第130話 明かされた陰謀 その5

「全く恐ろしい話ですよね。それと、後の2人の内の1人はあのゾルグですが、残りの1人がテロ組織のザルファの中でもかなりの危険人物なんですよ」


「資料の中の、このガミルってヤツか」


 新人の情報は基地のデータベースにも載っていない。なので俺はまだ情報のある相手のデータをまず閲覧した。3人の内の1人、ガミルは既に様々なテロを成功させているその筋では有名なワルのようだ。モモが資料の該当部分を音読する。


「あちこちに爆弾を仕掛けて平気で爆発させるし、常に自爆用の爆弾を身に着けているみたいです」


「それ、今までのザルファの奴らも同じだっただろ?」


 手口は同じでも、その思考パターンが今までの自爆テロ犯とは違うと言う事だろうか。何にせよ用心するに越した事はないな。俺がモニターの文字を追いかけていると、モモが同じ画面を見ながら今回の作戦の重要項目について口にする。


「今回は襲撃の場所が場所です。どうにか爆発させないようにしないと」


「ミサイルが連鎖爆発でもしたらとんでもない惨事になってしまうものな」


「着きました、行きましょう」


 流石ヘリなだけあって、十分な話合いをする前に現場に到着してしまった。仕方ない、ここから先は臨機応変に行こう。ホバリングを開始したヘリのドアを開けると、俺達は躊躇なくそのまま地上に向かってダイブする。

 さあ、悪党退治のお仕事と行きますか!



 地上では俺達が近付いているのも知らず、悪の組織連合軍が防衛基地の手前に広がる基地の敷地と同程度の広さの駐車場に足を踏み入れていた。そこから見える基地の施設を目にしたガミルは興奮でよだれを垂らし、それを腕で拭う。


「へへへ……これは爆発のさせ甲斐があるじゃねーの」


「む!各方おのおのがた、気をつけなされよ!」


「なんだ?」


 ここで迫りくる危険を察知したのか、センが興奮しているテロリストを牽制する。この言動にガミルは辺りをキョロキョロと見渡した。

 しかし、彼の視界からはそのような者の姿は認められない。該当人物が見当たらないと言う事でテロリストが首を傾げていると、同行している怪人が大きく何度もうなずいた。


「分かるど、もうすぐ奴らが来るんだど!オデも感じるど!」


「そりゃ、その内には来るだろうさ。けどまだ俺らがやって来てどんだけ経ったよ?まだ駐車場に侵入したばかりだぜ」


 この時、まだ見ぬ敵に警戒する悪の組織連合軍の前に、防衛基地の警備員がやってくる。不審な存在が基地の前に現れたと言う事で、それなりの重装備で対応していた。


「貴様ら、何者だ!」


「お、警備の皆さんじゃん。もしかしてヤバいのはコイツラってか?」


「某が鎮圧する!」


 やってきた警備員、いや警備の兵士は全員で10名くらいだろうか。流石に要所を守る人物だけあって鍛えられた存在だ。

 ただし、それもスーツを装備した人間にとっては赤子同然。目にも止まらない速さと剣技で全員をあっと言う間に全員を斬り殺してしまった。その見事な剣さばきを見たガミルは興奮する。


「ひゅー。それ、剣技ってやつ?」


「然り。よく知っておったな」


「ま、そのくらいはな」


 警備員を倒したセンがかっこよく刀を鞘に収めると、今後の行動についてゾルグが質問した。


「で?このまま施設に突っ込むだか?」


「いや、ここで敵を迎え撃つ。仕事中に来られては十分に対抗出来ぬからな」


 警備員を倒したところでセンは警戒を解かず、やがて来るであろうヒーローの襲撃に備え、気を研ぎ澄ませる。

 そんな生真面目な彼に対し、ガミルはまだヒーローが見える範囲にいない事もあって、のんきに事態を考えていた。


「またまたぁ~。ヒーロー共が来る前にちゃっちゃと終わらせればいいじゃん。楽な仕事なんだし」


「来るぞ!」


 おちゃらけていたメンバーの言葉を遮るように、黒スーツサムライは大声を上げる。この突然降って湧いたような緊張感にガミルは困惑した。


「え?どこどこ」


「上からだッ!」


 センは上空から落下してくる気配を敏感に感じ取り、上空をキッと見上げる。その視線の先には、ヘリコプターから落下してくるヒーロー2人の姿があった。


「「自然落下キーック!」」


 俺とモモはヘリから飛び降り、イメトレの力を借りて上空からキックの体勢をとって落下していた。このキックがヒットすれば相当な破壊力を生む事だろう。

 ただ、その行動を読んだ黒スーツは居合抜きの構えを取ると、素早く自慢の剣技を披露する。


「領域・絶!」


 俺達の落下するタイミングに合わせて振り抜いたセンの刀の切っ先がキックの体勢の俺達2人を見事に弾き飛ばした。


「うおっ!」


「きゃあっ!」


 こうして俺達の自由落下キック作戦は見事に失敗する。弾き飛ばされた俺達はスーツの力でダメージを回復させ、駐車場に転がりながらすぐに立ち上がった。


「やはり簡単には斬れぬか……」


「おま、武士かよっ!」


 刀を構える黒スーツを見た俺は思わず叫ぶ。センはそんな俺に対し、全く動じる事なく改めて構え直すと静かに口を開いた。


「武器を使うので驚いたか?」


「あ、ああ。でもそう言うのもアリだよな……」


「悪いが、斬らせてもらう。お主達は敵だからな」


 黒スーツの宣戦布告を聞いた怪人が、ここで焦って言葉を続ける。


「お、オデもいるど!」


「ふふ、噂のヒーロかよ。壊し甲斐があるねぇ」


 ガミルもまたニヤリと笑うと俺達に向き合った。戦闘開始だ。俺もファイティングポーズを取って警戒する。


「リーダー!気をつけてください!」


「分かってる」


 3対2、数の上では敵の方が有利なものの、その構成においては必ずしも俺達の方が不利と言う訳でもない。ザルファのテロリストはただの人間だし、ゾルグは前回の戦いで手の内は既に読めている。俺達が気を付けるべきは、全くデータのない刀を使う剣士の黒スーツだけだ。


 にらみ合いの続く中、最初に動きを見せたのは茶髪で長身の爆弾テロリストだった。


「なあ、俺様が動きを止めてやるからその間にお前が切ってやれ!」


 ガミルはそう言うと、いきなり俺達に向かってゆっくりと歩き始めた。この予想外の行動に俺達は困惑する。ただ、この行動自体がアドリブだったらしく、敵の黒スーツもこのテロストの突発的な行動に上手く対応出来ないでいた。


「おい、勝手に……ッ!」


「へいへいへーい!ヒーロービビってるーぅ?」


 ガミルは俺達に向かって挑発するポーズを取り始める。敵3人の中で一番弱そうな人物が一番好戦的と言うこの状況で、俺はモモに一応の確認を取った。


「ガミルは普通の人間なんだよな?」


「そ、そうだけど……」

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