第8話

魔物たちの別動隊は、湊達に応戦する部隊と反対側の位置から街を目指していた。

街の姿が、地平線を超えはじめると、魔物たちの鼻息が荒くなる。

歩は早まり、皆街だけを見据え殺気立つ。

それゆえに、後方から攻められるなど全く思いもしていなかった。

『グフッ!』

一匹の魔物が急に倒れる。

その背中に刺さる矢に他の魔物は気づき、後ろを振り返る。

魔物たちの視界には、多くの矢と魔法が自分たちに飛んでくるのが映りこんでいた。

だが、とっさに反応できるものはいなく、攻撃をすべて諸にくらう。

多くの魔物が倒れる音で、指揮権を持つ魔物は事態を認識し声を上げる。

「構うな! 街に突っ込め!」

魔物はその声に従って走り始める。

だが、その判断こそが敗因だった。

後ろから、矢と魔法こそ多く飛んできたが、それを放ったのはほとんどが非戦闘員だ。

数も魔物に比べれば少ない。

奇襲にあったために、混乱し大勢いると感じてしまったのだろう。


                        ●


「一部の兵士と非戦闘員で構成した40人ほどの部隊で、魔物の住処を攻め立てることで魔物たちに総攻撃立ち勘違いさせる。魔物たちはしてやったりと思い、この前俺たちがやったように相手の本拠地を攻め立てようと、別動隊を送る。それを見越して配備しておいた、ほとんどが非戦闘員の部隊で背後を突き、街に残しておいた、主力部隊とで挟み撃ちにした、って感じかな」

湊は、ベッドに入ったまんまのサリオンに報告する。

「すごかったよ」

湊は言った。

「それは悔しいな」

サリオンは、自分にはできなかったことの成功を聞き悔しがる。

「その後はどうなった?」

「魔物たちは、どこかほかのところに行ったみたいだよ。見に行ってみたけど、住処だった場所にはもういなかった」

「そうか。伝えてくれてありがとう」

「ああ、じゃあ行くな」

湊が部屋を出る。

一人になったサリオンは、奥歯をかみしめている。

湊との戦いでできた傷の後を触り、魔物の矢が刺さっていた場所をさする。

そのまま、サリオンはうつむいていた。


                       ●


「完勝だね!」

シリルは、腕を組み胸をそらす。

「そうですね」

リーファはぶっきらぼうに答える。

勝利を喜んでいるのだろうが、素直にシリルのことを受け入れられないのだろう。

「いや~、ボクの今回の活躍はすごかったな~」

「そうですね」

「街のみんなにも褒められたし」

「そうですか」

「そうだ、湊君にほめてもらいに行こう。あわよくば交際を」

シリルは、さも思いついたかのように言って、その場を離れようとする。

直後、その動きが不自然に止まる。

リーファが、シリルの腕をつかんだのだ。

鼻の穴を膨らませ、息を荒げ、シリルをにらむ。

「もっと、シリルさんの武勇伝が聞きたいなー」

リーファは笑顔で言うが、その目元は笑っていなかった。

シリルの顔が絶望に染まった。

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