ホラーにサイコパスを投げ込んだ結果

雪月花

第1話「サイコパス」

「あの村は呪われている」


「あの村の住人は狂っている」


「あの村に行ったが最後、生きては帰れない」


「あの村なんてものは存在しない」


 それはある都市で噂されたとある村のお話。


 ここから北の山を超え、森を抜けた先に集落のような村がある。

 あまりに入り組みすぎて車もいけないほどの場所。

 そのような場所のため、都市開発はおろか人の手が届くこともほとんどなく2010年を越える現在においてもその村の文明技術と時代は一世紀以上も遅れていると言う。


 だが、本当に恐るべきはその村に関する伝承。

 いわく、その村は呪われている。

 一度誰かがその村に入れば外に出ることはできない。

 入った旅人は村の『歓迎』を受けて、村の住人となる。

 このため、村の話が外に伝わることは一切ない。


 ならばなぜこうした噂が広がったのか?

 それは村から脱出した者が息も絶え絶えに口にしたからだ。


 その者はこの都市近くの道路で発見されたという。

 全身の皮を生きたまま剥がされ、口から血の泡を吐きながら最後にこう呟いたとされる。


「あの村は呪われている。あの村の住人は皆、人間じゃない」


 それだけを呟いて男は死んだ。


 それは嘘か誠か。

 あるいは作り話なのか。

 真実はわからない。


 それでもそうした噂話を確かめようと都市の子供たちがその村のある山の向こうへと行き、数日が経っても戻らなかった。

 都市中の大人が騒ぎ、捜索隊が編成されたが山からなにかが見つかることはなかった。

 山の向こうにも行ったがそこには村なんてものはなかった。


 子供たちはどこへ行ったのか?

 山のどこかで遭難しているのか?

 それともすでに死んでいるのか?

 あるいは『村』とやらへ行ったのか?

 真実はわからない。


 わからないが、子供たちの両親の一人が藁にも縋る想いでその人物に頼んだ。


「お願いします……報酬はなんでも払います。ですから子供たちを見つけてください……」


「うん、いいよ♥」


 その男は一見すると人の良さそうな笑みを浮かべた好青年。

 どんな社会であろうとも自然にそこに馴染み、いつの間にか溶け込むことを得意とする常識の中に存在する怪物。

 それをこの両親は知らなかった。


 彼の名は音霧おときり蒼刀あおと

 生まれてからこれまで百名以上の人を殺し、その証拠を一つとして世間にバレることなく隠蔽し続けた歴史上最悪のシリアルキラーにしてサイコパスであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る