第2話「呪われた村」

「なんだ、村ふつうにあるじゃん♠」


 言って蒼刀はあまりにあっさりと村を見つけ、その中に入る。

 そこにあったのはまさに文明開化が遅れた土人の村。

 それは木造建築の家ばかりであり、その様式もまさに百年以上前のもの。

 中には江戸時代を思わせる敷き詰めた藁を屋根にした古めかしい作りの家まであった。


「おや、こんな村に客人とは珍しいね」


 見るとそこには畑で働いている気の良さそうなお婆さんがこちらに声をかけていた。


「あんた、この村にはなにをしにきたんだい?」


「うん、ちょっとね。男の子を一人と女の子を二人探してるんだ。お婆さんなにかしらない?」


「男の子に女の子……? はて、この村には子供なんていないけどねぇ」


「ふーん、あっそ♠」


 そう言って明らかにとぼけているお婆さんを無視し、先を進もうとする蒼刀の後ろから再び声をかけてくる。


「あら、待ちなさいよ。これ、よかったらお食べ」


 そう言って差し出されたのは柿の実であった。


「ついさっき採ったばかりだから。遠慮はいらないよ、もらっていきなさい」


 そう言って人のいい笑顔を浮かべるお婆さんに蒼刀はハッキリと答える。


「いらない。どうせ毒か頭がおかしくなる薬でも入ってるんでしょう? やるならもっとバレないようにやりなよね♥」


 そうハッキリと返し、お婆さんの足元めがけ数枚のトランプを放つ。

 放たれたトランプがお婆さんの頬を掠め、そこから一筋の傷と共に血が流れ、唖然とした表情のままお婆さんは固まっていた。






「さてと、この村、予想よりもやばそうな匂いがプンプンだね。さっきのお婆さんも人のいい顔してたけど、あれ確実に裏で何人か殺ってるだろうし◆」


 言って常人にはまずわからないであろうサイコパス特有の感性を持つ蒼刀がそう感じていた。

 おそらくこの村にいる住人、一人たりともまともな人間はいない。

 すでに全員狂っている。

 そう確信し、行動に移っていた。


「やあ、あんたかい。千恵子婆さんの言っていた客人ってのは」


 見るとそこにはなにやら荷物を背負った青年がいた。


「あんた今日は泊まるところないんだろう。だったらうちに泊まっていかないかい?」


「うーん、どうしようかなー♠」


 いきなりの誘いにひとまず悩むふりをする蒼刀。

 ついで気になってることを聞く。


「ところでその荷物はなんだい?」


「ああ、これかい?」


 そう言って男が背中から下ろした箱を開けると、その中に詰まっていたのは――虫。虫。虫。虫。蟲蟲蟲蟲蟲の地獄。

 ムカデ、蜘蛛、ありとあらゆる毒虫たちが籠の中でうじゃうじゃと蠢いており、それを掴んでは男が満面の笑みで答えた。


「いいだろう、今夜のおかずさ。あんたにも食べさせてあげるよ」


 そんな男の狂気に満ちた笑顔に、しかし、それを上回る氷のような冷酷な笑みを浮かべ蒼刀は持っていたライターに火を点け、それをそのまま虫籠の中に放り入れる。


「いらない。ひとりで食べてれば♥」


 次の瞬間、籠の中の虫がものすごい勢いで燃え出し、男の手にも炎が引火し、ぎゃーぎゃー騒いでいるのが後ろで聞こえたが華麗に無視して村の奥へと足を運ぶ蒼刀。


 やがて村の広場のような場所でなにやらボール遊びをしている子供たちを蒼刀は見つける。


「へぇ……彼らが、そうかな?」


 さらわれた、風には見えなかった。

 そこには男の子と女の子が仲良さそうに手作りの手鞠を投げては遊んでいた。


 やがてこちらに向かって歩いてくる蒼刀に気づいたのか子供二人が近づいてくる。


「あれー、お兄ちゃんだれー?」


「この村に誰かが遊びに来るなんて珍しいねー!」


 そう言ってまるでこの村の住人であるかのような口ぶりの少年少女。

 話に聞いた外見からこの二人が行方不明になった子供たちで間違いはない。

 ただし、残り一人の少女は見当たらないようだ。


「うん、実はね。僕は君たちの両親に頼まれて君たちを探していたんだ。確か他にもうひとりいたはずだけど、あとの一人はどこにいるのかな?」


 そんな蒼刀の問いかけに男の子と女の子はキョトンとした表情のまま答える。


「なに言ってるの、僕達ちゃんと三人で遊んでるよー」


「ねー」


 言ってその子達が差し出した手鞠を見て蒼刀は気づく、そこから滴る赤い染みと雫に。


「ねえ、お兄ちゃんもここに留まって一緒に遊ぼうよー」


 そう言って手を伸ばそうとする男の子の手をなにかが切り飛ばす。

 それは蒼刀の手に握られたトランプであった。


「お・こ・と・わ・り♥ 遊びたいなら君たちだけで遊びなクソガキ共♠」


 一瞬、自分の腕が切り落とされたことにキョトンとする少年。

 だが次の瞬間、隣の少女と一緒に笑い合い、その表情のまま蒼刀へと飛びかかる。

 それを蒼刀は瞬時に回避し、避けると同時に少年の喉元を特殊合金で作り上げ刃物と同じ鋭利さを持つトランプで掻っ切る。


 少年は喉元を押さえたままそのまま倒れこみ、少女はまるで獣のように蒼刀へ向かっていく。

 蒼刀はそれをなんなく手で捕まえ、頭部を握り締めたまま、ギリギリと頭蓋骨を砕くほどの握力で自分の顔の眼前まで少女を持ち上げる。

 少女はあまりの激痛に叫び声をあげ、必死に手から逃れようとするが腹パンの一撃で悶絶させる。


「僕さー、死人には興味ないんだよねー♠」


 と言ってどこかで聞いたようなセリフを吐いて蒼刀は少女の頭を握り締めたままそのまま、彼女の頭蓋を砕いた。

 ゆっくりと頭部が砕かれた死体がぐしゃりと地面に落ちる。


「こういう出来の悪い化け物みたいなのが相手っていうのはなんだか萎えるなー♠ やっぱ殺るなら人間の方がいいかな♥ けどまぁ」


 言って蒼刀は足元に転がる子供ふたりの死体を蹴飛ばし、その先を歩いていく。

 やがて、見えたのは一面に広がる不気味な森。

 そして、その森の奥、小高い山の中に見えた神社の姿であった。


「まだまだ面白そうな場所が残ってるじゃないか♠ あそこになら、殺しがいのありそうな獲物が潜んでそうだね、ふふっ♥」


 そう言ってサイコパスである蒼刀の笑みに浮かぶのは殺戮へと快感と興奮。

 彼がこの呪われた村に求めるものは狂気でも、まして謎でもない。

 彼にとってはこの狂気に染まった村ですら単なる遊び場、テーマパークに過ぎない。

 どのような怪奇現象も、村人たちの奇怪な行動も、その正体も、ぶっちゃけどうでもいい。

 ただ自身がより遊べる場所を求め、サイコパスは更なる深淵へと足を運んでいく。

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