第128話 明かされた陰謀 その3
このセンの言葉遣いに対して、ガミルは手で頭を押さえる大袈裟なリアクションを返した。
「かった!言葉遣いが硬いよ。まだ若いんだろ?それは演じてんの?」
「これは地でござる」
彼の面白みのない返事に大体の性格を把握したガミルは、これ以上話を広げるつもりはなかったのか、すぐに事務的な反応をする。
「ふーん、じゃあまあいいや、よろしく」
「共に参ろうぞ」
こうしてお互いに握手をして、2人はザルファの本部を後にする。次に向かうのは、もう1人の協力者の所属する怪人の組織ガシューの本部だ。そこに向かう道中で、ガミルは無口な仕事仲間に向かって話しかける。
「この作戦、後1人参加するんだって?」
「うむ。確かガシューのゾルグと申す者だ」
「そいつ、強いの?」
彼からの質問を受け、センは懐から資料を取り出すと該当箇所を読み上げた。
「前回の襲撃で、見事ヒーローから逃げ帰っておるそうだ」
「え?何それ逃げてんじゃん?使えねー」
逃げたと言う結果から短絡的に評価を下したザルファのエージェントに対し、センはすぐに異を唱える。
「いや、ガミル殿」
「ガミルでいいよ、セン。こっちも呼び捨てでいいだろ?」
固っ苦しい呼ばれ方を嫌うガミルは、すぐにお互いの呼び方に注文をつける。そこに特にこだわりのなかった彼は、すぐにその要求を受け入れた。
「あ、ああ、構わん。それで話の続きだが、ゾルグはヒーローにも深手を追わせた実力者。ヒーローとの戦いで無事に逃げ出せたと言うのも相当の力があってこそではないのか?それに今後の戦いにおいても経験者がいると言うのは何とも心強い」
「んまぁ、じゃあそれでいいや」
突然の熱い主張に面倒臭くなったガミルはセンの主張をまるっと受け入れ、そこから特に反論とかはしなかった。こうして話はまとまったと言う事で、センは少し早足になる。
「では、急ごう」
「や、別に急がなくてもいーじゃん。そう言うのたりーって」
2人はセンの運転する車で移動していた。車で移動と言う事は交通ルールを守らねばならない。いくら悪の組織だかと言っても、たとえばスピード違反をして警察に捕まってしまうと単純に時間のロスになってしまう。事を起こすその時までは善良な市民を演じていた方が都合がいいのだ。
と、言う訳で安全運転の後に2人はガシューの本部に到着した。
ガシューでも既に話はついていたらしく、すぐにゾルグが2人の前に現れる。身長190センチで全身が真っ赤なこの不死身の怪人は、前回の戦いで深刻なトラウマを抱えてしまっていた。
「お、オデ、ヒーロー嫌いだど」
「おいおいコイツ大丈夫か?」
ヒーローと戦う事に怯えるゾルグを前に、ガミルが調子に乗って軽口を叩く。からかわれた赤い怪人は、自分がそうなった理由を理解してもらおうと両手を広げながら力説した。
「オデの技、すぐに無効化された。ヒーロー怖い」
「しかし、ゾルグ殿の力は必要なのです。あなたは見事にヒーローと戦い、無事に逃げ帰って来たではありませんか!」
作戦に消極的なゾルグに対し、センは言葉巧みに説得に走る。自分の実績を評価してくれた事に感銘を受けた怪人は目を丸くした。
「お、オデ、必要?」
「勿論。どうか我々に力をお貸し願いたい」
戦いからおめおめと逃げ帰ってきた事で、組織内でもかなり酷い扱いを受けて来たのだろう。ゾルグはセンの熱い言葉に動かされ、さっきまでの態度を一変させた。
「分かった!オデ、協力する!」
「おいおい、ちょれーわコイツ」
「お前、感じ悪いど」
ガミルの軽口にゾルグはへそを曲げる。相手の感情を弄んだ癖に、その怒りの言葉を聞いてさらにガミルは挑発する。
「お前じゃねーし。ガミルってんだ。ヨロシクな怪人」
「オデにもゾルグって名前があるど。名前で呼ぶんだど」
「わーったわーった。今回は一緒に仕事しなくちゃだから仲良くしてやんよ」
売り言葉に買い言葉で、場の雰囲気は一気に悪くなった。爆弾テロリストは目の前の怪人の存在をあまり快く思ってはいないらしい。お互いが一歩も歩み寄らないこの状況で、中立の立場であるセンはどちらかの一方の肩を持つ事も出来ず、ただ場を収めようと心を砕くのだった。
「揉め事は控えてくれ。では行くぞ」
そうして先に進もうとしたところで、この行為にガミルが言いがかりをつける。
「ちょ、オメーがリーダかよ!」
「ガミルがリーダよりマシだど!」
「言ってろ!」
チームワークが全くなっていない3人組は、お互いに文句を言い合いながらガシューの本部を後にする。こうしてメンバーが全員揃ったと言う事で悪の組織連合は早速作戦の遂行を開始した。計画に従い、彼らはとある施設に向かって移動を始める。
その頃、俺は反転の習得に向けて自分の内面と真剣に向き合っていた。スーツに流れるエネルギーを光として見る――言葉にすると簡単だけど、これがとても難しい。そもそも、エネルギーの視覚化なんて自分には出来る気がしない。
自分にとって、力とは数字になって初めて具体的にイメージが出来るもの。今までがそうだったからなおさらだ。
「むむむむむむむ……」
「進捗どうですか?」
頑張って力んでいるところにモモが声をかけてきた。上手く行っていればこんなに苦悶の表情は浮かべていないんだけど、やっぱり言葉にしないと伝わらないようだ。
「全然だね。取っ掛かりの力を光にってところからつまずいてる」
自分の思いを言葉に変換した後、俺はふと目の前のスーツ開発関係者に対する疑問が浮かぶ。そこで一旦修行を止めて、彼女に話を振った。
「ところでさ」
「はい?」
「モモは反転、使えるの?」
そう、ここまでレクチャーするくらいだから彼女が反転を使えていてもおかしくはない、そう考えたのだ。この質問に対するモモの答えはとてもシンプルなものだった。彼女は苦笑いを浮かべて背伸びをする。
「使えてたらとっくに披露してます」
「だよね。ハハ……」
反転が使えるなら今までにいくらでも使う機会はあっただろうし、その言葉の通りにとっくに披露していた事だろう。そんな単純な事にも気付かなかったなのかと、俺は自分が情けなくなって苦笑いを浮かべるしか出来なかった。場が微妙な空気感に包まれ、沈黙の時間が訪れる。
どちらからも迂闊に喋れない状況の中、モモの方から会話は再開された。
「私も出来れば使いたいんですが、その……」
「うん?」
「習得レベルにまだ達していないので」
そう話す彼女の顔はどこか淋しげに見えてしまう。
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