない。

 アルレシアもその事を分かっているので、今度は小型の魔法弾を連射し、鎧に覆われていない部分へと攻撃を仕掛ける。

「甘いわね」

 しかし、スティさんは光属性の魔法をバリア状に展開し、アルレシアの小型魔法弾を全て打ち消す。

「うげっ、やっぱそうやって防ぐかぁ」

「そろそろ私からも行くわ」

 そう言うと、スティさんは駆け出し、俺へと突進してくる。やや顔を下に向け、角ですくい上げるかのように襲い掛かってきたので、俺はその軌道を逸らさせるような形で角をぶつける。

 角と角がぶつかり合い、軌道が逸れた所で俺はそのまま追撃していく。接近戦の場合は俺は移動ではなく攻撃を仕掛ける。その際アルレシアは俺と一緒に攻撃を仕掛けるか、周りに意識を割くかのどちらかを行う。今回は周りを気にする必要がないので、そのまま追撃を行って貰う。

 しかし、アルレシアが魔法を使ってスティさんを攻撃しようとするよりも早く、スティさんは俺を迎え撃ちながら光属性の魔法弾を放ってアルレシアを攻撃していく。

 アルレシアはそれを相殺する為に魔法弾を撃つ事となり、スティさんを狙えずにいる。スティさんは俺と角のぶつかり合いをしているにも拘らず魔法を使う余裕さえ見せている。

 角でのぶつかり合いは角の長さや本数から行っても俺の方が有利に見えるけど、スティさんに段々と競り負けて行っている。最初は勢いのままに首の筋肉をフル稼働させて頭をぶん回し、角で乱舞を行っていたけどスティさんはそれをことごとく対処し、尚且つ隙を見て俺に攻撃を仕掛けて来るのだ。

 こっちは我武者羅に攻撃し、スティさんは冷静に対処している。そう言った精神的な面でも、あと体力的な面でも俺は負けており、最初の勢いがなくなって角での攻撃が僅かに遅くなる。それを見逃すスティさんではなく、段々と角での攻撃速度を上げて行き、終いには俺は防御に手一杯となった。

 やっぱり正攻法じゃスティさんには勝てないか。ここは一度離脱して体勢を立て直さないと。

 アルレシアは未だに魔法弾で光の魔法弾を相殺するのに手いっぱいなので、自分でどうにかするしかない。

 俺は一度大きく頭を振って角でスティさんに攻撃する。そのはんどうをりようして 体を回転させ、そのまま尻尾攻撃を行う。スティさんは飛び退って俺の尻尾を回避する。その隙に俺は駆け出してスティさんとの距離を開ける。

 正面からの打ち合いは技量的にも俺に勝ち目はないので、ここは奇抜……と言うよりも予測出来なさそうな方法で攻めて行くとしよう。

 俺は右前脚で地面を擦り上げる。それが合図となり、アルレシアは魔法弾の発射を中止して両手で俺のフリルを思いっ切り強く掴む。これで準備は万端だ。

 俺は真っ直ぐとスティさんを見据え、そのまま全速力で突進していく。

 それは傍目から見れば威力は乗っているが愚直に真っ直ぐ突き進んでいるように見えるだろう。事実、スティさんは少し呆れ顔を見せ、余裕を持って回避しようとする。

 スティさんが回避行動を取る寸前、俺は更に加速する。

「っ⁉」

 最初から全速力で突っ込んできていたと思っていたスティさんは俺の加速に驚き、僅かに硬直する。その隙を逃してはならないと俺は更に加速して角で鎧に覆われていない関節の内の一つに狙いをつける。

 しかし、硬直が解けたスティさんは思い切り横に跳ぶ事で無理矢理回避して退けた。流石スティさんと言った所か。ディアとかアオダくんなら直撃を受けていた筈なんだけどな。

 俺の角はスティさんを捉える事は出来なかったけど、鎧に少し掠っって傷をつけた。アルレシアの魔法弾でも傷がつかなかった鎧だけど、俺の突進で傷をつける事が出来たのは予想していなかった。

 因みに、加速する前の俺の速度は、ちゃんと全力だった。本来なら、それ以上は速度は出ない筈だった。

 しかし、偶然見つけたある方法により、俺は更に速度を上げる術を身に着ける事が出来たのだ。

 速度の増加により、俺の巨体から繰り出される一撃は更に重い物となった。それ故に、スティさんの鎧を掠り傷とは言え傷付ける事が出来たのだろう。

 俺は急ブレーキを掛けながらUターンし、そのまま再びスティさんへと突進していく。

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