第5話 就職

 気がつくと俺は深い眠りについていた。横になっていた。


 ゆっくりと目を開けると目の前には俺の顔を覗き込むように一人の女がの顔があった。

「あ!起きたよー!太一君きて!この人起きたよ!」


 な、なんだこの青色短髪の女は!?こんな状態で初対面なのに『この人』って中々言うじゃないか!

 あっ、でもこういう展開悪くないかも。目が覚めたら目の前に女がいて恋愛に発展して……ってそりゃないか。

 って、はああああああ!?目が覚めたら目の前に女の顔があるだと・・・・!?

「う、うわ!?だっ、だれだよ!?」

 上半身を起こして周りを見渡した。

「すーちゃん。いきなり大声を出さないの。あら、ごめんなさいね、その…その…お方。」

 近くに立っていた橙色の長髪の女がゆっくりとした口調で話した。

 『この人』から『そのお方』って言われた。なんだろう、この、寂しさは。

「ちょっと!『この人』とか『そのお方』とか言わない!相手に対して失礼よ!」

 今度は黒髪ポニーテールの女が喋った。どうやらこの部屋には女が3人いる。そこへ太一が扉を開けて部屋に入ってきたのが見えた。

「おぉ!俊太、起きたか!よかったよかった。無事に済んだな。よし、それじゃあみんなでご飯食べるか!」

「あっ、太一!ご飯って…突然すぎる!ここどこだ。それからこの女性の方たちは一体どういうことでしょう…。」

「俊太っていうの?よろしくね!みんなで一緒にご飯食べよ!ささ、早く!」

 さきほどの青色短髪の女が強引に喋りかけてきた。

「えっ、ちょっとまって…。ご飯って…」

「それはご飯食べながら説明するよ。あっちの部屋に行くぜ。」 

 そう太一が言うとみんな、ニコニコしながら扉からでていった。

 今の時刻、だいたい1時30分。やや遅めの昼食だが、とりあえずふかふかのベッドから降りて『あっちの部屋』へと足を運んだ。


 * * *

 

 机の上にはオムライスが並んでいた。あとさきほどの女3人組と男が自分も含めて3人いる。あれ、男が増えてる。

 ご飯を食べ始めて、とりあえず太一から説明してもらった。

「さっきの出来事を簡単に言うとだな、俊太の体をデータ化してここの家に送信した、テレポートしたと考えてくれたらいいよ。」

 どうやら今の世の中は俺の思っていた以上に発展していたようだ。

「『データフライング』って名づけたんだけど、この技術は俺たちが独自作ったんだ。外部には決して漏れないようにな!」

「なんか急展開すぎてまだ疲れが…。」


「はーい!じゃあ休憩がてらまだしていなかった自己紹介するね!」

 この青色の髪をもつ女、テンション高い。

「えっと、私は鹿屋菫かのや すみれっていうの!元気すぎてうるさいってよく言われるけどよろしくね!」

「じゃあこの流れで蓮も自己紹介して。」

 と、太一がその『蓮』という人物に自己紹介を薦めた。橙色ロングの女だ。

「はい。私は新富蓮にいとみ はちすって言いますの。新しいメンバーが増えてとっても幸せですわ。それから、好きな食べ物はカップラーm…」

「こっ、こら!女子力を忘れるなってこの前言ったでしょうが!」

 蓮の隣にいた黒髪ポニーテールの女が蓮の口を手で押さえつけていた。

「ごめんなさいね。私は肝付芽花きもつき つばなって言うわ。この2人が迷惑かけるかもしれないけど、まぁ何かと楽しい場所だから苦痛には思わないでよね。」


 個人的な第一印象としては、まず菫ちゃんはテンション高い。蓮ちゃんは巨乳で女子力不足疑惑。そして芽花ちゃんはお姉さん系で貧乳…いや触れないでおこう。


 そして、俺にはまだ知らない男があと1人いた。

「おい、真!俊太がお前のこと知りたがっているぞ!」

「わ、分かってるよ。えっと、あの、自分は吾平真あいら まことという者です。えっと、好きな物はパソコンです。よろしくお願いします…。」

 真面目そうだが、少しだけコミュ症のようだ。メガネをつけていて、結構イケメンの顔だというのに。

 この後、俺も自己紹介をした。

 俺が今確認できたことは、まず「高山俊太の過去は5人みんな知っている」次に、「この家が会社の建物で、6人の共同生活が始まる」ということ。その他諸々。情報量の収穫は少ないと思うが、みんなでガヤガヤできたからよしとしよう。

 だが、ここで大事なことに俺はようやく気づいた。

 

 俺の仕事ってなんだ。


 人々がどうのこうのって言われたけど。不安しか感じない。

 昼食後、時間があったので太一と2人で話をすることにした。

「太一、俺って結局どんな仕事をするんだよ。」

「俊太、今から言うことが初めはよく理解できないと思うけど落ち着いて聞いてね。」

 心の準備はできているつもりだ。


「今、この町は滅ぼされる危険にある。そして人々が削除される危険もある。」


 滅び・・・?削除・・・?この世界はそんなに変わってしまったのか?

「『人々』というのは、当然、俊太も、ここにいる菫、蓮、芽花、真、そして僕。みんな含まれているんだ。」

「削除って・・・。俺たち、何か悪いことしたのかよ!?」

「分からない。この『滅び』と『削除』を行おうとしている人物…。僕たち5人で徹底的に分析した限り、1人しかいない。」

「ひ、ひとり!?1人でこの街の破壊と殺人をやろうっていうのか!?なんてやつだよ……。」

 詳しく聞くと削除というのは、死ではなく、人体がデータ化されてそのデータが削除されることを指すらしい。

「僕たちはその1人をデスブレイカーと呼んでいる。こいつの目的はさっぱり分からないがじっとせずにはいられない。デスブレイカーから町と人々を護るために僕たち5人は立ち上がったんだ。そこに俊太も参加してほしいということだ。」

 俺たちは話を続けた。そして情報の収穫量は大きくなった。

 ここは会社ということは嘘であり、秘密組織、『PW(Protect the World)』として外部にバレないように動いている。


 PWで働いている5人のレンズフォンは実は携帯としての役目を果たしておらず、対デスブレイカー、『レッドレンズ』としての役目を果たしている。しかしそれは、元のレンズフォンを禁止されている改造行為によって得たもののために、レンズフォンの正しい使い方を普及しようとする㈱Oceanの子会社、Portから度々追われている。一般人の改造行為も多く見受けられ、正しい使い方を普及するという社会貢献的な活動の一環としてこのPortという組織が作られたらしい。


「じゃあ、そのPortって奴らに捕まったらどうなるんだよ。」

「警察と連携している組織だから多分牢屋行きだろうね。でも捕まらないよ。データフライングという独自の技術もあるし、何より僕たちがついてる。何かあったらお互いさまってやつだ。」

 まるで太一は俺を迎えてくれているようだった。


 俺と太一が話していると突然、家の中に警報音が鳴り響いた。


「な、なんだ!?火事か!?」

 すると、芽花がドタバタと足音を立てながら扉を開けた。明らかに緊急状態な顔であった。

「太一!ウイルスがきたわ!発生場所は神社。すぐに準備してちょうだい。」

「ウ、ウイルス!?今、流行の季節だっけ?」

 ウイルスが発生…。意味はよく分からないが、芽花の顔からして異常な状態だということは分かった。

「おっと、言ってなかったな。デスブレイカーが量産している敵を僕たちはウイルスって呼んでるんだ。今から削除しに行く。俊太の初任務だ。俊太も来い。」

「えっ、待ってって…。その、ウイルスってどうやって倒し…」

「つべこべ言わないでさっさと行くの!人を護ることが私たちの仕事よ!」

 芽花が俺に向かってそう言うと、俺の腕を引っ張ってさっきの食事をした部屋まで引き連れてきた。そこには真と太一がいた。

「こんな自分だけど、一応…戦えるから…。もし足を引っ張ったときは許して…。」

「真!もっと自信を持て!大丈夫だよ!さぁ、2人とも、行こう。…。データフライング、開始。」


 高山俊太、24歳。ニート歴2年経験済み。仕事は、町と人々を護ること。

 俺の仕事は幕を開けた。


 いざ、出勤。

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