第8話 青春時代の感情と感覚
この感情と感覚は、多分あの時だ…。
***
俺はある日の仕事で、ちょっとした傷を負って帰ってきた。すると、芽花がベッドの上で傷の手当てをしてくれた。
「俊太くん、大変だったわね。」
この時の俺はまだ戦いに慣れた言えるほどの体力ではなかった。
「いつも迷惑かけてごめんな、芽花。いつもお世話になるよ。」
「別にいいのよ。これが私の仕事だから。ちなみに伝えておくけど、これを聞くのは初めてかしら?私と蓮と菫、一応戦うこともできちゃうんだからね。」
「マジかよ!それ初めて聞いたわ!!」
そんな小話を小一時間したあと、疲れていた俺は少しだけ睡眠をとった。
そして、起きたときに、その『感情と感覚』というのは再生しだした。
目を開けると、ベッドの横に置いてあった椅子に腰をかけて、机に頭を横にして寝ている芽花の姿があった。机の上には『俊太』と『芽♡花』と書かれた2つのマグカップが置いてあった。生ぬるいコーヒーだった。
寝ている芽花の顔にふと目を向けた。無防備な芽花の顔にはかわいらしさがあった。
「芽花、俺のために準備してくれてたのか…。俺は寝てたのに…。優しいやつだ。」
一人でそうつぶやいた。机の上には芽花用のノートパソコンもあったから事務仕事もしていたのだろう。
コーヒーを飲み干した。生ぬるかったが、どこか温かくなった。そして、ちょっとだけ頭をなでて・・・
芽花がゆっくりと頭を起こした。光の速さで手を戻した。
「…あら、俊太くん起きてたの?コーヒーは飲んだの?ちょっと冷めていなかったかしら。結構前から準備してて…」
「芽花、優しいな。」
「なっ、なによ突然!真剣な顔しちゃって。」
何気ない一コマだった。他人からすると、ちょっと違くないか?なんて言われそうだけど、それが俺にとって恋愛の再スタートだった。
俺は芽花に恋をした。
***
『打ち上げ成功です!ロケットは無事空高くとんでいきました!これで、ISS2の完成はすぐそことなりました!』
太一の見ているTV番組からそんなニュースが流れ出した。
丸岡公園のベンチにて、
「ええぇぇーっ!?そうなの!?それはそれはおめでたい話だなぁ!」
と、声をあげたのは太一である。
そこでTVは切られた。
こいつ、なぜか途端に話し方が気持ち悪くなった。
「俺は一応相談という名目で太一にこれを話しているんだからな!?秘密にするのは当然のいことだぞ!?」
「分かってる分かってるって。いやぁ、再び青春時代ってやつなのか!?」
こいつ、なぜか調子にノリ始めた。学生だったときの心をまだ忘れていないようだ。
「よし、分かった!友情(恋心も含める)を深めようプロジェクトを臨時実行する!」
太一が突然立ち、高々に腕をあげた。
「は!?なんだそれ!?」
「俊太には臨時休暇をとってもらう!その休暇を利用して芽花とデートを楽しめ!」
こいつ、なぜかすげえ張りきっている。自分自身のことじゃないのに、だ。
「ちょ、ちょっとまて!俺と芽花2人きりでデート!?仕事はどうするんだよ!」
「大丈夫!元々PWは真と僕で運営していたんだよ?仕事のことは一回忘れるのさ!ささ、そうとなればすぐに芽花へ連絡しなければならないな!」
そういうと、太一はレンズフォンを起動して慣れた手つきでメールを打ち始めた。
「待てって太一!俺はまだ行くとは行ってないからな!?」
* * *
財布の中身、臨時給料をもらったから結構入ってる。服装、コンビニのファッション雑誌を参考にしてきた。待ち合わせ場所、バス停。
行くことになりました、デート。
いや別に期待してねえし!気づいたらなってたんだし!しょうがない!過去は変えられないんだからな!先生からもよく言われてきただろう?
えっ、意味が違うって?
バス停で待機していると、芽花が走ってくるのが見えた。初めて見る、芽花の私服…。白を基調としたワンピースに細い足が姿を見せる。幸せという感情でさえ感じさせる。
おっと、もう夏か。
どこか輝かしくみえた。その後ろにはあと2人が走って追いかけてきているのが見えた。
あれ?菫と蓮じゃん。
あ、あれ?2人きりデート…えっ、いや別に2人きりは恥ずかしいからむしろ4人のほうがいいし?こっちのほうがいいじゃん?人数も増えて…。うん…。
「俊太~!まだバスはでていないかしら?」
走って来たのでハァハァと呼吸を乱しつつも聞いていたのが芽花だった。
あっ、やばい、かわいい。
膝に少しだけ手をつけると、ワンピースの胸元の部分が下に垂れて…。
光の速さで目を横にそらした。あっ、やばい、見たら俺が俺でなくなるような。
「いやぁ、まさか太一がおごってくれるなんて私はうれしいの!」
「私も、誘っていただけてうれしく思っていますわ。」
という菫と蓮。
「ふぇっ?おごる?」
「太一くんから聞いたわよ。俊太くんも中々男らしくなったじゃない!」
芽花が笑いながら俺の『肩』を軽く叩いた。
うぉおおおぉおお!やべえってこれ!好きな女の子から肩を叩かれたときのこの衝動みんな分かってくれるかな!?
「ま、まぁな。日常の感謝の気持ちを込めてだから、な。」
と言っている俺だが、この4人デートが終わった後、軽く太一を殴っておきたいと思う。狙うはお腹の溝の部分で。
デートでは男が必ず支払わなければならないなんていうルールはねぇんだよ!
太一の野郎許すまじ。
「あっ!バス来たよ!さっ、行こう!俊太くん!…俊太くん?」
「お、おう。行こうか。」
* * *
洋服店に到着。3人はおしゃれなお洋服を買いたいようで。
「ちょっと離れた町にこんなおしゃれな洋服屋があったんだなぁ。」
「だって太一ってずっと家に引き篭もっていたもんねぇ!」
「なっ・・・・!」
芽花がいたずら顔を見せてきた。
俺の顔はさぞかし紅潮に染まっているだろう…おっと、2人じゃないんだなこれが。これが!
「あ、そうだ!私たちが太一の私服を選んであげる!」
と、菫が提案した。
「い、いいよ。俺は別に。」
「いいですね!俊太さんの私服ってなんかおっさんっていう感じがしますものね。新鮮さに欠けていますね。」
と、辛口コメントを口にする蓮。
「こっ、こら!蓮!失礼でしょう!?あなたも女子力が欠けているところありますからね?」
そういえばそうだった。みんなで一緒に暮らしてきた中で気づいたことがいくつかある。
蓮は女子力に問題がある。カップラーメンが大好物なようで、そしてちょっと天然なようで。
まぁ、こんな3人でデートというのも悪くない。
しかしながら、これはデートじゃないな。買い物だ。
「あ、そうだ!誰が一番おしゃれか、太一に決めてもらえばよくない!?」
「突然だな!!」
「ファッションセンスって女子力の一部でしょ?ね?」
と、菫が2つ目の提案をしたところで、3人の買い物は始まった。
3人それぞれが散って洋服を探している間、俺も自分なりに探してみることにした。買うとまではいかないけど。
* * *
二時間は経過しただろうか…。
『長い』
今の俺の言いたいことを要約するとこの二文字に収まる。なんとなく、体に気怠さがついてきた。
レンズフォンで暇つぶしに動画視聴をしていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
蓮だ。
「やっと見つけましたわ、俊太さん。今から三人で試着室で選んだ洋服を試着するので、誰が一番ファッションセンスがあるか、選んでいただきたいと思うの。」
「えっ!?俺審査員かよ!」
お分かりだろうが俺にはファッションセンスがないし自覚している。一度、太一に私服を見られたとき
「休日のおっさんかよ」
と言われたことが、いかに俺の自覚を促したのか分かっていただきたい。
「二人はもう着替え始めてますのよ!ささ、早くこっちへ!」
蓮のあとをついていくと試着室が三部屋並んでいた。左から蓮、芽花、菫が着替えているらしい。
じょ、女子のお着替えタイム…。このたった一枚のうすっぺらい布をめくると、向こう側には無限大なる輝かしい未来が……。
おっとあっぶねえ鼻血が。
い、いや別に妄想してねえし!(妄想しながら)
「みんな準備はいい?いっせーのでカーテンを開けるのよ!いっせーのでっ…!」
菫の掛け声で三枚のカーテンが一気に開かれた。
つ、芽花が…ロングヘアーになってる!!何これ!?なんていうチート!?
「さぁ俊太!PWのファッションリーダーを決めて!」
菫の声がよく耳に入ってこない。
俺の目線という目線が芽花にしか向いてない。
「なっちゃん、さっき朝から思ってたんだけどさ、俊太ってずっとなっちゃんのこと見てない?」
「何言っているの、蓮!そんな訳ないでしょう!?」
「そ、そうだよ!気のせいだって!」
誤魔化す。それは恥を隠すときにもよく用いられる行動の一種である。
「もしかして、俊太ってなっちゃんのこと好きなの?」
「すっ、菫!何を言っているの!?」
「んなわけないだろ!?何かの誤解だっつうの!」
この青髪少女、ドストレートに聞いてくるぞ、気をつけろ。まだ顔が紅潮に染まりつつある気がしてならない。
「俊太くん、ありがたいけど私には彼女になることはできないわ…」
「いや告白してないし!なんで俺がフラれたみたいな状況になっているんだよ!!」
「……。」
ふと、芽花の表情に、少しだけ薄黒い仮面らがつけられて・・・・・。
「ふふっ、俊太くんってやっぱりおもしろい人だね!」
違ったようだ。すぐに笑顔をみせた芽花。それに同時に笑い出す蓮と菫。
俺がPWで働くことを決意していなければ、見れなかった光景が今ここにある。幸せというやつだ。
その後、自然な流れでオシャレコンテストの存在は忘れられて、PW本部へ戻った。
少しだけ洋服をおごらなければならなかったことがちょっとした傷なんだけどな。
まぁ、なんだかんんだあって今日は幸せだったなぁ。
PW本部で待機していた太一と真によると、その日は特にやっかいなことは無かったらしい。しかし、いつウイルスが現れるのかは分からない。だからいつでも、万全な状態を作っておかなければならない。
また明日からも仕事がんばろう。
菫、蓮、そして芽花の顔を見るだけでそんな気になれる、俺の気持ちはそういう感じだった。
***
「…。急がなきゃ。でも、いざウイルスたちを送り込んでもまた例の6人がどこからともなくやってくる…。」
暗い部屋の中にある目の前のパソコンに独り言を呟く。
「でも、僕はやらなきゃいけないんだ…。そうでないと…。急がなきゃ…。」
そこで彼、あだ名が『デスブレイカー』だという彼は、机の上に置いてあったコーヒーカップを手にとり、口にコーヒーを注ぐ。
「・・・・・。僕のやってることって間違っていたのかな・・・。いや、そんなこと考えていてもしょうがない。時間は少ないんだ。できることを地道にこなしていこう。」
そう言って彼はまた思考を始めた。
「でも、子どもたちの命だけでも護りたいな。」
その後、彼は眠りに落ちた。
口にすることができない目的を胸に抱きながら。
***
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