第136話 動き始めた計画 その3

 少しばかり期待を持って質問した途端に、まるでからかうように意見を否定されて俺は少々気を悪くした。


「じゃあ何しに来たんだよ」


「だからどこまで出来るようになったか見てやるって言ってんだよ。今何割くらい出来てるかってのが分かれば目安にはなるだろ」


「あ、ああ……」


 何だか上手く言いくるめられ、俺は返す言葉がなくなる。何だかんだ言っても今反転が使えるのはソラだけだ。彼の言葉はきっと俺の今後の修行に役に立つ事は間違いない。修行の途中経過を見せる事で、そこから先の有効なアドバイスを何かもらえるかも知れない。そう思えばこそ、この生意気な態度に対する言葉も何とか飲み込めたのだった。

 そんな俺の見えない葛藤を全く気にする事なく、当の本人は興味本位100%の顔で俺の顔を覗き込んだ。


「じゃ、ちょっとやってみ?」


 その脳天気な顔をマジ顔に変えてやろうと、俺は早速まぶたを閉じて意識を集中させる。体に流れる力を光のイメージに。そしてその先へと――ッ!


「はぁぁぁ……」


「はいダメー!」


 集中してまだ3秒も経たない内にソラはいきなりダメ出しをする。あまりと言えばあまりの即決ぶりに俺は呆れてまぶたを上げた。


「まだ何もやってないんだけど」


「そうやって気負うところからダメ。こんなのは呼吸と一緒だよ。やろうと思った時には出来てるもんなの」


 さすが反転習得者の言葉は重みが違う。やろうと思ったら出来ているとか、天才が指導する時の言葉だよ。凡人にはちょっと理解出来ない。きっとソラも具体的に説明とか出来ないんだろうな。そんな役に立ちそうもないアドバイスを受けた俺は少し皮肉交じりに言葉を返した。


「それで出来るのはソラだからだよ」


「いや、リーダーにも出来るって。経験値溜まってんだから」


「そ、そうか?」


 何か微妙に褒められた気がして俺は少しだけ機嫌を戻す。いつも得意分野の話題に関しては馬鹿にされてばかりだったからな。ソラは反転のお手本を見せようとしているのか、俺が見ている前で構えっぽいポーズをとる。


「反転ってのは応用だから。ちょっと見ててみ」


「な、何を?」


 俺がその言葉を真に受けてその動きに注目していると、彼はごく自然な動作俺の肩に手をぽんと置いた。


「ほい」


「うおいっ!」


 ソラが俺の肩に手を置いた瞬間、勢い良く体が一回転してそのまま床に叩きつけられる。体が勝手に動いたために思わず変な声を上げてしまった。そうして叩きつけれた後はしばらくの間、全く体を動かす事が出来なかった。

 床に寝そべった状態の俺を見下ろしながら、彼はドヤ顔で軽い感じで言い放つ。


「ま、これだよ。まずはこれを目指して」


「いやそんな急に言われても」


 さっきの一連の動作、どうやらこれが反転らしい。どうやらソラはスーツを装着していない生身の状態でもこの技が使えるようだ。スーツに流れる力を逆転させるのが反転と言う技の本質だけど、応用次第で色々な事が出来るらしい。

 彼自身が実践でそう言う使い方を見せていなかったから新鮮な感じがする。


 まぁ技を受けたから自分もすぐ使えるようになるとか、そんな都合のいい話でもないんだけど。ずっと寝転がったままの俺を見下ろしながら、ソラは話を続ける。


「スーツは元々そう言う力を具現化するために作られたものなんだぞ」


「マジで?てかなんでソラがそんな事を……」


 彼があまりに詳しいので俺は思わず突っ込んでしまう。するとソラはこの質問を聞いて少し淋しそうな表情になった。


「俺、セルレイスでテストプレイヤーだったから」


「あ、そう言う……」


 この一言で大体の事情を察した俺は何も言えなくなってしまう。それから体の自由が戻ってきて俺は上半身を起こした。それを確認した彼は俺を励ますように珍しく前向きなアドバイスを口にした。


「スーツ未装着状態ならリーダーに俺と同じ事は出来ないよ?でもスーツを着れば出来るようになる。そうなってる」


「そ、そうなのか?」


「まず心の枷を外して……自分は出来るって信じ込むんだよ。そうすれば楽勝だから」


 ソラの言葉を聞いた俺は言われた通りに自己暗示をかけていく。ただ、こう言う事をするのに慣れていないのもあって、まだどこかに半信半疑的な部分が残っていた。


「う、うーん」


「だからリーダーの場合は常識が邪魔をしてるだけなんだって。俺を信じてみろよ」


「わ、分かった」


 やはりマスターしていると相手が今どのくらいのレベルまで習得したのか感覚で分かるらしい。彼のアドバイス通りに真剣に思い込みながら、物は試しとさっきのソラと同じように俺は目の前の少年の肩に軽く手を置いた。


「あれ?」


「はぁ……。まだまだだな」


 ただ肩に手を置いただけのその行為に彼は呆れてため息を吐き出した。それから俺の手を軽く払うと訓練室のドアに向って歩き始める。急にはしごを外された気になった俺は、慌てて遠ざかる背中に向って声をかけた。


「ちょ、どこに」


「それが出来るようになったらまた見てやるよ」


 ソラはそう言い捨てると、そのまま訓練室から出ていった。勝手に入ってきて勝手にアドバイスをして満足したら勝手に出ていく。その自分勝手な行動に俺は呆れてため息を吐き出した。


「全く、自由だなあいつは」


 おせっかい少年がいなくなったので、また訓練室は俺1人の空間となる。状況がリセットされたと言う事で俺は軽くストレッチをして体を解すと、反転習得のために修行を再開させる。

 今度はソラのアドバイスも取り入れてみよう。折角アドバイスをしてくれたんだし。


「じゃあ、やってみっか……まずはリラックス、そして集中……」


 これで習得に向けて少しでもパワーアップしたらいいんだけど、そんな簡単には行かないんだろうな。俺はヨガっぽい座禅をすると呼吸を整え、スーツに流れるエネルギーの制御の段階から気持ちを高ぶらせていった。



 その頃、悪の2人組は計画書の指示に従い、とある無人の施設に辿り着いていた。該当の場所に着いたと言う事で、ファールゥがセンに話しかける。


「ここですか」


「無人の施設故、肩慣らしにはちょうどいいかと」


「じゃあ君はそこで見ていろ。私の力を見せてやるよ」


 MGSの幹部はそう言うと施設に向って手を伸ばす。魔法使いと言えば魔法を使う時に杖を構えるのが定番だけど、彼は何も持たずにただ破壊対象に向って手をかざしただけでその力を普通に使えるようだ。


「炎の森!」


 特別な呪文の詠唱もなしに、彼は魔法の名前だけで強力な魔法を使った。これはMGSの魔法使いに共通する技能だ。多分全員がその技術をマスターしているのだろう。

 ファールゥの放った魔法は強力な炎で対象物を焼き尽くす魔法だ。何もない空間にいきなり炎が発生し、一瞬で施設は爆発炎上する。

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