第3話 再会

「「・・・・」」

湊とリーファは同じテーブルについて、朝食を食べているが、その間に一切会話がない。

互いに、何か言おうとするそぶりもあるのだが、果たしてそれが正しいのかわからず躊躇してしまう。

「アムロドさん、ごちそうさまでした」

「うむ」

事態を知っているアムロドは、気を使って何も言わず二人を見守っていた。

「それじゃあ、課題の説明準備があるんで先に集会場に行ってます」

「わかった。私たちも後から行く」

結局、二人は一言も交わすことができなかった。


湊がいなくなってから、アムロドは思い切って尋ねてみる。

「リーファ、どうしたんだ?湊君と喧嘩でもしたのか?」

「いえ、湊君は悪くないんです。ただ、私の気持ちの整理がつかなくて・・・」

ここで、彼女が湊に抱いている感情は恋愛感情なのだと説明すれば、事態の収拾はすぐにつくだろうが、これは彼ら、二人の問題なので無理に手を出すべきではない。

「そうか。まあ、何かあったら、いつでも相談しに来なさい」


集会所で建国会議のメンバーに、食料問題の解決策を、湊が説明するも反応は芳しくなかった。

ちなみに、建国会議というのは、建国にかかわるものの中で重要な人物や、能力の高いものを集めて、方針、事業などを決めるためのものだ。

湊が提示したのは、三圃式農業だ。これは中世ヨーロッパで導入されていた方法だ。

農地を、3つに分け、夏畑、冬畑、休耕地としてローテーションして用いることで、土地やせを防ぐ方法だ。

休耕地では、家畜を飼育し、その排泄物で知力の回復をはかる。

反応が良くなかったのは、ハーフたちが、差別の対象であるために、技術を教えてもらえないので土地やせを知らなかったのからだ。

そこで、土地やせの概念を教えると皆すんなりと受け入れてくれた。いったことをすぐに信じてくれるのは、湊が、信頼を獲得し始めている証拠だろう。

「よし。それじゃあ、湊君に今回の事業の主任をやってもらおうか」

アムロダが提案する。

「え!でも、俺リーファの護衛役があるんですけど・・・」

「今は、こちらも重要だじゃからな。しかも、君しかその知識を有しておらん」

会議メンバーの一人がそういうと多くが、賛成する。

「じゃあ、護衛はどうしますか?」

「湊さん、大丈夫ですよ。しばらくは、街をでませんから」

昨晩から口をきいていなかっただけだが、声を聞いたのが随分と久しぶりな気がする。だが、その声にはいつものような活力はないし、向けてくる笑顔も虚ろだ。湊は、口を開くことができない。

「もう、すぐに、サリオンも起きるじゃろう。とりあえず、奴に任せたらどうじゃ?」

湊は、いったんリーファの護衛から外れることになってしまった。


数日後のお昼ごろ、湊は気力の修行もかねて、新たな農地の開墾予定地を探して、街から出ていた。

「ふんっ!」

斬撃を魔物に向かって飛ばすも、途中で霧散してしまう。

サリオンとの決闘以来、一度もうまく発動できていない。下手に、訓練場で修行すると人にけがをさせかねないと、外で行わざるを得ない。

威圧感を抑えているため、目の前の魔物が逃げることはないので、気力の修行が実践的にできる。

数時間ほど、続けていると遠方に魔物の群れが見える。目を細めると、少女が、魔物に囲まれているのが見えた。

とっさに、威圧感を放ち魔物を追い返し、少女のもとに近づく。

「大丈夫?」

しゃがんで泣いている少女に、目線を合わせて話かける。少女は頭に、獣耳を持っていて、おそらく10歳に満たない。

「うぅぅぇわああああぁぁぁぁぁん!」

少女は、大声をあげて泣き、だきついてきた。

「よし、よし」

頭を撫でて、少女をあやす。

その後、数十分間少女は泣き続けた。


「お嬢ちゃん、どうしてこんなところにいるの?」

少女が泣き止んだ頃に、少女は抱き着くのをやめたので、落ち着いたのだろうと思い、尋ねた。

「えっ、、ひっ、、えっ、えっとね、、わ、私ねヒューマンと獣人族ランカンスロープの、、ハッ、ハーフなの」

まだ、呼吸が整っていない。手をにぎって落ち着かせる。

「近くの、街から来たの?」

「ちっ、違って、、、そこに 、行こうとしてたら、、襲われて、、」

「、、そっか、じゃあ一緒に行こうか」

そういって、彼女の手を引いて街に帰った。


集会場に行くとアムロドさんがいたので、事情を説明した。

「うむ。そうか。いろいろ聞きたいこともあるが、また明日にしよう。とりあえず今日はうちに泊まりなさい」

「はっ、はい!ありがとうございます」

今まで、他人の好意をあまり受けていないだろう少女は、泊めてもらえることに喜んでいた。

「うむ。いい返事だ。お名前は?」

「えっと、、フィオです」

「私は、アムロダ。そっちの、君を連れてきてくれたお兄さんは湊君だ」

「おっ、お兄さん!た、助けてくれて、ありがとうございました」

ぺこりとお辞儀するしぐさが、可愛らしい。

その後、数日共に過ごすうちにすっかりなつかれてしまった。


フィオは、以前ヒューマンの村に、ヒューマンの父と住んでいたらしいが、お父さんがなくなってしまい、後ろ盾がいなくなってしまったため、差別を受けるようになったため、風のうわさに聞いた、この街への移住を決心したらしい。ハーフは、その血の半分がそこで反映する種のものなら、純粋な異種族と違い奴隷にされることはないが、それでも風当たりは強いし、いじめられもする。だが、そのことを加味してもフィオの行動力は目を見張るところがある。

年齢は、まだ九つほどで、少し人見知りなところがあるが、年相応に活発な少女だった。最近は、どこに行くにもついてきたがるので、湊は妹ができたように感じていた。


湊が護衛から外れて、二週間ほどたったころ、湊についてまわるフィアにリーファはふいに嫉妬を感じる。

自分が、しばらく湊とまともに話していないからだろうか。思いがけない、その感情に戸惑う。リーファもフィアとは仲が良いし、妹のように思っている。まして、リーファと八つも年の離れた少女に、そんな気持ちを抱くのはおかしい。

湊と距離があいたことで、気持ちの整理がつき始めていたころに再び、新たな感情が芽生える。

もう一度、同じことを繰り返すのは嫌だった。これ以上、湊を困らせたくない。

ある日の夜、湊とフィアが寝たころに、思い切って父に相談することにした。

「お父様、相談したいことがあるんですけど・・・」

テーブルについて、本を読んでいる父の向かいに座り、話しかける。

「うむ、聞こうか」

アムロドは本を置き、こちらに顔を向けた。

今までのことを、一通り説明した。もちろん、うまく言葉にできないところもあったが父には伝わったようだ。

「湊さんに対する気持ちの整理がつかないんです。そのせいで、取り乱してしまいました。そのうえ、最近では、なぜだかフィアが妬ましく思えてしまうんです。あんな小さな子に、なんでそんなことを思うのカ不思議でならないんです」

「最近、フィアちゃんは湊君にべったりだね」

「え、ああ、はい。そうですね。それが、どうかしたんですか?」

急に話題をかえられ、リーファは驚く。

「それに対して、お前はろくに口もきいていない」

「・・・はい」

本当になんなんだろうかと、いぶかしく思う。

「お前は湊が建国に協力してくれているのが、恩返しのためだけなのか、加えて、そのせいで彼に無理をさせているのではないか尋ねたいようだが、どうして聞けないでいる?」

「なぜだかわからないですが、怖いんです」

「それじゃあ、今私が言ったことを考えてごらん」

言われる通り、思考に集中する。

フィアに嫉妬したのはなぜだろうか、聞きたいことを聞けずにいるのはなぜだろうか。

しかし、答えは見つからない。

「慌てず、がんばりなさい」

そういって、アムロドは離れていった。


湊が集会場に行くと、サリオンがいた。

今日は、農業主任としての仕事できているため、フィアはアムロドに預けてある。

「ひさしぶり、いつ復活したの?」

「もうずいぶん前に、体は治っている。たまたま、お前にあわなかっただけだ」

「ふ~ん、そっかお大事に」

特に話すこともないので、踵を返しその場を去ろうとすると肩をつかまれた。

「おい!まて、聞きたいことがある」

「なんだよ。これでも、忙しいんだよ」

「そ・・そのだな・・」

柄にもなく、緊張しているようだ。

「なんだよ。早くしろよ」

「そのだな、お前はリーファのことをどう思っている?」

湊は自分の気持ちを見つめなおす。すると、一つの結論に行きつく。

きっかけは、やはり、彼女に慰められたことだろう。彼女に、どれほど救われたことか。

だが、それはきっかけに過ぎない。彼女のやさしさや、茶目っ気あふれる行動に触れ、過ごしているうちにリーファに惹かれていったのだろう。だからこそ、サリオンとの戦いで、ぼろぼろになるまで戦い、建国にも進んで従事しているのだろう。

「好きだよ」

心拍が上がる。

「やはり、そうか。お前なら任せられる。よろしく頼むぞ」

そういって、サリオンは湊の肩をたたき、去っていった。


湊は、すぐに告白を決心する。

現状は確かに最悪だが、思い立ったら行動せずにはいられない。

下手に、ウジウジしているうちにほかの男にとられるかもしれない。そう思うと、止まることはできない。


その日の夜、リーファを訓練場に呼び出す。

周りには誰もいない。

気配を感じ、そちらを見るとリーファがいた。

「リーファ、あのさ話があるんだ」

緊張で声が震える。

「それはもう知ってますよ」

そういって微笑んでくる。

「俺さ・・リーファのことがさ…」

緊張がマックスに高まり、頭が真っ白になる。

心臓の音が、強くなり、大きな一つの心臓になったような気がする。

緊張のあまり、体に力が入らず倒れそうになる。

「湊さん!」

今度もまた、リーファに抱き支えられる。

抱き支えられ、心が落ち着き決心がつく。リーファから体を離して、彼女の瞳を見つめる。

「俺、リーファのことが好きなんだ。はじめは、心を救われたことがきっかけでさ。でも、今は、それだけじゃなくて、リーファと過ごして、リーファのやさしさに触れて、ひかれてるんだと思う」

よどみなく、言葉が出てくる。

「じゃあ、湊さんがぼろぼろになるまで戦ったのは、毎日遅くまでレポートを作ってたのは、私に貸しがあるからだけじゃないんですか?」

「もちろん、恩返しをしたいとも思うけど、リーファの横にいたい、リーファのためになりたい気持ちのほうが強かったんだと思う」

リーファがそのことを知り、自分が何に悩んでいたのか気づき始める。

自分も湊のことが好きなのだ。だから、フィアに嫉妬し、自分のせいで湊に苦労させているのではないかと不安に思い、また彼に対する貸しだけが自分たちをつなぐものではないかと心配になっていたのだった。今まで、湊が好きなのだと気づかなかったために悩んでいたのだ。

「私も、湊君のことが大好きです」

自然に、言葉が出る。

「これからも、よろしくお願いします」

そういって、リーファは微笑んだ。

湊は、久しぶりに彼女の笑顔を見た気がした。

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