第6話 なんで働くの?
目的地の神社へ到着すると、数えきれないほどの人で溢れかえっていたが、特に慌てて緊急事態というような様子はなかった。
「(あっ、山田たちじゃん。)」
同級生である。すっかり背が伸びていて大人になっていた。勤務中なので話しかけることはできない。山田たちは俺に気づいてないようだ。
「んで、ウイルスって…どこ?」
「あ、あれ?おかしいな。いつもだったら駆けつけたときには悲鳴とか聞こえるんだけど…。」
太一は戸惑っていた。
「あの、今日は…確かここで地域の伝統行事である流鏑馬が行われる日だったと思います…。」
流鏑馬。人が神馬に乗馬し、的を矢で射抜き、その年の五穀豊穣や占いをするという行事だ。実はこの流鏑馬は地域のことだけであって、何度か見たことがある。乗馬する青年は凛々しく、憧れのようにも思えた。
真がそう言ったあと、人々のいるほうを見てみると、馬と乗馬者に声援を送っている様子が見えた。ウイルスなんていない。
しかし、刹那にそいつは背後に現れた。
太一が叫んだ。
「危ないっ!!!」
太一に身につけていたレッドレンズが赤くなり、腕時計のようなものから声がで
た。
『ブロックコマンド』
…………ヴィンッ。
シールドが張られていた。幸い、ウイルスは攻撃する体制だったが、シールドによって跳ね返された。
「高山さん…戦いますよ…。」
「たっ、戦うって…こいつロボット型人間か?」
「おい、2二人!つべこべ言わずに戦うぞ!人々と町を護るんだ!」
「分かっていますよ…。」
真のレッドレンズが赤くなりだした。
『ソードコマンド』
「さて、僕もやるよ!」
…『ナックルコマンド』
真の手には剣が、太一の手にはグーが巨大化されたグローブのようなものが装備されていた。
「お、お前ら何それ!?すげぇかっこいいけどどうやるんだよそれ!?」
言い終わったときには2人はもうと戦い始めていた。例のウイルスというやつと。
幸い、人々は走る馬を一目見て、写真を残そうと必死であったためまだ俺たちの存在は気づかれていない。
「真!周りに被害が及んではいけない!人気のないところへ移すぞ!」
2人と1匹は俺のいるところから急速に離れていった。
「お、おい!置いていくなよ!どうやって戦うんだよ!」
「考えるな、感じろってやつさ!イメージするんだ!イメージ!!」
太一がそんな助言を吐き捨てつつ、かなりの速さで道路の中心を駆け抜けている。その後ろをウイルスが追いかけていた。
地域行事であるために車は通らないらしい。
「イメージって言われても…。ジャンプであっちまで翔べたらいいんだろうけど…」
そしたらウイルスのところまで風のように追いつくことができるんだけどな…。
視界が赤くなるのを感じた。
・・・『ジャンプコマンド』
背中を押されるように俺という体が前へ翔んでいった。風の音に耳が塞がれた。
「う、うわああぁぁ!!なんだこれ!」
道路の脇に出店されていた屋台が姿を分身しているかのように見えた。それほどの速さだった
速さと質を持ち合わせた体はそのままウイルスの背中に……
ガシャーン!!・・・・プシュー・・・
倒れこんだウイルスには俺が衝突したときであろう深い傷が金槌で殴られたかのように残っていた。このウイルスに真が、装備していたソードを振りおろすと、だんだんと体が小さなブロックに分散していって、虚しく空中へと散っていった。
これがウイルスの『削除』というやつだ。
PWが開発した武器には、人間には無効、しかしウイルスには効くという、体をデータ化させる要素が入っているらしい。人間への被害を防ぐための対策らしい。
「高山さん、すごいです…。このよう倒し方は初めてみました…。」
真が感動した顔でこちらを見ている。別に意図的じゃないんだけどな。
するとどこからともなく女の声がした。
「高山くんすごいわね!初戦で1キルしちゃうなんて!」
芽花さんの声だった。
「ど、どこからの声だ!?」
「あぁ、これはね、ただの電話だと思っていいわよ。それにしても翔んでいるときの高山くんの顔、傑作だったわよ!」
「こら、芽花!そんなことを言うな!」
「高山さんは頑張っていたのですよ。」
太一と真も通信をしていた。どうやら俺は馬鹿にされているようだが、事実であったものはしょうがない。俺と太一、真と芽花は笑った。力が入っていた肩が自然と軽くなったようだ。
「高山くんって意外と根性あるのね!見た目と相反してて。」
「あぁ、外見が弱そうってのは知ってますよ。小学校からいわれ続けられてるから。」
事実と希望を込めて返した。
「言っておくが太一のほうがもっとひ弱っぽかったからな!」
「えぇっ!?僕か!?」
「今でも時々ひ弱っぽく見えます。自動販売機でお金を何回入れても返ってくるのに戸惑っているところを見るあたり。」
という、真の言葉。
今日の任務は終了。戦いは終わったので例のデータフライングで本拠点へ戻ることに…
ならなかった。
「太一!ウイルスだわ!東方向の高い建物の上にウイルスがまだ一体いるわよ!」
「なっ、なにっ…!やばい!!」
太一、真、俺の目線は一体に一致した。
はっきりと見えた。
数多なる人に向かって得体の知れない黒い物体を投げるウイルスが。
そいつは、『残虐』を始めるような、漆黒的な顔をしていた。
あの『黒い物体』は混沌と悲鳴を招くに違いない。あの存在を消さなければ。
やがて、ウイルスは投げた。まるで弾丸の速さで。まるで、大砲のような存在感を示しながら。
「あれを止めるためには…!」
・・・『ジャンプコマンド』
「いっけええええぇぇー!!!」
俺という体は、また飛んだ。
「俊太!無茶だ!」
急速に離れていく太一の声が後ろから、少しだけ聞こえた。
だが、止まらない。
このままあの黒い物体に直撃できれば、阻止することは可能なはずだ…!
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