第119話 タイムリミット その3
訓練室で体を鍛えていた俺は集中してしまっていたために警報に気付くのが遅くなったのだ。
俺は申し訳なさそうに頭を掻きながら何も出来ない自分を嘆いた。
「ごめん、俺、今自分のスーツがないから」
「分かってる。基地で待っていて」
何も出来なくて小さくなっている俺をモモはそう言って励ますと、ソラと2人で仲良く司令室を出ていく。俺はそんな2人に対して元気付けるように声をかける事しか出来なかった。
「2人共、気をつけてな」
「俺はヘマしないっての。じゃな!」
「行ってきます」
一人になってしまった司令室で空しさに襲われた俺は思わず独り言をつぶやいた。
「スーツ、スーツさえあれば……」
その頃、ラボではスーツの問題点を洗い出して改良に集中していた所長がずっと続いていたキーボードの打ち込みを終えたところだった。
「ふう。まずはシミュレーションっと」
彼女はそう言うと満足げに笑い、肩を鳴らす。それから簡単なストレッチをしてまぶたをギュッと閉じると、次に目を手で覆い眼精疲労を和らげる。
そうして気持ちをリセットしてたところで、おもむろにエンターキーを勢い良くターン!するとその計算結果がモニターに次々と表示されていく。
「よし、いい感じ」
どうやら打ち間違いもなかったようで、モニターを見ながら所長は次の作業の準備を進めていった。全ての作業が順調に進んでいたのもあって、この時、基地のヒーロー2人が仕事に向かった事にこの時点の彼女は全く気付いてはいない――。
その頃、ヒーローを待ち構える悪の構成員2人組はのんびりと宿敵が来るのを待っていた。
「オ、オデ、こんな晴れ舞台に出られるだなんてすごく嬉しいだよ」
「さよか、良かったなあ」
「じゃあ、早速スイッチを入れるだね」
今回の計画はセルレイスが打ち出したものだ。この件についてガシューは飽くまでもセルレイスの補佐役でしかない。なのにこの怪人、相棒であるコウの了解を取らずに勝手に行動を開始する。切り札であるはずの爆弾のスイッチをいきなり入れてしまったのだ。
予定外の動きをされたものだから当然、赤スーツ男は動揺する。
「ちょ、おま、何やっとんの!」
「どうしただ?そう言う段取りだったはずだべ?」
ガシューの怪人、ゾルグはキョトンとした顔で焦るコウの顔を覗き込む。その何も分かっていなさそうな言動に赤スーツは激高した。
「スイッチは飽くまでもうまく行かなかった時の最終手段やったやろが!」
「そ、そうだったべか!悪い。戻すべ」
怒鳴られた事でようやく自分の失態に気付いたゾルグは焦って爆弾を止めようとする。その様子を目にして更にコウは声を張り上げた。
「もう遅いわ!一度入れたらもう止められへん!仕方ない、このまま行くで!」
「分かっただ!こうなったら一蓮托生だべ」
失態を犯した怪人はギュッと拳を握りしめてニヤリと笑う。こうして最初に立てていた作戦の変更を余儀なくされた赤スーツは、顔に手を当てて嘆くのだった。
「……はぁ、だから誰かと組むんは嫌やったんや……」
その頃、現場に急ぐヒーロー2人は移動時間中に通信を使って作戦を話し合っていた。最初に口火を切ったのは自動運転カーに乗るモモからだ。
「あの2体、どう攻略する?」
「多分高周波攻撃はもうない。ガチで攻撃してくるはずだ。それよりヤツの相棒のデータはないのか?データのない敵は厄介だぞ」
ソラはセルレイスの行動パターンを読んで敵の行動を予測する。相手がスーツ男だけなら彼の立案する作戦の勝率は結構高いはずなのだけれど、今回はガシューの怪人とペアで行動しているために不確定要素も多い。その穴を埋めるためにソラはデータの提供を訴えた。この手のデータに詳しいモモならば何か答えが返ってくると踏んだのだ。
しかし彼女から返ってきた答えはソラを軽く失望させる。
「それがね、ゾルグの方のデータはまだどこにもないの。多分最近生まれたばかりの新人」
「なっ!それじゃ、作戦の立てようがねーじゃねーか」
該当データがないと言う結果に彼はぶっきらぼうな返事を返す。機嫌の悪そうなソラを和ませようとモモは機転を利かせた。
「これはもうソラの好きな出たとこ勝負しかないね」
「ったく、しゃーねーか」
その言葉にいくらか機嫌を戻した彼はもう先の事はあまり考えずにバイクのアクセルを握る。この時、2台の自動操縦マシンはすでに悪党2人の待つ現場にかなり近付いてきていた。
最初に気付いたのはセルレイス陣営の方だった。スーツで強化された視力で近付いてくるヒーローの姿を捉えたのだ。
「おっ。流石すぐに突き止めてくるやんけ」
「オデ、迎え討つ!」
「おー、気張ってきーやー」
敵が到着したと言う話を聞いて、またしてもゾルグが勝手に動こうとする。その行動を把握したコウはもうヤツを止める事なく、したいがままにさせた。
意気揚々と肩を揺らしていくゾルグの後ろ姿を見ながら、派手な赤スーツはポツリと独り言をつぶやく。
「……まずはお手並み拝見、やね」
現場についたソラはバイクから降りると一気に駆け出していった。
「よし、着いた。じゃ、サポートよろしく!」
「あっ、ちょ……。本当に猪突猛進なんだから……」
ワンテンポ遅れて同じ場所についたモモは、車から降りるとすぐに先行する彼を追いかける。そのソラはと言うと、早速ゾルグと遭遇していた。
身長170センチの彼に対して対峙する怪人との身長差は20センチもある。間近に立つとガタイが大きいのもあってその威圧感は相当なものがあった。
「よ、よく来たな!」
「お前がゾルグか、なるほど立派な怪人じゃねーの」
「オデ、お前倒す!」
怪人はそう宣言すると力任せに殴りかかってきた。予想通りの脳筋タイプだと判断したソラはここで挑発するように声を張り上げる。
「やってみなぁ!」
「ウグアアアア!」
奇声を張り上げながら特に小細工なしに殴りかかるゾルグに対し、彼は全く動揺する事もなく余裕の態度で自慢の能力を発動させた。
「絶対結界!」
「いっでえええええ!」
全ての物理攻撃を弾く結界を前に何も考えずに思いっきり殴ってしまった怪人は、自慢の攻撃が結界に弾かれてその痛みに悲鳴を上げる。その様子を真顔で眺めていたソラは、対戦相手を馬鹿にするようにつぶやいた。
「お、馬鹿だな」
「ひ、卑怯だどおお!」
「卑怯で結構」
このゾルグとソラの戦いを離れた場所で観戦していたコウは、そのあまりに予想通りの展開に頭を抱える。
「あちゃー。使いもんになるんかアイツ」
「お、オデ、怒こった!」
「おー。怒れ怒れ」
ソラはゾルグを煽りに煽る。単純脳筋なガシューの怪人はカーっと頭に血が上り、問答無用で目の前の結界を潰そうとデタラメに何度も何度も殴りつけた。
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