私立桜花高校B(OYS)クラス

ゆき

第1話「女子校、入学してみた」

俺の名前は桐生雄二、今年から高校生になる。気分は最高だ。なんせ俺にはこれから輝かしい青春の日々が待っているんだからな。

 そんな俺の輝かしい青春の話をさせてもらうぜ。誰かに話したくてたまらない気分なんだ。






 楽園なんてものは探せば意外と近くにある。

 例えば? 例えばって言われても困るんだけど…。


 だって、何をもって楽園とするか何て人それぞれだからな。価値観の違いってやつだ。

 ゲーセンが楽園だっていうやつ…自分の部屋が楽園だっていうやつ…好きなものがあって好きなことが出来ればそこはそれだけでその人にとっての楽園に成りうる。




 

 とは言え、まさか県内に「今年度から共学になる女子校」なんて夢のような物件が実在しているとは、自分で調べておいてなんだがあるとは思っていなかった。




 -私立桜花高校。

 県内の高校事情なんかには疎い俺ですら名前くらいは聞いたことがあるお嬢様高校だ。

 そんな男子禁制のお嬢様高校がまさか今年度から共学になるなんて、誰が予想していただろうか。きっとクラスメイトはみんな清楚でお淑やかで、それでいてかわいい女の子に違いない。そう考えるだけでニヤニヤが止まらない。


 そんな楽園へと今まさに向かっているわけだ。

 そう、今日は入学式。実はこういう儀式的行事は苦手なんだが、やや緊張した面持ちのクラスメイト(美少女)たちとの邂逅、先輩(美少女)方の歓迎、エトセトラ………とにかくこれから起こるであろう何を想像しても楽しいんだ!


 なんて想像をしているとますます入学式が楽しみになってしまい、俺は露骨にそわそわし始める。

 電車は空いてるのでそんな俺を見て怪しまれるようなことはない。なので存分にそわそわしてやる。そわそわ。そわそわ。


 約二駅ほどを通過したところで我に返る。客観的に見るとすごく気持ち悪かったんじゃないか。今の俺。


 一息ついて車窓から流れる風景に目を向ける。田舎だ。見渡す限り山と森しかない。

 これ、学校からの帰りとか危ないんじゃないか?

 街灯とかなさそうだし、変質者でも出たら大事だろ、特にさ、今向かってるのはお嬢様高校なわけだし?


 かわいいだけでも標的になる可能性があるのに、ましてや金持ちともなるとなあ…


 警備員でも雇ってるのか?お嬢様高校らしく。…金持ってんだなあ。



 勝手な想像をしているといつの間にか学校の最寄り駅に着いたようだ。


 いくら県内と言っても公立高校の区分で言えば学区はかなり離れている。まあ遠いのだ。かなり時間がかかった。余程のことがない限りまずこれだけ離れている学校に進学しようなんて思わないだろう。………余程のことがあったから進学したわけだけど。


 それにしても……いくら遠いって言ったって始発はやりすぎだったかな。少し反省する。


 電車に乗る習慣がなかったからあとで知ったんだけど、どうやらうちの最寄りは他と比べて始発がかなり早いらしい。



 電車を降り、改札から出る。そして辺りを見回す。


 ほとんどはさっきまで車窓から眺めていた風景と変わらない。ひたすら山と森。

 …と、山の中に一箇所、明らかに森の開けた場所がある。


 なるほど、あそこか。

 結構距離があるな…しかも見たところずっと畦道なんじゃないか?そして車内からの印象通り街灯もあるにはあるがそう多くはない。これだけしかないんじゃ結局暗い。


 まあ仕方ないか。

 この道の先にある楽園を思えば足も軽くなるというものだ。

 俺は力強く畦道を進んで行く。





 手元にははがき。そのはがきには、俺の入学を祝うメッセージ、担任の名前、そして自分の所属するクラスが書いてある。

 入学式の前に教室でクラスメイトとは先に顔合わせをしておいて、親とは入学式の会場である体育館で合流するらしい。


 担任の名前は村上千秋。顔写真がないのが残念だが名前からして恐らく女性だ。まあ所詮は先生だし多くは望まないけど…担任だし…まあそれなりに優しければ…いや、やっぱり授業も分かりやすい方が嬉しいな。担任に悪い印象を持ってしまうとそれだけで学校生活は辛くなる。そう考えると色んな条件を付けたくなってしまう…う〜ん…若くて綺麗だったらいいや。



 ガタガタの道を歩くこと十数分。

 近付くにつれて大きくなっていく校舎に俺はただただビビっていた。…広すぎるだろ。


 やっと学校の前まで到着する。


 まず驚いたのはその巨大さとデザインだ。それは学校というよりは中世ヨーロッパの城、豪邸とでも言った方がしっくりとくるようなデザインで、そしてサイズはそれこそお城サイズ。

 昇りかけの朝日を受けて輝く真っ白な校舎はまさに清廉潔白、少し脚を踏み入れにくいような印象を受ける。


 そして大きな正門の前では俺がここまで登ってきた畦道と、綺麗に舗装された車道が合流している。


 駅からの道はこっちしかなかったはずだが、どうして向こうの道だけあんなに綺麗に舗装されてるんだ?

 街灯もやけに多いし、あれなら暗くなってからもある程度は安心だろう。



 一通り辺りを見回したあと、ほんの少し勇気を出して颯爽と門をくぐり抜ける-、その瞬間「ビィーーーーービィーーーーー」と大音量で警報が鳴り響いた。


 え、なに?なになに?


 俺は反射的に駆け出し、季節の花が咲き誇る綺麗な中庭なんかには目もくれず、校舎の中へと飛び込んだ。

 それから数分間、警報が鳴り止むまで校舎の中を無我夢中で走り回り、警報が鳴り止んだ頃には自分がどこにいるのかサッパリ分からなかった--




  

 校舎内の教室見取り図と手元のはがきを見比べながらさまようこと数十分。やっとのことで1-Bと書かれた教室を見つけたので入ってみる。


 外から見たときにも思ったが、広すぎるんだよこの校舎は。途中でよく分からん教室を大量に見かけたぞ。

 「数学実験室」とか必要か?たしかにたまに実験することはあるけどさ、その大半が教室で出来るよな?特別な道具なんかいらないし。


 文句を垂れながら入った教室にはまだ朝の冷気が立ち込めていた。さすがにまだ朝は寒いものだ。

 教室には20弱ほど新品の机が並べられている。


 …さすがに俺以外まだ来ていないか。

 とりあえず自分の名前が書かれた紙が貼ってある机を見つけて着席する。しばらくは待つしかないだろう。


 そうして待っていると、1人の男子生徒が入ってきた。

 まだ俺が来てからそう時間は経っていない。

 ハハ。こいつも張り切って早く来ちまったクチかな。気が合いそうだなと思いながらもそのときは軽い会釈だけで済まして窓の外を眺める。


 さすがは金持ち私立だけあってグラウンドの設備もしっかりしている。プールも屋内にあるらしいし、スポーツへの力の入れ方がとても女子校だとは思えないほどだ。

 まあ、今年からは女子校じゃないんだけどな。




 次々と生徒が入ってきて、次第に席が埋まっていく。

 男子。男子。男子。


 …おいおい、マジかよ。男共張り切りすぎじゃないか?女子はまだ1人も来ちゃいないのに、男子は10人以上いやがる。

 というか、席があと1つしか開いていないんだが!?最悪のケースが頭をよぎる。


 もしあの席にも男が座ったら…………


 周りを見回すと、多くの生徒が俺と同じように不安そうな顔で周りをキョロキョロと見回している。


 すると、隣の席のやつと目が合った。怯えた目をしている…怖いんだな…俺もだよ…

 お互いの恐怖を紛らわすように怯えた目をしたまましばらく見つめ合っていると、向こうから声を掛けてきた。


「な、なあ…これって、一体…?何が起きているって言うんだ……?」


 そんなのこっちが聞きたい。


「分からんが…来ないな。男しか。もしかしてあの最後の席も…」

「やめろォ!!!!」


 誰もが想像しているであろう''最悪のケース''を口に出しかけたところで、反対側に座っていたやつの大声に遮られる。

 教室が静まり返る。

「口に出しちまったら…認めるしか…なくなるだろうが……っ!」

「…ごめん。」


 俺は自分の行動を激しく反省した。

 そうだ。あの席にはきっと美少女が…





 そして--

 教室のドアが大きな音を立てて開く。教室中の目線が入ってこようとする人影に注目する。

 その人影はまず最初に驚異の着席率に目を丸くした。そして自分が異様に注目されていることに気づくと、手元の腕時計を覗き込む。

 どうやら自分が遅刻したのではないかと思っているようだ。安心しろ、それはない。まだ時間まで30分以上ある。



「あ、あれ…?まだ時間大丈夫だよね?みんな早いなぁ〜」


 ボサボサの金髪に学ランを着た『ソレ』は、誰がどう見ても、間違いなく男子だった。


 そのまま入り口で固まる金髪。どうやら彼も異変に気付いたようだ。


 そうだ、このクラスには……





「「「「「男子しかいねえ〜?!?!?!?!」」」」」


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