第1話 建国予定地到着と同時にひと騒動【前編】
今、湊のいる惑星には大陸が一つしかなくその周りの海に多くの小島が浮かんでおり、それぞれ独自に発達している。
人間族ヒューマンは大陸の北西部、エルフとダークエルフが大陸北東部でしのぎをけずっている。
大陸南西部にドワーフ、南東部には獣人族が繁栄している。
大陸中央よりも北西寄りに魔物が巣くっているため、ヒューマンとの争いが絶えない。
だが、魔物は世界中に遍在しているため大陸中央に比べて弱くはあるが気を抜くことはできない。
ドワーフと魔物が住む地域は山岳地帯となっていて、エルフらは森林地帯に住んでいる。
ヒューマンと獣人族の住む地域は地形に富んでいる。
湊とハーフエルフのリーファが出会ったのは大陸中央より少し西側の位置で、今二人は建国地のある大陸西部に向かって歩を進めていた。
少し背丈の高い草原を歩いていると、草の陰から殺気を感じる。
こちらも殺気を放ち威圧すると、圧倒的強者に対する恐怖から敵はすぐさま去っていった。
「やっぱり、湊さん強いですね。さっきから、一度も戦わずにすべての魔物を退けているじゃないですか」
「こればっかりは恩師に徹底的に叩き込まれたからね。スタミナはHPに含まれているらしいし、無駄な戦いは極力避けないと」
「とても戦いすぎて死にかけていた人の言葉とは思えませんね」
そういってリーファは湊に微笑みかけてくる。
気恥ずかしさから目をそらしてしまう。
「ちなみにリーファは強いの?」
「弱くはないと思います。ただ大勢に囲まれると逃げるしかないんで、護衛がほしかったんです」
「今回は、誰か連れてきていないの?」
「実は勝手に抜けてきたんです。もしも、ヒューマンが魔王軍に勝っていたらその勢いに私たちハーフを襲いに来るかもしれないんで偵察に来たかったんですけど、危ないんでみんな反対してたんです。団体で行くと動きが遅くなりますし。こっそり出てきて来ちゃいました」
リーファと出会ってから共に過ごしているうちに気づいたのだが、彼女は結構お転婆な性格のようだ。
たびたび悪戯をしかけられたり、突飛な行動に驚かされたりした。
「じゃあ、仲間が心配してるんじゃないか?」
「かもしれないですね。急ぎましょうか」
リーファに腕をひかれる。
彼女とは他愛もない会話もやけに楽しく感じられる。ストレスから解放されたからだろうか。
特に危険のない旅路は3日ほどで終わりを迎え、建国予定地についた。
建国地は柵に囲まれていて東西南北それぞれに簡易的な門がある。
南側の門のから柵の内側に入った。門の南側には農地が広がっている。収穫時期にもかかわらずあまり育っていない。この世界の作物は元の世界と変わらず、米、小麦、イモ類がポピュラーだ。
門をくぐると多くの視線を感じる。様々な感情がその視線から感じられる。決して良い雰囲気ではない。
「湊さん、気にしないでくださいね」
湊のことを心配したのかリーファが声をかけてくる。
「大丈夫だよ」
これぐらい、王都で向けられた視線に比べたらなんてことはない。
「それで、どこに行くの」
「街の中心にある集会場です。建国の代表者がそこに集まっているんで、そこで湊さんを紹介します」
「わかった」
集会場に入ると街中よりも厳しい視線が向けられる。緊張した空気が肌を刺激する。なかには15人ほどの人影があり、そのうちの一つが近づいてきた。
「リーファどこへ行っていた。それにその男は誰だ。」
耳のとがった男が怒鳴っている。
「お父様、おちついてください。周りのものに示しがつきません」
「ごほん、すまんつい取り乱した」
よく見ると似た顔つきをしている。
「ヒューマンと魔王軍との戦いを見に行ってきました」
「あれほど止めたのに...」
リーファの父親は顔に手を当てている。
「まあいい、それで結果は?」
反応から察するにリーファの行動に慣れてはいるものの、娘は心配らしい。この世界では差別の対象となるハーフでは何があるかわからないので当たり前だろう。
「ヒューマンが負けました」
周囲がどよめく。それもそうだろう。あれだけ有利な戦局から負けたのだ。
「ですが、共に被害は甚大です。当分は私たちも内政に集中することができるでしょう」
「うむ、わかった。まあ、ご苦労。それでその男は誰だ」
再び、湊に視線を向けられる。
「道中拾った男の子です。飼ってもいいですか?」
「だめです、もといたところに戻してきなさい」
「お父様、毎日お風呂掃除をしますからお願いします」
二人の悪乗りについていけずにいると見かねたようで、リーファの父が微笑み手を差し出してくる。
「ヒューマンの敗走兵か。私はリーファの父のアムロドだ。私たちはヒューマンだろうと歓迎する。よろしく」
差し出された手を握り挨拶する。
アムロドさんの言葉に嘘はないだろうが、よそ者であり、ヒューマンである湊に対する周囲の視線はまだ冷たい。アムロドは純粋なエルフであるため直接被害を受けたことはないだろうが、ハーフたちは何度もヒューマンに差別されたのだろうから、風当たりが強いのは当たり前だ。
「三浦湊です。娘さんに救われ、これを運命だと思いついてまいりました」
先ほどの仕返しに冗談を混ぜる。
「ほお、そうか。うちの娘は茶目っ気が強くて今まで男と無縁だっだからね。よろしく頼むよ」
アムロドさんも冗談と理解したのか合わせてくる。
リーファは珍しく顔を真っ赤に染めているので、早めに切り上げる。
本当に恋愛経験が少なくうぶなのだろう。
「お父様も湊さんもふざけないでください」
「分かった、分かった。それでほかに話があるのだろう?」
リーファにポカポカとたたかれ両手を上げ降参するようにアムロドさんは言う。
リーファはすぐに神妙な表情をして答えた。
「はい、この湊さんを私の護衛にして、また建国会議のメンバーに入れたいと思うのです」
周囲の視線が一層強くなり、どよめきがひろがる。
「それは、反対だ!」
一人背の高い男が、我慢ならんといった表情を浮かべ怒鳴りながら近づいてきた。おそらくエルフとヒューマンとのハーフだろう。
「どこの馬の骨ともわからん奴に、そのような重要な役を任せるわけにはいかない」
「落ち着けサリオン。リーファにも考えあってのことだろう。そうだろう、リーファ」
「はい、お父様。湊さん申し訳ありませんが二人にステータスカードを見せてくれますか」
「分かった」
そういって、ステータスカードを二人に差し出す。
「「っ!」」
カードを見て二人そろって驚く。
「平均8000近くあるな。これはすごい」
「「「8000!!」」」
集会場がどよめく。
「これだけのステータスなら私は賛成だ。可愛い娘にケガをされては困るでな」
賛成するアムロドに対してサリオンは悔しそうな顔をしている。
「いや、しかしヒューマンは魔物との戦い方しか知りません。それに会議のメンバーに入れるには信頼が足りません」
「ん、確かにそうだな」
アムロドが考え込む。
するとリーファが何か思いついたように口を開く。
「それでは、これから1週間のうちに今問題の食料不足についての改善案を出してもらいましょう。あと、1週間後にうちで一番強いものとたたかわせてそれから判断しましょう」
「それはいいな」
「俺は構わないよ」
「サリオンさんそれでいいですか?」
リーファが尋ねる。
「分かった。私もそれでいい」
その後、リーファとアムロドに会議室のような場所に連れていかれる。
「すみません、湊さん。少し面倒な事態になってしまいました」
「俺は別に構わないよ。ところで食料問題って何が起こってるの?」
「それについては私から説明しよう。なぜだかわからないが、去年あたりから収穫量が激減してな。とくに気候に変動もないし原因がわからんのだ。今人口が急増しているからな。なかなかの懸念事項なんだよ」
おそらく、連作のし過ぎで土地がやせたのだろう。こちらの問題は思いのほか早く片付きそうだ。何せ日本にいたころはそれなりに優秀な高校生だったのだ。中世程度の文明に負けるわけにはいかない。
「たぶん、そっちのほうは大丈夫です。心当たりがあります」
「おお、そうか。頼りになるな。ところで、リーファはなんで湊君を会議のメンバーに入れようと思ったんだね?」
「ここだけの話なのですが、、、」
小声で言うリーファに合わせてアムロドさんが顔を近づける。
「ここだけの話なんだ?」
「湊君は異世界から来たんです。おそらく私たちにない知識を多く持っています」
「ほお、それは興味深いな。だが急すぎる発展は街によくないな」
「その心配はないですよ。まだ向こうでは学生だったんで、すべてを知っているわけではありません」
「おお、湊君は学生だったのか。ならばさぞ優秀だったようだな」
こちらの世界と日本とでは学校の認識が違うだろうと思うので説明をする。
「皆が幼いころに学校に通うとは面白いなですね」
「うむ、ぜひ実践したいところだが、まだ街に余裕がないからな」
「希望者だけで行ってみたらどうですか?建国後、それを維持するための人間がいることは重要だと思います」
思い切って提案をしてみる。まだ街のみなには受け入れられていないためひけめはあるが、俺はこの建国を成功させたいと思っている。恩人の作る国だ。いいものにしたいに決まっている。
「まあ、次の会議で検討してみるか。湊君、貴重な意見ありがとう」
その後、もう遅かったのでリーファの家に泊めてもらうことになった。
翌朝、アムロドさんの手料理をごちそうになったあとリーファとともに訓練場に向かう。
訓練場は街の北側にある。訓練場とは言うもののただの更地だ。まだ余裕がないのだろう。
「それでは、湊さんちょっと私とたたかってみましょうか」
リーファが準備運動をしながら楽しそうに言ってくる。
「いいけど、大丈夫かよ?」
この世界でトップレベルのステータスを誇るのだ。そうそう負けることはないはずだ。
「あんまり油断しないほうがいいですよ。負けちゃいますよ」
リーファは笑いながらコインを指ではじく。
「チリン」
コインの落ちる音を合図に戦いが始まる。
先ほど渡された木剣を構え、リーファとの距離を詰めようとするがいやな予感頭を走りすぐさま距離をとることした。
あまりにもリーファの構えが隙だらけなのだ。まるで誘っているかのように。
彼女も皆と同様木剣を構えているが、エルフである以上主な攻撃手段は魔法であるはずだ。
不可思議な点が多く容易に近づけない。
「どうしたんですか?このままじゃ勝てないですよ」
手をクイッと上げ挑発してくる。
「うるせーよ」
そう言って一気に最高速まで加速しリーファまで向かう。
跳躍して背後をとる。もらったと思ったら火球が突如として目の前にあらわれこちらに向かって飛んできた。
「は?」
驚きながらも慌ててよけて再び距離をとる。
「やっぱりエルフとの戦い方を知らないらしいですね」
その後、幾度となく攻め込むが無詠唱で突然放たれる魔法に翻弄され近づくこともかなわない。
結局勝負はつくことはなく、昼頃にリーファの可愛らしいおなかの音で中断された。
「あれ、どういうことだよ。なんで魔法があんなにポンポンうてんだよ」
リーファが持ってきていたアムロドさん手作りのサンドイッチを食べ休憩しながら話しかける。
「エルフはですね、高い魔法適性のおかげで無詠唱でMPの限り自由に魔法がだせるんです。ハーフエルフの私も魔法適性が高いんでおんなじことができるんです」
「なんだよそのチート能力、、、」
「いえ、湊さんのステータスに比べれば全然大したことないですよ」
「いや、俺全然手が出なかったぞ」
「それは魔力探知を知らないからです」
「なんだそれ?」
「魔法を使うときにはまず魔力を広げ、火や氷などといった属性に変質させた魔力を広げた魔力の道を使って変質した魔力を運び発動させます。この2つの間にはラグがあります。ちなみに当然遠い位置のほうが魔力操作が難しいので、命中率が下がります。火球なんかを飛ばす場合なんかには魔力で押し出して発射したり、加速させたり方向を変えたりします」
「それくらいなら、俺も知ってるよ」
「いいから黙っててください」
リーファが顔をしかめる。どうやら、話の腰を折られたことに怒っているようだ。
「魔力探知は自身の魔力を薄く周囲に広げ相手の魔力を感知するスキルで、当然MPを消費します。魔力が広げられてから魔法が発動するまでの間のラグを利用してどこに魔法が発動するかを察知して魔法をよけるといった手法です。基本的に魔法を発動させるには魔力を変質する必要があり、変質した魔力を相手に当てるために魔力で操作する必要があるので魔法の対策はこれで完璧です。ちなみに、詠唱は魔力を変質させるためのもので、エルフにはそれを補助する精霊の加護がついているため詠唱がいらないわけです。もちろん魔法上級者ほどラグが短いんでよけるのは難しくなりますが、湊さんのステータスなら問題ありません」
「そんな技術があるんだ。王都ではそんなの一切教えてもらえなかったよ」
「ほとんど魔物は高い身体能力を利用して攻めてくるので教えてもらえなかったんだと思います」
「じゃあ、早速それを食べ終わったら教えてくれよ」
「分かりました。任せてください」
食後稽古が開始される。
「湊さんは、一応魔法も使えますよね?」
「王都で、教わってたからそれなりに使えるけど詠唱が面倒でほとんど使わないよ」
「それなら大丈夫です。魔力操作の基本はできているはずですから。早速やってみてください」
自身の体から魔力が周囲に広がるのをイメージし魔力を広げていく。魔力を操作するときにはイメージが重要だと今は亡き恩師に習ったのだ。周囲に魔力が広がっていく、そこまでは順調だった。しかし、その魔力が一つの平面の上にとどまってしまいうまく周囲全体に広がらない。なかなか苦戦する。
すると、見かねたリーファがアドバイスをくれる。
「最初は、平面のイメージでいいですけど毎回違う平面を意識してください。そうすると、自然と空間の伊目地が付いてきますから」
言われたとおりにするとだいぶましになったところで陽が落ちてきたので稽古は終了となった。
夜はアムロドさんの手料理をいただいた後に食料問題の課題にいそしんだ。
昼間は稽古、夜は課題。そんな生活を送っていた。召喚された直後と同様やることが多かったが、リーファやアルムダまた話しかけてくれる人もいたおかげで不安もなく、不安を見逃すこともなく落ち着いていたため精神が不安定になることはなかった。
そんな生活を送っているうちに時は過ぎついに約束の日を迎えた。
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おまけ
リーファは湊が回復するまでの間、毎日膝枕をするとも申しでていた。
湊を気遣ってのことだ。何せ地面は固く寝心地がよくない。
当初は恥ずかしさから湊も断っていたがそのうち根負けし受け入れるようになった。
ある日、湊は回復に徹するため昼寝をとっていた。
リーファは自身の膝の中に眠る少年の無垢な寝顔をに何かをを感じる。だがそれが何なのか彼女には説明できない。
湊を抱きしめてしまったのも、なぜなのか彼女にはわからない。ただ自然と体が動いていたのだ。
また、湊の強さに、またその強さを持ちながら昼間は懸命にけいこをして、夜は遅くまで与えられた問題の解決策をまとめる彼の真摯な姿勢に、その得体のしれない感情とともに申し訳なさがあった。
確かに湊の命を救ったが、本来そういった行為は無償で行うべきだと考えているからだ。
湊に何かを感じるのと同時に罪悪感も募っていたのだ。
恋愛経験が皆無であるために湊に対する気持ちが恋なのだと、きづくこともなく自身の心の内が判然とせず、罪悪感と板挟みになりながら悶悶とした日々を過ごす。
結局、約束の日までの1週間リーファは湊を見かけるたびに目を奪われ、謎の感情の名前を知るために彼のことばかり考える羽目になってしまった。
そのために、仕事がうまく進まずいらだつ様子をアムロドはほほえましく思っている。
ハーフであるものは差別の対象であるために恋愛を経験すること、それ以前に話をすることさえ難しい。
そのため、ハーフの親は皆子供によい相手が見つかると大変喜ぶ。アムロドも例にもれずうれしく思っているが、サリオンの気持ちも知っているため心配に思うと同時にその関係の行方が楽しみでもある。
「リーファ、疲れているなら休みなさい。残りの仕事は私がやっておこう」
「すみません、ありがとうございます、お父様」
とりあえず、からかわずに見守ることにしようと思うアムロドであった。
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