異世界建国記

@aki1069

第0話 プロローグ

日本人高校生の三浦湊が、高校に登校している最中だった。

昨夜、夜更かししたために、眠気がすごく、あくびが止まらない。

「ふぁ~」

間抜けな声を出しながら、あくびをする。涙が出てきて目の前の光景がぼやける。目をこすり、涙をふくと目の前の光景は、よく見る登校風景とは一変し、神殿のような場所にいた。

事態を呑み込めず、再び目をこするが、見間違いではないようだ。

「へっ!」

驚きのあまり、先ほど以上に間抜けな声が出てしまった。


落ち着いて周りを見渡すと、そこはストーンヘンジのような遺跡のようで、周囲を神官らしき人達に囲まれている。

主だった顔立ちの神官が一人近づいてきた。

何をされるのか不安に思い、身構える。

すると、神官は急に頭を垂れた。予想しない行動に、体がびくと震える。

「ようこそいらっしゃいました、勇者様」

「は?勇者?俺が?」

周りに、自分と神官たちしかいないと分かっているのに、首を振って周りを確認してしまう。

「はい、そうです。急なことに慌てるお気持ちも重々承知していますが、人間族(ヒューマン)の危機なのです。ご協力ください」

「いや、協力って何?魔王でも倒せって?無理だよ、無理。俺ただの、」

「そうです。魔王軍と戦ってもらいます」

セリフを遮られる。

「とりあえず、移動しましょう」

「え。あ、、はい」

声が上ずってしまった。


馬に乗せられ連れてこられたのは大きな都市だった。

神官曰く、ここはヒューマンの国の王都らしい。中世ヨーロッパのような街並みに目を奪われる。遠方には立派なお城が見える。道を見渡す限りお店が並び、人がごった返している。看板の文字は日本語とは異なるが自然と理解できる。

その人ごみの中に、エルフやドワーフ、ランカンスロープをみて、やっと異世界に来たことを実感するとの同時に、彼らが、鎖につながれているのを発見する。神官に尋ねると、人や亜人種たちは互いに対立しているため、ある種族の国の中で他種族が差別を受けるのは当たり前らしい。ハーフについても差別の対象らしい。


教会につくと奥の部屋へと案内される。

そこには、魔法チックな岩が一つ厳重に置かれていた。

大きさは、人の背丈ほどで透明感があり、色は刻々と変化し、様々だ。

「これ、なんですか?」

「これは、古代遺物(アーティファクト)というものです」

「へえ、なんに使うんですか?」

「道中説明した通り、この世界では各々の能力がステータスといった形で数値化されおり、国民皆に支給される、ステータスカードによって現在の値がわかります。加えて、このアーティファクトを使えば、潜在値、つまりどこまで値が伸びるのか、また成長速度を知ることができるのです」

ステータスには、HP、MP、力、敏捷、知力、器用さ、頑丈、魔力、気力がある。

「では、手をかざしてみてください」

文字が浮かぶ上がってくる。看板とは違い、こちらは読めない。

「すみません、読めないんですけど、、」

「ああ、失礼しました。これは、古代文字なので一部のものにしか読めないんですよ」

横から覗いてくる。

「んっ!、、ゴホン。やはり予測していてもすさまじいですな」

「どうなんですか?」

「オール9999。つまり、すべて最大の潜在値となっています。それに成長速度もすさまじいです」

「ほんとですか!?」

湊は、チート展開に興奮を隠せない。

約20年前、魔王軍たちの勢力が強くなりはじめ苦戦を強いられ始めたころに、遺跡から異世界から人や物を召還する方法の書かれた石板が発見されたらしい。どの世界から召喚するかによって、呼ばれた人間のこの世界でのスペックが大きく左右されるため、その研究に20年近い歳月を必要としたらしい。俺はこの世界では異世界人としては最も高い性能を誇るようだ。この世界の人間に比べてもスペックはトップレベルに高いらしい。一人呼ぶのに国家予算の大半を必要とするため、そうそうポンポン呼べるわけではないようだ


その後訓練場に連れていかれキースという男とメリッサという女性を紹介される。

俺が師事する人物らしい。二人は、王都の中で一番の騎士と魔法使いということらしい。

そのまま王族にも紹介された。

明日から早速、修行が始めるらしく、その日は早めに床についた。今日1日での情報量がすごかったが、アドレナリンが出ているため苦にならなかった。だが、元の世界や、現状について考えるのを忘れてしまっていた。今にして思えば、それが失敗の第一歩だったのだろう。


翌日から訓練が始まった。

訓練と異世界での生活に追われ忙しい日々を送る。神官に、最近魔王軍の勢いが増し、ヒューマンが次第に侵略され始めていることを聞かされ、一層訓練に力を入れる。

キースもメリッサも家族のように接してくれ、また友人もできたおかげで、その時は生活に耐えられたが、一度崩れたら止まらないほどのストレスが知らず知らずのうちに、たまり始めていた。


1年ほどして、ついに実戦を迎えることになった。

高いステータスで大活躍をしたが、魔物とはいえ、生き物を殺すことや初めて死体のにおいに悩ませる帰路だった。しかし、王都へ凱旋すると、久しぶりの勝利といったこともあり、多くの国民に歓声とともに迎えられ、それどころではなくなってしまった。

その後も、順調に連勝を重ねていき士気がぐんぐん向上していく。

そしてついに、魔王軍本拠地を攻略することになった。

魔王軍本拠地から10kmほど離れた位置に陣を構え侵略開始の合図とともに攻略に乗り出す。

攻略には、王都の兵のほとんどが参戦していている。キースやメリッサなど一部の兵は、王都の守備につく。

順調過ぎるほどに戦いは進んでいき、ついに門を突破し魔王軍本拠地にたどり着いた。

当初、想定していたより魔王軍の数が少ないため予定よりも早く進む。

本来なら違和感を感じるのだろうが、連戦で調子づき誰も事態に気づかなかった。


その後、陣に引き上げ軍全体が勝利ムードによっていると急に陣中がざわめきだす。

何かと思えば、背中に矢の刺さった伝令が馬に乗ってやってきていたのだ。

「魔王軍が王都を奇襲!壊滅状態!至急応援を!」

そう叫ぶと伝令は馬から落ちついに息絶えた。

よく見ると傷だらけで、よくここまで生きていたものだ。

伝令の地面に落ちる音が妙に耳に残った。


王都についたのは翌朝だった。

地平線から昇る太陽の発する光が崩壊した建物にさえぎられいびつな影を落とす。

あちこちから煙が上がり、子供の泣き声や、うめき声、女性の叫び声などを遮るものはない。

王の住む城ですら、半壊していた。

間に合わなかった。

半ば放心しながら急ぎキースやメリッサ、友人を探し王都中をかけめぐるが、皆と話すことはかなわなかった。


市街地には多くの人間が散らばっていた。

人の腕や首がそこら中に転がり、道のタイルや建物の壁は真っ赤にそめあげられていた。

なかにはおそらくオークに凌辱されたままこと切れたであろう女性が裸のまま倒れていた。

完全なる敗北だった。


その後、至急最寄りの都市に国中の人が丸ごと移動することになったが、その道中何度も魔物に襲われる。

戦えない平民や、決して死なせてはならない王族、貴族を守りながらの移動のため苦戦を強いられる。

平民、貴族から不平や嘆きが常に上がっている。

なんとか、最寄りの都市に到着するも皆絶望に打ちひしがれていた。


俺は自室にこもり、ただ後悔と自責の念に苛まされる。

現状も悲しさも受け入れられない。

ただ自分を、能力に調子づき油断していた浅はかな自分を責め続ける。

キースたちの顔が脳裏に浮かぶたびに、歯ぐきから血が出るほどに歯を食いしばる。

道を歩けば何が勇者だと揶揄され、石をぶつけられる。

貴族に会えば延々と侮蔑される。

誰にもかばわれず自分までもが自分を責め続けていた。

そして、時折元の世界のことを思い出し、逃げ出したい思いから元の世界が恋しくなった。


ある日、国王に呼ばれた。

「今回の敗戦は決してそなたのみのせいではない。わしの判断も皆の判断も甘かったのじゃ。自分を責め続けることはない。上を向きなさい」

ただそれだけ声をかけられた。

励ますつもりなのだろうが、なにも響かない。

どうせ国王も俺を責めているに決まっている。

高い予算を研究に充て召喚したにもかかわらず、重要なところで俺は役に立たなかったのだ。

何人もの人間が死に、都市が滅ぼされ文明を築くのに要した多くの時間、努力が失われたのだ。

沈黙が部屋を包み込む。

そのまま30分ほどしたところで国王は俺の肩をたたき退出していった。


このままでは、誰にも向ける顔もない。

仲の良い人間をみな失った今生きる楽しみもない。

元の世界に戻ることも許されないだろう。

せめて、魔王軍に一矢報いたいが国はそれどころではない。

進むことも引くこともできず、自己嫌悪の中で過ごすうちにしだいに心が壊れ始める。

魔物に対する殺意だけが心を支配するようになり、正気を失った。

そしてついに国を抜け出し単騎で魔王軍に乗り込むことを決心する。


周囲を魔物に囲まれる中、ただ剣を振り続ける。

鬼気迫る表情ながらも魔物たちも一歩も引かない。

彼らにだって失ったことに対する悔しさがあるのだ。


三日三晩そうしているうちにさすがに、疲労を覚え始め追い込まれていく。

背後は、崖になっていてその下を川が流れている。

もとより死ぬ覚悟はあったので絶体絶命のピンチにも動じない。

あまりの疲労にそこからのことはよく覚えていないが、崖から落ちていくことだけは認識できた。


翌朝、目が覚めた時には河原にいた。

痛む体を起こしながら周囲を見渡すと誰もいないが、そばに火が用意されている。

昨晩のことを思い出し、再び魔王軍に乗り込むため立とうとするが痛みでうまくたつこともできなず、剣を杖代わりににする。。

戦いの最中はアドレナリンが出ていたおかげで痛まなかったが、矢に打たれ、剣で切られ、槍でえぐられた傷が痛む。

その痛みは次第に熱を帯び始めジンジンとした感覚が傷口に広がっていく。

意識なんてものはもうほとんどなく、ただ本能が俺を歩かせる。

しかし痛みに耐え切れずに倒れそうになると誰かに支えられた。

失血のせいか目がかすむため声しか聞こえないが女性のようだ。

「今治すからじっとして」

じっとするも何もまったく体が動かない。

仰向けに寝かされ治癒魔法をかけられる。

痛みが次第に引いていき、体が楽になっていくのを感じるのと同時に再び気を失った。


次に目が覚めたのは夕方ごろだった。

首元がやけに柔らかく心地よい。

仰向けになって上を見るとそこには女性の顔があった。

ツンととんがったエルフ特有の耳、透き通るような肌に、可愛らしい顔に目を奪われていると目が合った。

「あ、起きたようね。体は大丈夫?」

慌てて視線を逸らす。

「あなたが、治してくれたんですか?」

エルフが人間である俺をどうして救ったのだろうかと疑問に思う。

「そうよ。ひどいけがだったわ。何をしてたの?」

「え~と、、、」

何と答えようか吟味し、現状の理解に努めているうちに今どのような状態なのかに気づき慌てて上体を起こす。

「いっっっ!」

体中が痛み、また倒れかける。

今度もまた支えられた。

「だめよ、まだ起きたら。傷口がふさがっただけで出血した分の血は戻ってないし」

そういわれ、上体をゆっくりたおされ元の体勢に戻る。

恥ずかしさから自分でも頬が赤くなっているのがわかるが、からかわないでいてくれるのがありがたい。

「それで、何があったの?」

最初は適当にごまかすつもりだったが、これだけの傷でごまかすことはできず、今まであったことをすべて打ち明けることにした。

この世界に召喚され魔王軍と戦ったこと。

奇襲によって王都が壊滅したこと。

大切な人が皆殺されたこと。

国中から非難されたこと。

勝手に国を抜け出し単騎魔王軍に乗り込んだこと

話しているうち、心の内を様々な感情が交錯しはじめ再び正気を失いそうになる。

すると、急に頭を抱きすくめられる。

湊が体をビクッと震わせ動揺を隠せずにいると、彼女は口を開いた。

「大変だったわね。でも、あなただけの責任じゃないわ。気にするなとは言わないけど、そこまで苦しい思いをしなくてもいいのよ」

かけられている言葉は国王と何も変わらないのに涙があふれ始め、呼吸が乱れはじめ嗚咽交じりに声を上げた泣き出す。やはり、慰められたかったのだ。積み重なるストレスに悩む自分を、誰かにささえてほしかったのだ。そういった思いはチート性能だろうと確かにあったのだ。しかし、自責の念が強いために皆が俺を責めているのだと思い込み、差し伸べられた手を無視していたのだ。人ではない彼女に慰められることで、ようやく負の感情から解放され、ただ純粋に悲しみを受け入れ始めることができたのだ。第三者である彼女の言葉だからこそ耳を傾けることができたのだ。たまりにたまった感情から解放され意識が正常に戻っていく。召喚されてからの展開の速さに受け入れられなかった事実をすべて確認してから、ようやく涙が止まった。もちろん悲しみがすべて消えたわけではないが、だいぶ楽になった。


みっともない俺を、彼女は泣き止むまでずっと抱き続けていてくれた。


ようやく落ち着いたころ、気恥ずかしさから状態を起こして彼女の膝から頭を離し、少し離れて対座した。

「俺は三浦湊。助けてくれてありがとう」

泣きすぎて目が腫れぼったいし、涙の跡がかさつく。

「私はリーファ。エルフとヒューマンのハーフよ」

「どうして助けてくれたんだい?人に対していい思いは持ってないよね?」

「いくらそうだとは言ったって、目の前で死にかけてたら助けますよ。半分は人なんですから」

勇者だという特権を抜きに向けられるやさしさに心が和らぐ。

「そっか、本当にありがとう。お礼に何でもするよ」

「ん?今なんでもって言いましたね?」

「ああ」

妙な食いつきに少し引く。

切り替えが早いのか、それとも少し顔の赤いところを見ると恥ずかしさをごまかそうとしているのだろうか。

「じゃあ、私の護衛をしてください。ステータスカードを勝手ながら拝見しました。その高い能力でぜひ私を守ってください」

ステータスカードは全種族が使っていてる。

数値は偽造できなく正確なので、その人の適性を図ることもできる。

「どこまでですか?」

「どこまでじゃなくて、ずっとです」

「はい?」

なんでもするとは言ったが、予想の範疇を超えている。

「実は私今大陸の端のほうで建国してるんです」

「はい?」

さらに予想を上回る答えに唖然とする。

「建国してるといっても多くのものとですが、一応私は代表格に名を連ねています。しかも私は代表格の中でも最弱。周囲の国や魔物に狙われやすいんです。なので、護衛をしてほしいんです。ついでに建国も手伝ってください」

「どうして、建国を?」

「私たちハーフはどこにいっても差別されて住み心地の居場所はないんです。なので多くのハーフが結束して私たちの住処を作ろうとしているのです」

急に壮大な計画を語られ動揺を隠せない。

「でもそんなところにヒューマンの俺が行っても大丈夫ですか?」

「平等を掲げて建国中なんですからみな平等に接してくれると思いますよ。それにその高いステータスで様々な仕事をこなしてくだされば絶対に受け入れてくれますって」

リーファは俺に近づき手をとる。

「湊さん。どうかよろしくお願いします」

自分を救ってくれた好みの可愛い女の子にこうまでお願いされて、たとえその願いが突拍子がなくとも、断れる男がいるのだろうか、いやいない(反語)。


こうして、俺はハーフのハーフによるハーフのための建国に加わることになった。


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