第120話 タイムリミット その4
「ガウ!ガウガウ!」
興奮しすぎてもはや言葉が野獣の雄叫びになっている。この力任せの打撃で結界がどうにかなるかと言えば全くのノーダメージで、中にいる彼は両手を腰に当てて余裕の笑みを浮かべていた。そんな一方的な攻防を繰り広げている中で、ワンテンポ遅れていたモモが合流する。
「ブルー!大丈夫?」
「ああ、余裕だ。ピーチはコウの襲撃に備えてくれ。結界を広げようか?」
「それは危なくなった時にお願い」
彼女はソラの好意をやんわりと断った。この予想外の展開に彼はもう一度真意を問いただす。
「いいのか?」
「私達の目的は敵の撃破じゃないでしょ」
「え?そうだっけ?」
「敵の目的は街の支配だと言ってた。きっと何か罠を仕掛けているはず。まずはそれを見つけなくちゃ」
そう、今回の目的は敵を倒す事じゃない、優先すべきは敵のしようとしている事を阻止する事だ。頭脳派のモモはそこに重点を置いて行動しようとしていた。話を聞いたソラはこの意見に一定の理解を示すものの、単独行動の危険性を改めて訴える。
「でも例えば爆弾とかが仕掛けられているとしたら、コウが襲ってくるぞ!」
「分かってる。でも探さなきゃ!」
「なら俺が……」
結界の内と外で自分を無視して繰り広げられるこの会話にゾルグが気を悪くしない訳がなく、ムカつき度120%になった怪人は突然堪忍袋の緒を切った。
「ごちゃごちゃ五月蝿いど!無視するな!」
「じゃあまずはサクッとこいつを倒しておくか」
怒号を聞いて目の前の敵の存在を思い出した彼はまるで目障りな虫をその場で退治するみたいな気軽さで軽口を叩く。当然そんな言い方をされた怪人はキレながら目の前の生意気ボーヤに食ってかかった。
「お、オデを倒す?片腹痛いど!オデは誰にも倒されないど!」
「じゃあ試してやるさ。波動カッター!死神の大鎌!」
ゾルグの大口を試してやろうとばかりにソラは結界のエネルギーを遠距離攻撃の武器の形に変え、そのまま目の前のデカブツに向かって撃ち出した。
鋭い刃物となった精神エネルギーはまっすぐに標的に向かって飛んでいく。
「うわああ!やめるだあああ!」
この攻撃に対処する術を持っていなかったゾルグは為す術もなく波動カッターによって体をまっぷたつに切断される。こうして戦いはあっけなくソラの勝利に終わった。ばたりと倒れた怪人の残骸を見下ろしながら彼はつぶやく。
「最初から最後までアホだったな。どうしてこんな雑魚がコウと一緒に……」
戦いの顛末をしっかり見届けたモモは改めてソラに話しかけた。
「じゃあ、手分けして探す?」
「いや、1人の時にコウが現れたら危険だ、一緒に行こう!」
「分かった。サポートよろしく!」
「はは、何だか役割が逆になっちゃったな」
こうしてヒーロー2人は敵の仕掛けたワナを探すために駆け出していく。まだ姿を表さない強敵の赤スーツ男を警戒しながら――。
その頃、基地で自分のスーツの調整の完了を首を長くして待っていた俺は待ちきれなくなってとうとうラボにまで乗り込んでいた。流石に部外者がラボ内に入るのはマズいと考えた俺は近付けるギリギリまで近付いて大声で叫ぶ。
「所長、スーツの調整は済みましたかーっ?」
「今やってるところ。もうちょっと待ってて」
「余計な機能の追加はいいですから、変な部分に凝らないでくださいね!」
ラボの入口前で叫ぶ俺の声はしっかり所長にも聞こえたらしく、何とか会話が成立する。ただ、ちょっと言い過ぎたみたいで、ラボ内の彼女はへそを曲げてしまった。
「何その言い方ムカつく!あ、いい事考えた!」
「だから、何も凝らなくていいですからー!」
早く自分のスーツを身に着けたい俺は所長の機嫌コントロールしようと言葉を尽くす。やれやれ、厄介だなぁ……。
一方、現場の方ではモモが必死に何かを探していた。
「ない、ここにもない」
「一体何を探しているんだよ」
「爆弾。それもとんでもない破壊力の」
彼女の頭脳は敵の作戦の一番の目的をしっかりと読み切っていた。街を支配出来ると敵が考えたとするなら、それはそうしなければ大きな被害が出る切り札があると考えるのが当然だろう。一番効果のある切り札と言う部分から逆算すれば、それは街を破壊する爆弾だと言う結論に辿り着く。
この爆弾と言う言葉を聞いたソラの頭に、ある爆弾専門の組織が思い浮かんだ。
「この事件、まさかザルファも関わっていると?」
「その可能性もあるよ。セルレイスの要請があれば動くでしょ」
「かもな」
こうして情報の共有出来た2人は最悪の事態を阻止するために効率的な行動を開始する。
「私は爆発物センサーに全エネルギーを寄せるから、それ以外をブルー、お願いね」
「分かった。コウの不意打ちに気をつける」
2人は周りを警戒しながら爆弾を探し始めた。当然敵もそれを指を咥えて黙って見ているはずもなく、すぐに妨害工作が開始される。必死に爆弾を探す2人の前に現れたのはセルレイスの赤スーツではなく、さっき真二つになったはずの大きな影だった。
「ま、待つんだど!」
「嘘っ!」
「お前、確かに俺が切断したはず!プラナリアか!」
そこに現れたのは多少不格好になったゾルグだった。よく見ると上半身と下半身が切られた所から微妙にずれて接着されている。どうやら身体を2つに切断した程度では死なない怪人だったようだ。それがこの怪人の個性なのだろう。
驚くヒーロー2人を見て気分が良くなったのか、ゾルグは上体をそらして豪快に笑った。
「オデは不死身だど!ここから先には行かせないど!」
「あ?どうして行かせないんだ?」
「当然だど!この先に爆弾があるからだど!爆発してもらわないと困るんだど!」
まるでお馬鹿な敵のテンプレみたいに、脳筋怪人はソラの質問に素直に答えてしまう。
作戦がバレてしまったため、これ以上余計な事を言わせないために今までずっと潜んでいたコウがここでヒーロー2人の前に姿を表した。
「アホ!何でバラすんや!」
ヤツはすぐに機密情報をバラしたゾルグをコントのツッコミレベルで思いっきり叩く。スパコーンと言うその音は静かな街中で思いの外よく響いた。
「何するだ!痛いど!」
「コウ!」
思わす飛び出してしまったため、仕方なくソラの呼びかけにコウは振り返る。そうしてまるで久しぶりにあった親友のような返事を返した。
「よお。また会ったな」
「またじゃねぇ!街を破壊するつもりか!」
のんきそうに挨拶を返す赤スーツに彼は激高する。そんな大声に対して、コウはまるで他人事のように視線をそらしながら返事を返した。
「言うても、もうスイッチを入れてもうたからなぁ。爆弾解体はあきらめてくれへんかな?」
「スイッチを入れちゃったの?」
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