第2話 建国予定地到着と同時にひと騒動【後編】

約束の日、朝食を済ませると湊はまず集会場にむかう。

勝負は午後1番に行われるので、先に食料問題についてのレポートを提出し、勝負の間にそれを吟味してもらう。


集会場に行くと、アムロドさんが待っていた。

「どうだい、出来のほうは?」

「たぶん大丈夫だと思います。文字が理解できたのでよかったです」

こちらの世界の文字は日本のものとは違っていたが、読み書きは自在にすることができた。

「それじゃあ、あずかろうか」

「はい、お願いします」

レポートの入った封筒を提出する。

「ところで、今日の決闘のほうは勝てそうかい?」

「はい、リーファにエルフの魔法対策を教えてもらったんで大丈夫だと思います」

「うむ、そうか。では、私からは一つだけアドバイスさせてもらおう。ハーフの戦い方は、言い方は悪いが卑怯だ。何せ昔から差別を受け大人数を相手にしてきているから悪知恵が働く。予期せぬ事態にも冷静に対応なさい。あと、試しに卑怯な手を使っているといい。あいつらはやり慣れてはいるがやられ慣れてはいないからな」

湊は頷いて、アムロダの忠告を胸に刻んだ。


集会場を出ると、リーファがいた。どうやら湊を待っていたようだ。

「湊さん、お昼はどうしますか?」

湊のもとへやってきてそういった。

「食べた直後は動きが鈍るから決闘が終わってからにするよ」

「そうですか、じゃあ訓練場でウォーミングアップしましょうか」


二人が訓練場に到着したのは決闘開始1時間前だが、すでに訓練場には決闘相手であるサリオンがいた。

一応、湊を除いて街一番のつわものらしい。

仲良く歓談している様子を見て、サリオンは嫉妬の炎を燃やしているが二人はそんなことを知るはずもない。

「サリオンの奴やけに、早く来てるな」

「そうですね、でもまあそういう性格のやつなんで気にしなくていいと思いますよ」

「リーファはサリオンと仲がいいのか?」

「ええ、一応幼馴染です」

「へえ、そうなんだ。また今度詳しく聞かせてよ」

湊も無意識のうちにサリオンに対して嫉妬を抱いているようだが一切本人は気づかない。


湊が入念なウォーミングアップを済ませたのは開始5分前だ。

そのころには訓練場に多くの観客が集まっていた。

聞こえる声援はほとんどサリオンへ向けられたもので完全にアウェーだ。


サリオンと対峙する。

強者特有の威圧感を感じ、こちらも負けじと威圧感を放つと声援は黙り込み会場に緊張が張り詰めていく。

審判がやってきて、ルールを説明する。

武器は互いに木刀で時間無制限、一本勝負。砂かけ、目つぶしなど反則はないが、殺すことだけは認められない。

「はじめ!」 

審判が叫び、ついに戦いの火ぶたが切られた。


湊は決闘開始と同時に魔力を周囲に広げ、魔力探知を行う。

稽古のかいあって、魔力探知は完ぺきではないが行えるようになった。

互いに動かずに、手の内を読みあい時間が経過していく。

しびれを切らしたのか、サリオンから自分に伸びてくる魔力を感じる。とっさにその場を離れると、元いた場所で爆発が起こる。

一般人では致命傷になるだろう威力だが湊は高いステータスのためにそうはならない。そのため、サリオンは加減することなく戦うことができる。その点は、サリオンに有利な条件であるが、自身のステータスならば問題はないはず。湊はそう考え、いくつかの魔法をかわした後に思い切って攻め込むことにした。

間合いを詰め、袈裟切りを放つ。おそらくサリオンでは止められないだろうと思い、寸止めするつもりで放った一太刀は予想を外れ、サリオンに受け止められる。

何度も切りかかるがすべて防がれる。落ち着くため一度距離をおく。

どういうことだ。本来ステータス差から追いつけるはずがない。

湊が考えているとサリオンが剣と魔法を駆使して襲いかかってくる。

「不思議ですか?ステータスで及ぶはずもないものに圧倒されているのが」

動揺からか、剣と魔法の両方を同時に防ぐことができず押し込まれていく。

再び距離をとろうと、大きく後ろに下がった瞬間、湊の着地地点を爆発が襲う。

「いっ!」

右足から血が流れ激しく痛みだす。

「どうですか、この辺で降参したら」

「いいや、まだだ」

自身最速の動きで、切りかかろうとするも右足が痛み思うように動くことがかなわない。

ゴオッ。ふいに爆破魔法をくらう。魔力探知に反応はなかった。

再び魔力探知にかからず急に火球が発生し、よけきれない。右半身が軽いやけどを負う。

「いいでしょう、もうこの辺で」

サリオンは、もう、勝ったつもりでいるのだろう。ステータス差が通じず、特訓してきた魔力探知にもかからず魔法が発動する。勝った気でいるのもおかしくはない。

だが、湊は知っている。油断をしたその瞬間最も負けに近いことを。

「とりあえず、種明かしをしてくれないか?どうせこんな状況なんだ。降参前に聞かせてくれもいいだろう」

リーファの顔が引きつっているのがわかる。

だが、湊には一切負ける気はない。

「まあ、いいでしょう。まず、あなたの動きに対応できたのは私の魔法のによる効果です。魔法によって思考を加速させ、あなたの動きを見切り、私の熟練された無駄な動きのない剣技によって太刀をうけ、かわしているのです」

調子づいている者は、決まって饒舌なものだ。おだて上げればさらに口が回る。

「へえ、そりゃすごいや。で、魔法が探知に引っかかんなかったのはなんでだ?」

「結界です。あなたたちよりも先に来て、この訓練場に結界を張りました。私の意思に従って特定のものから発せられる魔力を霧散させます。卑怯だと思いますか?ここにいるあなた以外みんなそんな風には思ってませんよ。どんな手を駆使してでも勝ちは勝ち。甘い考えを持っているものがいけないのです」

そういって、笑みを浮かべる。


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リーファとの修行の休憩中ふと、こんなことを尋ねられた。

「湊さんって気力使えますか?」

気力というのは、武術で言うところの気のようなもので身にまとい身体能力を強化したり、敵からの攻撃を防いだり、斬撃を飛ばすこともできる。ちなみに気力はそれぞれ使うもの人間によって特有の色をしている。

「一応教えられはしたけどステータスがあるから、特に使ったことはないよ」

「確かに、湊さん、大体のことが何とかなるほどのステータスですもんね」

「訓練の期間が短かったから、それだけしかできなかったんだけどね。ところで、どうしてまたそんなことを聞いたのさ」

「いや、気力って唯一ヒューマンだけが使える技術じゃないですか。もし使えるんなら、結構役立ちますよ。見慣れないですし」

「ハーフは使えないの?」

「はい。どんな組み合わせのハーフでも、両親の種族の得意なステータスに秀でているんですけど、気力だけは純粋なヒューマンにしか使えないんです」


そのことを知った湊は寝る間も惜しんで、サリオンの目につかないよう、寝る前に自室で気力をあつかうトレーニングをおこなう。だが気力は集中力を要する。気力にMPのように量を示すステータスがないのは、気力の集中力の続くうちは、いくらでも使うことができるという性質のためだ。逆を言えば集中が切れれば使えなく、何かと並行して行うことは困難を極める。気をまとわせた剣を振るうことさえ習得には時間がかかる。結局湊は、体の一部に気力を集めることしかできていない。


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絶望的な状況。勝つ確率よりも負ける確率のほうが圧倒的に高いだろう。

だが、リーファの護衛役を譲るわけにはいかない。救ってもらったことに対する恩返しなのだから。命を救われるだけでなく、正気を失い、駄目になっていた湊を元に戻してくれたのもリーファなのだ。さらに、本人は気づいていないが湊は彼女に対して特別な思いを抱き始めている。同じような思いを持つサリオンには、無意識のうちに対抗心をもやしているのだろう。

逆境と様々な思いにテンションが高まり集中が増していく。

敵は油断している。今しかない。

魔力探知をやめ、気力を扱うことだけに集中していく。もしかしたら、魔法をもろに受ける羽目になるかもしれない。だが、なりふり構ってはいられない。

剣に気力をまとわせ瞬時に斬撃を放つ。剣よりも大きい碧色の斬撃が飛んでいく。

「えっ、、、はっ!?」

サリオンはよけられない。

成功したことを喜ぶ暇はない。サリオンが事態を受け入れられずにいるうちに攻め切らねばならない。

碧色の気をまとって強化された身体能力で一気に間合いを詰め、連続して太刀をくりだす。

さすがのスピードにサリオンも全てには対応しきれない。

「くっ!どういうことだ」

サリオンは湊がどのような技を使っているのか理解できていないようだ。

湊は容赦せず、攻撃を続けていく。だが決め手に欠ける。

集中も切れてきて、木刀をまとう気の量が減ってきている。体を覆う気も薄れてきた。

次第に形勢は互角に傾いていく。いや、負っている傷が湊のほうが多いためその分不利だろうが。

互いに攻めあぐね、隙を探すも見つからない。湊が振りかぶればサリオンに魔法を使われる。サリオンが魔法を使おうと剣から集中を移せば湊に攻め込まれる。お互い、今にも倒れそうなほどのダメージがたまっている。

―極限の戦いの中、脳がかってに過去の出来事から勝利への手掛かりを探し始め、湊に2つのことを思い出させる。

湊は、あえてサリオンと距離をとり、斬撃を放つ。

「っ!」

すかさず、距離を詰めようとするが足が痛み湊の動きがが止まる。木刀を落とし、身にまとっていた気は完全に消えている。

サリオンが絶好のチャンスを逃さないよう、反射的に何も考えず木刀で喉元へ突きを放ってくる。これが、罠であることも知らずに。

湊が思い出したのは、アムロドの忠告とリーファとの初の実戦だった。彼女はわざと隙をつくり俺を誘った。強者同士の戦いでは、そんなものはすぐにばれるだろうが、今にも倒れそうな極限状態の中、ただ一心に隙を探している今、きづけるはずもない。

湊は、わざとおさえていた気力を両手に集中させる。

左フックでサリオンの木刀をはじき、ねじった体を返す反動で強烈な右フックをテンプルにお見舞いする。

もろに殴られたサリオンは、拳の勢いのままに吹き飛んでいった。立ち上がる様子はない。


今まで何もしていなかった審判が、慌ててサリオンのもとに近づき確認する。

「サリオン戦闘不可能につき、三浦湊の勝利!」

二人の戦いに圧倒され、黙って見守っていた観客たちが、盛大な歓声を上げる。

勝利に気が抜けてしまい、倒れそうになると、観客席から走ってきたリーファに抱き支えられる。

「ごめんね、私のせいでこんなことになっちゃって」

声は震え、今にも泣きそうだ。湊のぼろぼろな姿に、自分が原因なので、罪悪感を感じる。

「ごめんね、ごめんね、、、」

湊に戦いを強要することになってしまった罪悪感から、そう吐き続ける。

だが、すでに気を失っている湊にはそれ以上は届かない。


湊が目覚めたのは翌朝だった。

手に柔らかい感触を感じたので、そちらを見るとリーファに手を握られていた。

彼女の眼もとは腫れぼったく、泣いていたことがうかがえる。

起こさないように手を放し、リーファに布団をかけ部屋を出る。


ダイニングに行くと、アムロドさんがもう起きていた。壁に掛けられた時計は9時を示している。

「おはようございます」

「おはよう、湊君。昨日はすごかったね」

「いや、最後のほう結構きつかったんですけど、アムロドさんのおかげで勝てました」

「いいパンチを決めていたね。サリオン君は、おそらく今週いっぱいベットの上での生活になるだろうと医者が言っていたよ」

「すみません、やりすぎちゃいました。もう加減する余裕もなくて」

「気にすることはないよ。それより、あとでリーファの相手をしてやってくれるかい。あの子も思うことがあるみたいだから」

「わかりました」

支えられていた時に、何か言っていたかもしれないが、思い出せない。

「まあ、昨日あの子は徹夜してたし、夕方くらいに起きると思うから先に集会場に行っておいで」


朝食を済ませ、集会場に向かう。

道中声をかけられ、子供にはあこがれの視線を向けられる。

集会場に入ると歓声と拍手に迎えられる。

湊をのために宴が開かれ、皆で酒に興じていた。

食料の乏しいこの街で一人を迎えるために宴会を開くことから、一員として認められた事がわかる。

皆、湊の建国に対する覚悟を、戦いの中に見出したのだろう。

レポートは説明がほしいと言われた。再び準備をしなくてはいけない。


6時ごろに宴会を抜け出し、家に帰るとソファにリーファが一人座っていた。

アムロドさんは外出しているようだ。

リーファの隣に腰掛ける。

「なんとか、勝てたよ。これでリーファの護衛になれるよ。課題のほうはまだわかんないけど、たぶん大丈夫。これで、リーファに恩返しができるよ」

そう伝えると、彼女は手でズボンを握りしめ肩を振るわせ始めた。

「湊さんは、ただ私に貸しがあるから、そうするんですか?」

声は震えている。聞かなければいいのにリーファは尋ねずにはいられなかった。

「護衛になることをたのんだから、、、ひっ、、ぼっ、ぼろぼろになるまで戦ったんですか。私の、、ひっ 、、わ、、だしのせいですか?」

嗚咽交じりに

いつもと様子のまったく違うリーファに、声をかけることができない。

沈黙が続く。

「っ、あ!」

湊が意を決して声を出そうとするが、それを聞くのを避けるようにリーファはたちあがって、走り去っていっていしまった。


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おまけ


リーファはベットの横に座り眠る湊の手を握る。

すでに、傷はすべて治癒魔法で治っているが、心配でならない。

湊を建国に誘うべきではなかったのではないか、恩を返すという申し出を断るべきなのではなかったのだろうか、どうして湊を連れてきてしまったのだろうか。そう考え始めるととまらない。自分が湊に無理をさせているのだと思う反面、湊と離れたくはない。心の整理がつかなく。涙があふれだす。


アムロドはこっそりとその様子を見ていた。

娘の考えが交錯しているのは、彼女が初心だからだろう。自分が抱いているの感情がわからない苛立ちと、湊に厳しい思いをさせた罪悪感に悩まされる。罪悪感が強いのも、湊に対する思いが強いからだ。

その責任はハーフに生んでしまった自分にあると考え、何か良い方法はないかと思案し始める。

見守るつもりだったが、ずいぶん早くに介入することになりそうだ。

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