第129話 明かされた陰謀 その4

 スーツの開発者と言っても本格的にスーツを着て活動を始めたのは3人の中で一番最後と言う事もあって、まだ日が浅い。つまり、その経験値の差がモモが反転を使えない理由なのだろう。俺は自分の優位性をそこに見出して少し強がりを言った。


「そっか。これで俺が反転を覚えられたなら、ちょっとだけ俺の方がモモより強くなるな」


「是非そうなってください、リーダー!」


「はは……。じゃあ頑張らなくちゃだ」


 こうして話は振り出しに戻る。休憩も終わりだと言う事でまたエネルギーの視覚化に俺が励み始めると、じっと見ていた彼女からアドバイスが飛んできた。


「反転を潜在的に使えたソラと違って、リーダーはまず基礎固めからなので時間がかかって当然なんですよ。まずは自分は出来るって強く信じてください」


「わ、分かった。そうだな、出来ないって思っている内はそれが暗示になるって前に読んだ本にも書いてた」


「それは本当なんですよ」


 自分は出来る。出来て当然。そう思い込む。そう信じる。出来ている自分を具体的に心にイメージする。まるで自己啓発のセミナーみたいだけれど、こう言ったセルフコントロールって実は結構大事なものらしい。まだ自分の中に正解がない俺は、とにかく気合を入れてそのイメージを手に入れようと頑張った。


「ハァァァァァ……」


「そうやって意気込む事自体が逆効果なんです。もっと自然体で呼吸するように当然な感じで」


「な、なるほど……」


 モモに言わせると、俺の考えた方法は間違っているらしい。折角貰ったアドバイスを活かそうと、まずは深呼吸して心を落ち着かせ、ただ自然にイメージが浮かぶのを待つ事にした。静まり返った訓練室で、時間だけがゆっくりと流れていく。


「……」


「……」


 沈黙の時間がどれだけ流れただろう。集中していくと、この場にいる別の視線につい意識が向かってしまう事に気が付いた。


「あのさ……」


「はい?」


「ずっと見られていると何か緊張してしまって……」


 そう、モモの視線が気になってしまうのだ。精神の修行だけに、気が散った時点ですぐに気持ちがリセットされてしまう。言葉にした事で彼女も察してくれたのか、すぐに適切な対応をとってくれた。


「あっ。すみませんっ。席を外しますね」


「ごめん。悪いけど……」


「それでは、健闘を祈ります!」


 モモはペコリと頭を下げると訓練室から去っていく。こうして自分一人だけの空間となった訓練室で、改めて俺は呼吸を整えた。


「さぁて、また最初からだ……」


 深呼吸をして、背伸びして、体を節々の凝りを解して――そうして軽く手を握るとまぶたを閉じて一点に集中する。全ては反転を習得するために。

 最初こそ中々上手く行かなかったものの、繰り返す内に段々感覚がつかめてくるような、そんな手応えを感じ始めるようになっていった。



 俺がそんな修行に力を入れ始めていた一方、悪の組織連合軍の方はついに作戦の目的地に到着する。これから本格的な破壊工作を始める前に、リーダーのセンは2人の協力メンバーに改めて声をかけた。


「さて、某達は計画に従って防衛基地まで来た訳だが……各々、役割は理解しておられるな?」


「とぉーぜん!」


「お、オデも大丈夫だど!」


「では、参るっ!」


 メンバーそれぞれの役割を再確認して、悪党共の悪の破壊工作は実行に移される。奴らは郊外にある防衛基地で何かをやらかすつもりらしい。基地と言えば、奪われてはいけない技術と、利用されてはいけない施設ばかりで構成されている。だからこそ奴らは狙うし、ヒーローはそれを阻止しなければいけない。



 敵が本格的に動き始めた頃、基地では集中出来る環境が整った事で俺もようやく第一段階のコツが掴めてきたところだった。


「あ、段々分かってきた……ような?」


 後もう少しでスーツエネルギーの可視化に成功する、そう感じていた矢先、基地内に警報音が鳴り響く。どうやらこのタイミングで敵がどこかに現れたらしい。


「こんな時に?」


 敵が出たら修行どころの話じゃない。俺は急いで司令室へと向かう。部屋のドアを開けてモニターを確認すると、そこには敵の姿がはっきりと捉えられていた。


「ヤバいな、またセルレイスだ」


 モニターに映っていたのは、まだ基地に到着する前の3人の悪の組織の構成員の姿。1人は前の戦いで戦ったゾルグ、もう1人は茶髪の初めて見る男、もう一人、先頭を切って走っているのが黒いスーツに身を包んだ男の姿。ヤツは間違いなくセルレイスのスーツ男だろう。

 司令室に入って来た俺を見たモモは、開口一番とんでもない事を口走る。


「反転はもうマスターしました?」


「そんなすぐには無理だって!」


 それはただの冗談なのかも知れなかったものの、状況が状況だけにその言葉に余裕のある返しは出来なかった。何しろ敵の目的地が軍の施設なのだから。奴らに最新の破壊兵器を自由にされてしまうのはマズい。非常にマズい。

 この危険性は同じ部屋にいた所長もしっかり気付いていて、すぐに俺達に指示を出した。


「あそこに現れたと言う事は敵は防衛基地の破壊と最新技術の奪取を狙ってるはず!2人は早く向かって!ソラへの連絡はしておくから!」


「分かりました!」


 俺達は一刻も早く現場に向かうために自動運転の乗り物の並ぶ格納庫に着いたところで頭を悩ませる。いつもなら悩まずに一択なんだけど。


「車だとどのくらいで着く?」


「多分30分はかかるでしょうか?」


 モモの想定を聞いた俺はすぐに間に合わないと判断した。今回の場合は特にスピードが勝負の決め手になる。と言う訳で、一番早く移動出来る乗り物を彼女に提案した。


「今回は一刻も早く着かなければいけない。ヘリを使おう!」


「了解、リーダー!」


 こうして俺達はヘリを選び現場へと直行する。これならば数分で防衛基地に辿り着く事だろう。ヘリは軽快にスピードを上げ、俺達を最高速で運んでいく。

 一方、同じ連絡を学校で受けたソラもまた行動を開始していた。


「そっか、奴らが……。分かった!すぐに向かう!」


 彼はバイクで向かうためにすぐに合流は出来ないだろう。先に着いた俺達が何とか場を持たせないといけない。敵の数は多いけど上手く捌かないとな。

 ヘリでの移動中の時間も無駄には出来ないと言う事で、今後の作戦を組み立てるために敵の情報を確認する。基地とリンクしているモニターが表示した敵の情報に俺は驚愕の声を上げた。


「スーツの方はまた新人だって?一体どれだけ人材がいるんだよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る