見切り町の招き猫

櫛木 亮

第1話 紅玉一丁目

 招き猫。

 聞こえはいいが、よく考えてみてほしい。


 招き入れるとは、一体どういう事かを。


 店を訪れる。招かれる。客として?

「注文の多い料理店」というお話をご存知か? ふたりの男が二匹の猟犬を引き連れ、迷い込んだ薄暗い森。その奥にこれでもかというほどの異質な料理店。疲労はピークに達し、腹は減る。そして、寒さまでもが後押したのだろう、謎めいたメモに書かれた事を躊躇なく実行していく。壺に用意されたクリームを顔から身体中に塗り、酢を香水のように振りまく。塩とハーブを擦り込んでいく。

 読んでいるコチラが『おかしいだろう』と幾度となく思うのに、男たちは狂ったかのように深みにハマっていく。

 大きな目玉の化物に最後は喰われそうになるが泡を吹き死んだと思われた猟犬たちの唸り声と共に追い払う。恐怖で強ばった男たちの顔は紙くずのようにクシャクシャになったままだった。裸の男たちの滑稽な姿は情けないやら可哀想やら……とまあ、そんなお話。


 詳しいお話は自分の目で読んで確かめて、好きなように解釈すればいい。

 お噺が横道に逸れる前に本題に戻りましょうか。


 此処は見切り町。紅玉一丁目。

 真っ赤な煉瓦の屋根がこの町の第一印象だ。


 さて、キミは都市伝説なんてモノを信じるかい?


 そう、馬鹿にするんだね?

 うん、それも悪くない。


 此処は、そんな不思議が右往左往する不思議な町。


「七色眼鏡店」

「双子の衣料品 唐品一号店」

「寧音 音楽屋 (ネオン オンガクヤ)」

「見切り町図書館 (楽園堂)」


 そして今回のお噺の舞台の

「浪漫擦屋 (ろまんすや)」


 赤い鳥居が『おいでおいで』と、手招いていますね。


 さあ、覗いてみましょうか……


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