第135話 動き始めた計画 その2

 所長のプランの中には俺達ヒーローのパワーアップの事も当然入っている。戦力の増強は必要不可欠な要因だからだ。その流れでモモは独自の動きをしていたのだけれど、熱心に話をする上司の前で弱気の言葉をこぼす。


「でも、リーダーの反転の方は……」


「だからそれは計算に入れてないよ。余計なプレッシャーは与えないつもり」


「だとしても、何とか間に合わせないといけませんよね」


 モモはシリアスモードで所長の顔を見る。その顔を見て、改めて所長は意気込んだ。


「協力、お願い出来る?」


「私で良ければ喜んで!」


 こうしてヒーロー側が未知の危機に対しての対処を始める中、悪の総本山でもあるセルレイス本部では前回の作戦の失敗について、黒スーツの適合者であるセンが黒スーツ男から冷徹に責められていた。


「失敗したな……仲間を置き去りにして」


「面目ない、申し開きはいたさぬ。いつでも腹を切る覚悟は出来ている」


「そんなお前に最後のチャンスだ。受けてくれるな?」


 上層部からの伝達係である黒スーツは上が決めた方針を実行者に伝える役割がメインの仕事。男の口から出る言葉をセンが抗える訳もなく、彼は深々と頭を下げるとその司令を素直に受け入れた。


「はっ。喜んで」


「ではこの計画書通りに」


 その流れで黒スーツから書類を受け取ったセンはすぐにその内容を確認する。そこの書かれてあった内容に彼は驚きの声を上げた。


「こ、これは……」


「一切の質問は却下だ」


 黒スーツから質問を拒絶され、彼はゴクリとつばを飲み込む。それから最後まで書面を読み込むと顔を上げ、自らの決意を口にした。


「あい分かった。全身全霊をかけて使命を全うするでござる」


「では任せたぞ」


「しからば、ごめん」


 黒スーツに自分の意思を伝えたセンは、そのままセルレイスの悪の計画の実行に移す。施設の廊下を歩き遠ざかっていく彼の後ろ姿を眺めながら、黒スーツはかるくため息を吐き出した。


「ふう、疲れるなぁ」


「御苦労さん。じゃ、次の仕事に行くぞ」


 肩の荷を下ろした黒スーツに別の黒スーツが現れ、労いの言葉をかける。巨大な悪の組織だけあって仕事は山のようにあるらしい。こうして悪の組織側の暗躍も休む事なく続いていくのだった。



 セルレイスの本部を出たセンが向かう先はまたしても他組織の本部。今回の仕事も他組織を利用した共闘と言う形を取るようだ。その方部に向かう彼は歩きながら空を見上げて独り言をつぶやいた。


「今度はMGS……か」


 MGSは超能力者と魔法使い達だけで構成されている秘密結社であり、その本部は他組織のように一般社会に溶け込んだ街中にある訳ではない。道を求める者が真理に辿り着くために険しい修業をするように、都会を大きく離れた奥深い山の果てにある。

 本部はかつてその信仰が邪教とされ追われた異教徒達が地下に作った巨大な地下聖堂が元であるとの噂もある、ある意味とても神秘的な場所だ。当然その場所に向かうセンも苦労して山を登っていた。


「ふう、かなり険しい道程でござるな……」


 登山家でない彼はスーツを装着して、そのパワーで無理やり山を乗り越えていた。これで常人が登山をするよりかなり楽に進むことが出来たものの、それでもその行程は中々に困難を極める事となってしまう。

 いくつもの山を超え、森を抜け、道に迷う。それはMGS本部に特に目立つ目印がないためで、他にも近付く者を惑わす魔術的な罠も仕掛けられているのだろう。


 さんざん回り道をして何とか組織本部の目印が分かる場所にまでセンが辿り着くまでに、丸三日をかけてしまっていた。


「ここから先は……魔法陣がどこかに……」


「おい」


 書類に書かれていたMGS本部への手がかりとなる魔法陣を探していたところで、彼は突然現れた長身の黒フード男に声をかけられた。フードを深く被ったその男の目は影に隠れ、かろうじて鼻と口だけが見えている。どう見ても本部に近付いたセンに気付いたMGSからの使者だろう。

 スーツ侍はこの状況に戦慄を覚え、思わず戦闘態勢を取った。


「ぬ!」


「お前はそこから先に進まなくていい。我らが本部は仲間以外を入れないしきたりがあるからな」


 黒フードはセンを指さして上から目線で話し始めた。目の前の相手が今回の共闘相手だと分かると、スーツ侍も戦闘態勢を解き、改めて相手の身元を確認する。


「では、お主が?」


「ああ、私がファールゥだ。今回のお前の仕事仲間となる。よろしく頼むぞ」


 好戦的にも見えた黒フードはそう言って自分の名を明かすと、センに向って握手を求めてきた。相手の確認が出来たと言う事で、彼もまた自己紹介をしながら気さくに手を伸ばす。


「既に聞いておるかも知れぬが、某の名はセン。こちらこそよろしく頼む」


「ではセン、早速行こうか」


「ああ。ではついて来てくだされ」


 今回の共闘はMGSのみだったので、合流を果たした後はそのままメインの計画の実行へと移る。センと共に山を下りながら、ファールゥはこの計画についての質問を始めた。


「計画書を読んだが、本気でやるつもりなのか?」


「我が組織に冗談の計画はないでござる」


「そりゃ、我が組織でも冗談で作戦は立てないが、それでもこれは……」


 どうやら今回セルレイスが立てた計画は、MGS側から見てもかなり無理のあるものらしい。黒フードの不安の声を聞いた黒スーツは力強い声で宣言する。


「某の力とそなたの実力とが合わされば出来ぬ事はない……はずでござる」


 その多少頼りない言葉に、逆に親近感を覚えたファールゥはここで軽く微笑んだ。


「はは、せいぜいご期待に添えるように頑張るとしよう」


「よろしく頼むでござる」


 こうして悪の組織2人組は計画の実行のため山を降りると、早速計画書に書かれている破壊対象の施設へと足を向けるのだった。



 その頃、基地で修行中の俺はひたすら自分の心と真面目に向き合っていた。


「力をイメージに……イメージを光に……」


「よお!」


 集中していたところで不意に声をかけられ、俺は閉じていたまぶたを上げる。そこにいたのは珍しそうに俺を覗き込むソラだった。

 この修行を始めて何度声をかけても無視されて全く協力する気がないとさえ思っていた彼が急に目の前に現れたので、俺は驚いてちょっと変な声で反応してしまう。


「そ、ソラ?」


「反転、使えるようになりたいんだって?」


「ま、まあな」


 ソラに改めて質問されると、何だか恥ずかしくなってしまい俺は思わず視線をそらした。そんな俺を見てニマニマといやらしく顔を歪めた彼は、得意げに上から目線で話しかける。


「どこまで出来てるのか見てやるよ」


「いや、まだ全然だぞ。コツでも教えてくれるのか?」


「いやコツはちょっと無理だろ。大体、個人差が大きいしな。そもそもこう言うのは感覚だから」

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