第131話 明かされた陰謀 その6
どうやら彼女もこの状況に困惑しているらしい。ゲームで複数の敵が出た場合、弱いのから順に片付けるのがセオリーだ。今回もその法則に従って、このイキっているテロリストからサクッと倒してしまおうと俺はすぐに行動を開始した。
「イメトレ、オン!」
「喰らえ!爆弾シャワー!」
「なっ!」
一瞬で片をつけようとしたところで、ガミルは手持ちの無数の爆弾をいきなり放り投げる。この不意打ちに調子を崩された俺はすぐに動きを止めた。爆弾の起爆条件が分からないため、うかつに動けなかったのだ。爆弾の威力も未知数なだけに、ここは慎重に判断した方がいい。
俺が動きを止めたのを見計らって、テロリストはさらに挑発を続けた。
「ほらほら、刺激を与えれば即爆発するぜ?」
「くそっ」
足元にまきびしのように散らばった謎の小型爆弾。避けながら移動するのはイメトレを駆使してもそう簡単には行かない。物理的に足止めをされて、マネキンのように動けなくなったところに黒スーツが狙いを定める。
「見えた!瞬速斬!」
「ぐうっ!」
スーツのおかげで斬れこそしなかったものの、鋭い鉄の棒で思いっきりしばかれた俺は思いっきりふっとばされた。センの刀は特別なものだったらしく、体にダメージが蓄積される。それもあって、倒れ込んだ後はしばらく体を動かす事が出来なかった。これは敵にとってはそれは絶好のチャンスでもある。
「トドメは任せるど!」
「しまった!」
「野獣の爪!」
俺が復活するまでの一瞬の隙を狙って、ゾルグが自慢の毒爪攻撃を仕掛けてきた。以前の毒攻撃は所長が成分を解析済みだけれども、今はまた別の毒を生成しているかも知れない。それもあって、この攻撃は余裕をこいて甘んじて受けていい類のものじゃなかった。
けれど、受けたダメージのせいですぐには体が言う事をきいてくれない。だから仕方なく腕を交差させて、せめてもの防御態勢を取った。と、その時!
「絶対結界!」
ソラが結界をいいタイミングで張ったおかげで俺は助かり、逆にゾルグは結界に弾き返された。そのまま怪人は地面に散らばった爆弾に接触し、次々に誘爆させていく。
派手な爆発音が鳴り響く中、俺は遅れて現れたメンバーに声をかけた。
「来たか!」
「全く、無茶してんな」
憎まれ口を叩くこの勤労学生に対し、俺は予想より早かった到着から素朴な疑問を思い浮かべる。
「ところでお前、交通ルール守ってんのか?」
「説教はこいつらを倒してからでいいだろ?」
「仕方ないな」
ヒーロー側がフルメンバー揃ったところで、敵黒スーツが律儀に名乗りを上げた。
「某はセンと申す。ソラ殿、お手合わせ願おう」
「だってさ」
名指しがあったと言う事で、ソラは得意げに俺に向かって話しかける。つまりセンはソラと戦いたいと言う事のようだ。この敵からの申し出に素直に従った方がいいのだろうか?
そもそもわざわざ名指しをすると言う事は、つまり向こう側には勝つための算段が出来上がっている事を意味するはずだ。一応俺達の中で一番戦闘力が高いのは間違いなくソラではあるのだけれど、だからと言って――。
俺がこう言う場合にどう動くべきかを考えていると、話の流れを読んだモモが自分の担当を宣言する。
「じゃあ私はゾルグを」
「そうなると俺はあのヒョロメガネか?」
「くっ。バカにしないでくれる?ガミルって名前があるんだけど」
ヒョロメガネと言う煽りにガミルは簡単に逆上する。どうやら挑発に乗りやすいタイプのようだ。俺はこのテロリストに話を合わせてやった。
「名前は知ってるよ。爆弾狂人だってな」
「何だ、とっくにリサーチ済みかよ。つまんねーな」
こうして何となくそれぞれの担当が決まったような雰囲気の中、それを良しとしなかったセンが仲間に指示を飛ばす。
「皆、1人ずつを相手にするな、ここはチームワークを……」
「俺は勝手にやらせてもらうぜーっ!」
「オ、オデもだど!」
ガミルとゾルグは、センの言葉を聞かずに飛び出していった。こうしてなし崩し的に3対3のバトルが始まる。ゾルグはモモが、ガミルは俺の担当だ。こうして決まった以上、それぞれがそれぞれの相手に全力で向かい合う形となった。
ソラと対峙するセンは、自分が仲間をうまくまとめきれなかった事に落胆する様子を見せていた。そんな黒スーツを見て、ソラがまるで全て分かった風な上から目線で説教をする。
「所詮他組織とすぐにチームプレイってのに無理があんだよ」
「ならば……某が確実に貴様を葬る」
「へぇ、出来るかな?」
売り言葉に買い言葉となり、スーツ同士の戦闘が始まる。ソラはすぐに斬撃を警戒して結界を張り、センは特殊な構えから必殺の一撃を放った。
「威圧斬り!」
「んなっ!」
センの放った斬撃はソラの結界をいとも簡単に切り裂いてしまった。幸い、その斬撃の軌道上にソラの身体は並んでいなかったためにダメージ自体はなかったものの、それは敢えて外したものらしい。
結界が無意味だと証明されて余裕のなくなったソラを見つめながら、センはニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「某にかかればその結界など豆腐も同然よ」
「ただの刀じゃねーな、ありゃ……」
この相棒のピンチに俺はつい大声を上げた。
「ソラッ!」
「気にするな!それより雑魚は任せたぜ!」
絶体絶命な状況のはずなのにソラは強がりを口にする。その言葉に、雑魚扱いされたガミルは激高した。
「雑魚だと~っ!」
「お前の相手は俺だあっ!」
怒り狂うテロリストを前に俺は大声を上げる。手強い黒スーツに対してソラ1人では荷が重そうだ。だとしたら俺が取るべき手段は唯ひとつ、目の前の自分の担当を少しでも早く片付ける事。
幸いな事にガミル自身は改造も何もされていないただの人間。本気でかかればすぐにでも決着は付くだろう。改めて俺は拳に力を込める。
「悪いけど、一瞬で片をつけさせて貰うぞ」
「ばーか。それこそこっちの作戦通りだっての」
俺と向き合ったテロリストは、すぐにお得意の爆弾を見せびらかした。馬鹿のひとつ覚えと言うけれど、そこに特化した技を持っている相手はやはり一筋縄ではいかない。
俺はこの戦闘において、先手を取れなかった事を少し後悔していた。
「へ、へぇ。お手並み拝見と行こうじゃないか……」
俺が爆弾テロリストと腹の探り合いをしていたその頃、もう1人のメンバーのモモも厄介な爪を持つ怪人と向き合い、言葉で牽制しあっていた。
「ゾルグ……あなたの攻撃はもう対策済み。何もしても無駄よ」
「オデもあれから更に鍛えたど!この間と一緒にするんじゃないど!」
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