第133話 明かされた陰謀 その8

 ソラとモモの2人もとっさに自身の身を守る行動に出る。強烈な爆発は駐車場にある物全てを跡形もなく蒸発させていった。破壊的なエネルギーの影響で、俺ももう周りがどう言う状況になってしまったのか全く把握する事が出来ない。

 やがて爆発が収まると、そこには俺達以外の姿がどこにも見当たらない状況になっていた。俺が頭を振って正気を取り戻していると、モモが心配そうに近付いて来る。


「みんな大丈夫?」


「そりゃ、けど……」


 俺がモモの質問に答えていると、ソラがキョロキョロと何かを探しているような動きをしている。そこですぐに理由を察した彼女がソラに声をかける。


「逃げられたの?」


「みたいだな」


 そう、いくら強烈な爆発だったとしても同じスーツなら耐えられたはず。その敵の黒スーツがこの場にいないと言う事は、爆発のどさくさに紛れてこの場から離脱した事を意味していた。


 そのやり取りを聞きながら、俺はここに見当たらないもう1人の敵の事について疑問を覚える。


「あれ?って言うかゾルグは?」


「蒸発しちゃった。不死身だったのにね」


 モモによると、ゾルグが死神の鎌状態の巨大な爪を振り上げたその瞬間にガミルの自爆が発生したらしい。彼女は目の前で蒸発していく怪人の姿をじいっと科学者目線でしっかりと観察していた。

 一連の話を聞いていたソラは、怪人の特性を一言で切り捨てる。


「あいつ、熱には弱かったんだろ。じゃ俺帰るわ。お疲れさん」


「ちょ、おい……」


 全てが終わったと言う事で、彼はまたいつものようにスタスタと先に帰っていく。強烈な自爆ではあったけれど、ソラの乗ってきたバイクは爆発の範囲外にあって無事のようだった。遠ざかる彼の姿を見届けながら、俺はこの結果について自身の見解を口にする。


「でも爆発範囲が駐車場内だけで済んで良かったよ」


「とっさにソラが範囲結界を張ってくれてましたから」


「ああ言う判断力は流石だよな」


 そう、爆発の被害が特定の範囲内で済んだのはソラのおかげだった。なので防衛施設も無事に守り切る事が出来たのだ。いくつかの被害は出てしまったけれど、きっとこれ以上最小限に収める事は出来なかっただろう。爆発で何もかも蒸発してしまってもう後片付けってレベルではなく、この破壊跡に対して俺達も何も出来る事はなかった。

 何もなくなってしまった焦土の景色を目にして途方に暮れていると、モモが俺の顔を覗き込む。


「私達も帰りましょっか。もうここには何も残っていませんし」


「あ、でも移動手段……」


「大丈夫。車は戦闘中に現場に既に待機させていましたから」


 彼女はそう言うと親指を突き出して後方アピールをする。俺がその方向に視線を向けると、そこにはいつの間にかいつもの自動操縦カーが待機していた。


「い、いつの間に……」


「そりゃ勿論ヘリでの移動中の間にですよ?さ、帰りましょう」


 こうして俺達は破壊された駐車場を後にした。後の事はもう警察に丸投げでもいいだろう。事情は多分所長側から後で証拠映像付きで説明が行くだろうし。

 基地に着いた後で司令室に報告に行くと、そこにはお冠の最高責任者が待っていた。彼女は両手を腰に当てて、俺に向かって唾を飛ばす。


「スーツの新機能、どうして使ってくれなかったの?」


「は?」


 所長曰く、再調整されたスーツには何か特別な機能が実装されていたらしい。これが全くの初耳だった俺は、その言葉に目を丸くさせる。俺の態度から事情を察した彼女は、更に怒りゲージのメモリをひとつ埋めた。


「マニュアル読んでないじゃないの!まったくもー!」


「あんな分厚いのすぐに読破なんて出来ませんよ!」


 この流れから、その新機能は渡されたマニュアルに記載されていた事がうかがわれる。俺がマニュアルを読んでいない事が分かって所長は怒っていたのだ。確かに折角作ってもらったのに読んでいない自分が悪いのは確かだけど、わざわざ読みにくいマニュアルを作って一方的に押し付けるのだって正しい方法とは言えないと思う。

 こうして売り言葉に買い言葉の応酬となり、ため息を吐き出した所長がここで妥協案を提示した。


「じゃあ明日までの宿題ね!今日の内にちゃんと読破する事!明日はテストもするから!」


「な……理不尽な」


 俺はこの強行案に抗議をするものの、どんなに言葉を尽くしてもそれらは一切受け付けてはくれなかった。ここでずっと話を続けても時間を無駄に浪費するだけと悟った俺は、司令室を出てマニュアルを放置してある自室へと向かう。今日中に読破して、その新機能の事についてしっかり頭に入れた方がメリットが大きいからだ。


 俺が去った後で、このやり取りをずっと見守っていたモモが口を開く。


「何もあんな言い方をしなくても……」


「リーダーはあのくらいの扱いでいいんだって。それよりもデータ、解析出来たんだけど……」


 司令室に2人きりになったところで、所長から人払いをした本当の理由が明かされる。解析された情報がモニターに表示され、覗き込んだモモは絶句した。


「ほ、本当ですかこれ」


「検証はこれから。だけどもしこれが真実なら……」


 そこに表示されたのはセルレイスの組織としての各種情報と、今後計画されている悪事の計画書の数々。門外不出の極秘情報ばかりだった。どの計画も実行され成功すれば現代社会を破壊し、自分達の組織だけが多大な利益を得るものばかりだ。

 その大胆で容赦のない計画の数々を目にしたモモは、声を震わせる。


「セルレイスの野望は絶対阻止しないといけませんね」


「多分止められるのは私達だけ。こっちもしっかり対策を立てなくちゃだね」


 こうして俺達の組織は本格的にセルレイス潰しへと舵を切った。今後の戦いは苛烈を極めるものとなるのだろう。俺の成長にしても、今までの自発的な成果を待つスタイルは通用しなくなる気がする。決められた期限以内に決められた以上の成果を出さなくては。


 セルレイスの動きより早く、奴らを先回りして止められるようにならなければ計画を阻止する事なんて出来はしない。後手の対応では手遅れになってしまう。

 敵の計画を知った事で、俺達に課せられた責任は今までの何倍も重くのしかかってくる事になったのだった。

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