第132話 明かされた陰謀 その7

 ゾルグはふんぞり返って自身のパワーアップをPRする。その堂々とした態度に、流石のモモも警戒心を強めた。ゆっくりと流れる時間の中でうかつに動けない彼女を前に、鍛えた怪人がその自慢の技を披露する。

 思いっきりジャンプをした後に腕を振り上げ爪を光らせると、その勢いで素早く振り下ろしてきたのだ。


「感染爪大嵐!」


 その分かりやすい大振りに、先の展開を読んだモモは素早く距離を取って怪人の攻撃から逃れた。こうして攻撃は避けられたものの、確かにその技は前回の戦いの時には見せなかったものだ。前回は出来なかった爪の出し入れを可能としている事からも、その進化がうかがわれる。

 油断は出来ないと言う事で、彼女はゾルグとの距離を離す戦略を選んだ。


 苦戦する仲間の状況をちらりと横目で見たソラは、予想通りの展開になっていない事に多少の焦りを感じていた。勿論自身の相手である黒スーツもまた楽に勝てそうな相手ではない。戦闘態勢を取りながらその隙のない構えをどうやったら崩せるか、その正解を導き出せずにいた。


「へへ……みんなピンチかよ」


「余所見するとは余裕だなっ!」


「ああ、余裕だねっ!」


 敵からの安っぽい挑発を受けて、まずはソラが先に攻撃を仕掛ける。超スピードで剣士の間合いの潜り込もうとした行動は、しかししっかりと読まれてしまっていた。


「その余裕ごとたたっ斬る!」


 しっかりタイミングを計られて、センが刀を引き抜いた。このスピード勝負はどちらに軍配が上がるのか――。



 そんな真剣勝負の傍らで、俺はガミルの放った爆弾のダメージを受けていた。スーツの無敵機能を信頼し、無計画に飛び出したところを強力な爆発で吹き飛ばされたのだ。この予想外の展開に俺は困惑する。


「な、このスーツに爆弾が効く、だと?」


「ありゃ、流石だな~。この爆弾結構威力高いのに。まぁでも残弾ならまだまだ沢山あるんだよねぇ……」


 ガミルはそう言って笑いながら、変態が裸体を見せびらかすようにコートを広げる。そのコートの裏には、まるでギャグ漫画のように無数の爆弾が仕込まれていた。正直に言うとダメージを受けたと言っても、スーツの回復機能ですぐに癒える程度の痛みだ。一発一発ならそこまで気にするほどでもない。そう、それが単発ならば。

 けれど相手は爆弾のエキスパート、パッと見だけでも数百発の爆弾を見せびらかしている。アレが全て自分に向けて飛んできたとしたら――。


 ガミルはその最悪をいとも簡単に実行する。コートを広げて見せびらかした数秒後、次々に爆弾がまるでミニロケットのように射出し始めたのだ。


「みんな飛んでけぇ~」


「うわああっ!」


 俺はとっさに腕を顔の前に交差させて身を護る。これがどの程度の効果があるか分からないけれど、何もしないよりはマシだろう。ガミルの放ったその無数の爆弾が、全てさっきと同じ爆発的な破壊力を持っているかどうかは分からない。

 一発の爆弾のせいで、俺は正常な判断力をすっかり失ってしまっていた。



 モモとゾルグの戦いもまた膠着状態が続いていた。一方的に爪攻撃を繰り出す怪人の攻撃を彼女が防ぐと言う状況が続く。そんな中で、ゾルグは戦闘相手についてジリジリと距離を詰めながら改めてじっくりと見定めていた。


「へへへ……そう言えばお前、女子だったんだべな……そう言うのいたぶるの好きなんだど」


「へ、変態!」


 急に性的な視点で見られていると意識をし始めたモモは、目の前の怪人に向って軽蔑の言葉を叫ぶ。ただ、相手をいやらしい目で見るのは悪党のテンプレとも言える訳で、この拒否反応にゾルグはここでも悪党のテンプレ通りに逆上して声を荒げた。


「何を言うだ!野生の本能に忠実なだけだど!」


「それを変態って言うのよっ!」


「口の減らない女子も嫌いじゃないど!死神の大鎌ッ!」


 興奮したからなのか、最初から披露するつもりだったのか、怪人はここで取っておきの切り札を、激高する彼女の前にこれみよがしに見せびらかす。それはまさに死神の鎌に見えるほどに巨大化した爪の姿だった。

 命を刈り取る姿をしたそれを見たモモは、流石に恐怖を覚える。


「な、何よ……その爪ぇ……」


「トドメだど!病神の収穫!」


 大きすぎる鎌が振り上げられ、彼女の身に迫る。個別に戦っているために助けは期待出来ない。彼女は最悪も想定して覚悟を決めるのだった。



 居合対超スピードの対決はセンの台詞から始まる。


「真空斬り!」


 向かってくる敵を一瞬で輪切りにするその軌道に、しかしソラは存在していなかった。攻撃を避けた彼は、見事に黒スーツの背後に回り込む事に成功する。


「あれ?何を斬ってるの?って言うか斬ってるつもりなのかな?」


「そ、某の斬撃から逃れた……だと?」


 センは自慢の攻撃を避けられた事に困惑する。どうやらそれほどまでに自慢の技だったらしい。ここで生じた隙を見逃すソラではない。すぐに黒スーツの肩を掴むと、対スーツ用のとっておきのあの技を披露した。


「はい、おしまい。反転!」


「ギャアアア!」


 反転によりエネルギーの逆流状態が発生したセンは、苦痛に叫び声を上げながらそのまま前のめりで倒れ込んだ。このあっけない幕引きに彼は軽口を叩く。


「反転対策もされてないスーツとか、残念だねぇ」



 ひとつのバトルが呆気ない結果を迎えていたその頃、俺は無数の爆弾の爆発により発生した爆風の中にいた。全弾命中を確認したガミルはその手応えを満足そうに感じている。得意げな顔で爆風が収まるのを待っていた彼は、その中から人影が見えてきた事に驚愕した。


「うっそだろ?」


「あの程度の爆発で俺が倒れるとでも?」


 そう、スーツの防御形態はガミルの爆弾攻撃を見事に無効化させていたのだ。所長が調整した時に機能が組み込まれたのか、元々そう言う機能があったのかは分からないけど、防御に徹した時にはスーツの防御力が飛躍的に上がるらしい。

 無傷の俺が安っぽく煽ったところ、テロリストは突然苦渋の表情を浮かべた。


「なら、くそっ!これだけは使いたくねーんだけど」


「自爆なんかさせな……」


 それが最後の切り札だと直感した俺は、すぐに爆風を抑え込もうとガミルに向かって走り出す。

 しかしその行動は読まれていたのか、単に間に合わなかっただけなのか、自爆テロリストは一瞬の内に自身を爆発させてしまう。

 その爆発は今まで体験したものの中でも一番強力で、一瞬の内に俺は簡単に吹き飛ばされてしまった。


「うわああっ!」


 爆発は周りを全て巻き込んで広がっていく。俺達や敵も全て、強烈な熱と音と光に包まれていった。


「くそっ!」


「きゃああっ!」

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