第7話 リベンジ
「無事に、敵を追い払うことはできましたが、集落への攻撃をやめることになってしまいました」
一匹の魔物は、男に報告をする。
魔物の表情は、恐怖に染まっている。
作戦の失敗の責任を問われるのではないかと思っているのだろう。
だが、男にそれを気にする様子はない。
「やはり、難しいな……」
男は、魔物を無視して、顎に手を当て思考に集中する。
「あの……」
男はなおも魔物を無視し、立ち上がる。
「すこし、ここを離れる。すぐに戻るが、その間のことを任せる」
男はそれだけ言うと、退出した。
魔物は、処罰のないことに喜んでいた。
●
襲撃を退かせた翌日のことだ。
「すぐさま、攻撃を仕掛けるべきです」
シリルは、昨日の働きもあり、街の軍師として会議で承認されるた。
すると、すぐに意見を発した。
部屋の中がざわめき始める。
皆、理解が追いつていない。
「どうして、そう思うのかね?」
アムロドが皆を代表して尋ねる。
「いまなら、魔物たちが混乱しているおかげで、より攻撃の効果が期待できます。例えば、夜中に湊さんが軽く奇襲を仕掛けるだけでも構いません。下手に向こうを落ち着かせてしまえば、数で負けるこちらが不利です」
会議に参加する面々は、首をかしげる。
判断をつけかねているのだろう。
「……こちらの兵は、大した訓練を受けていません。今を逃せば、まけは畢竟かと思います」
シリルが、強い口調ではっきりと言い放つ。
「わかった。それでは、いつ攻めるべきだと考えている?」
アムロドが尋ねる。
「四日後に本格的に攻めたいと思います。ただ、今日の夜、湊さんに夜襲をお願いしたいです」
アムロドは、湊のほうを見る。
その目は、湊の意思をうかがっている。
「俺は構わないけど、大した被害は出せないよ」
「それで、構いません。とにかく、奴らを落ち着かせないことが重要なんです」
その後作戦の詳細を伝えられた。
終始、リーファはむくれていて機嫌が悪かった。
●
その日の夜、湊はリーファとともに魔物の本拠地へと向かっていた。
「別に、ついてこなくても大丈夫だよ」
湊はリーファに言う。
「いいえ、もしものことがあったら心配です。それに……」
リーファの鋭い視線は、もう一人の同伴者に向けられていた。
「どうしたの?そんなににらんで。ボクに何か用かい?」
シリルである。
彼女は、湊の負担を軽減するためについてきた。
危険な命令を下すことに対する罪悪感が、あるのかもしれない。
湊ほどの、ステータスではないが、おそらくリーファよりは強い。
「……いいえ。何でもないです」
リーファはそっぽを向く。
シリルがついてくる以上、湊についていかないわけにはいかないのだろう。
その後、三人は魔物に多少の被害を与えて、街へと戻っていった。
帰り道でも、リーファは不機嫌だった。
そのうえ、シリルがリーファをからかう行為を繰り返したために、湊を挟んで口喧嘩が行われた。
「……勘弁してくれよ」
湊の言葉は、二人に届くことはなかった。
●
作戦当日、湊はシリルの率いる部隊とともに魔物の本拠地へと向かっていた。
その数は、40程でそれなりの数を用意している。
「突撃!」
シリルの合図とともに、矢と魔法が魔物を襲う。
柵があるため、突っ込むことは危険だ。
そのため、少し離れた位置から攻撃を行う。
魔物も負けじと矢を弓につがえて放つが、そのほとんどは湊とシリルによってはじかれる。
「あと、どのくらいだと思う?」
湊は、シリルに尋ねる。
「まだ、もうちょっとかかると思います」
「そうか」
二人は、俊敏な動きで剣を振るい、矢を打ち落としているが、まだ余裕があるようだ。
「ところで、なんであんなにリーファのことをからかうんだ?」
「それは、もちろん湊さんを奪うためですよ」
シリルの声は、抑揚がなく棒読みだ。
湊は、眉を顰める。
「で、本当は?」
「いや、楽しいんですよ。あんなに好き好きオーラを出している子を放ってはおけないですって」
「……そうか」
「湊さん、顔が赤いですよ」
湊はリーファの自身に対する気持ちを、客観的に知り口元を緩めていた。
●
「くそっ!よりによって今じゃなくても」
指揮を任された魔物は声を荒げる。
男がこの場にいないことを恨んでいるのだろう。
「敵の数は!」
その声に、周囲の魔物が40と答える。
魔物は、何とか冷静になって考える。
直後、魔物は笑みを浮かべる。
(あの、村の規模では40と言ったら、全兵力なんじゃないか?)
魔物は至急、150ほどの魔物を集める。
「今のうちに、奴らの集落を襲え! この前の仕返しだ!」
魔物の叫ぶ声にこたえ、魔物たちは湊達の街へと湊達に遭遇しないように進行を始めた。
これは、まさしく先の戦いで魔物がくらった戦略だった。
自分たちが被害を受けただけに、皆自信満々に街を目指す。
攻められている場所とは反対側の位置から本拠地を出て迂回していく。
それを阻むものはなく、やがて湊達の街が地平線から顔を表した。
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