第2話 再受信
午前6時、起床。ベッドから立ち上がりボサボサの髪の毛をそのままにいつもの場所へ向かう。え?早起きをするだなんてえらいですねだって?
ちげぇよ、7時から始まる戦争に準備するために起きたんだよ!もちろんオンラインゲームのことだ。
部屋の隅にあるいつもの場所、パソコンデスクの元へついた。
窓からは小鳥たちと親鳥の姿が見える。小鳥たちが親鳥に向かって必死に小さな声を出しながら餌を要求している。巣は少しもろそうに作られている。そこで親鳥はどこかへ飛び立った。ご飯を探しに行ったのだろう、小鳥たちを残して。
先日、両親からの仕送りのダンボールの中に入っていたサンドウィッチという餌を口に頬張りながら俺はパソコンを起動させて、まっさきにオンラインゲームへログインした。今日から始まる大会では、ランキング上位入賞者にはそれ相応のレアアイテムがもらえる。
「さて、今日もいっちょ、やってくか。」
小さな部屋だが、このデスクトップという箱庭は脳内で巨大に創造されている。右手にはゲーム専用マウス、左手は軽くキーボードに置き、ウォーミングアップがてら、デスマッチモードでFPSを開始した。今回の大会では優勝を勝ち取るつもりだ。力が入る。
選択武器はスナイパー。優勝を勝ち取るとか言っておきながら後方支援派だ。いつも行っている作戦としては簡単に説明すると、戦場内の高台へ登り、そこから隠れつつヘッドショットで倍のポイントを獲得するといった感じだ。
今の時間は6時10分頃。まだ早い時間帯なので、少数のデスマッチが始まった。パソコンと向き合っている自分とゲーム内の強い自分はまさに阿吽の呼吸、心が一致しているはずだ。そう願いつつ作戦通りに、高台へ登った。使用武器はいつだって初期装備。立っていると身がバレてしまうが、しゃがんでいると隠すことのできる小さな壁に身を潜めて、
「準備完了。目標はノーデス10キル。」
と、任務っぽく言ってみた。いや、別に中二病じゃないって。今日の個人キャンペーンではノーデス10キルでレアガチャ券が3枚もらえるのだ。俺はそれが欲しい。たかがゲームなのにな。我ながらおかしい話だ。
外の小鳥たちは未だに親鳥を待っていた。ご飯を待っていた。必死に小さな声をあげていた。その背景の空に別種類の鳥の群れが飛行していった。これから弱肉強食の世界が開幕するのであろう。
戦場の俺は早々と1キル、2キル。戦場では後方支援派と言ったが多分あれは嘘だ。M4とかを使ってる味方よりポイントを稼いでいた。やはりヘッドショットが効いているのであろう。
ゲーム開始3分後、6キル。あと4キルで任務達成。レアガチャ券3枚だ。そろそろ相手も『正々堂々かかってこいよおおおお!』と嘆くことだろう。そういう精神はない(断言)。射撃してはしゃがみ、弾が減ったら補充する。この順調な流れに歯向かうかのように、突然1通のメールを着信した…。
「うわああああぁぁぁ!!!!」
ここから始まる私の雄叫びを解説しよう。
まずパソコンの設定上、メールを受信したらウィンドウをが展開され、美少女がメールをすぐに開くか否か問う。よってウィンドウと美少女展開。
「メールが届いたよ!」
するとオンラインゲームは自動的にエスケープを押した状態になる。シフトを押してしゃがんでいた状態が解除される。
つまり、ゲーム内の俺は高台で何も動かず、放置された状態になる。
ゲーム好きの皆さんなら容易に俺の状態が想像できるかもしれない。
そこで敵の一発の銃声が鳴り響いた。
パアアアァァン・・・・・・・・
ゲームデータにに1デスが記録された。
「あああああぁぁぁぁ!!・・・・・あぁ。・・・・・あぁ。」
嘆いた。任務失敗。さよならレアガチャ券。
「なんでこんなときにメールがくるんだよ!しかも太一からじゃん!懐かしいなおい!!・・・・え?」
太一、俺の小学校からの旧友だ。
俺はたった今、2年振りに友達からのメールを受信した。
外では親鳥が帰ってきて餌を小鳥たちに与えていた。口いっぱいに餌を頬張っていた。すると、小鳥1匹が空を飛び始めた。親鳥と飛んだ。そして、2匹目、3匹目と次々と飛び立っていった。新しい巣を作りにでもいくのだろうか。巣は何も無くなった。中身のない、空のゆりかごとなった。
俺は恐る恐る受信したメールを開いた。1年振りの旧友からのメールなのだ。もしかすると、これはフィッシングメールなのではないかとでさえ考えた。手を振るえさせながら「メールを開く」のボタンを押した。
Title:おひさ!
Body:太一だぜ!いやぁ、懐かしいなぁw お前とは何年振りのメールだろww
突然過ぎて悪いんだけどさ、今から会わない?今、仕事の休暇もらってお前ん家の近くの丸岡公園まで来てるんだよねww
ブランコたっのしーwwww
てか来いよ!大人が1人でブランコをしているだなんて恥ずかしいからな!それじゃ、待ってるぜ! 太一
・・・・は?いや、突然過ぎることも驚きなんだけどさ、すぐそこの近くの公園まで来ているんだったら普通に俺の家に来たらよくない?
いずれにしても突然すぎるメールだ。
もしかしていたずらか?だが太一に限ってそのようなことをする奴ではない。疑い深いが信じてみることにした。
あっ、あとどうでもいいけど、FPSをしているときって独り言が激しくなるよね。
「あっぶねぇ!」とか、
「こいつ許さん!」とか。
・・・・・。
あっ、俺だけ?独り言が激しくなるの俺だけ?
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