第116話 暴走するスーツ その8

 ある程度の攻防を繰り返した後、作戦を思いついたソラが早速行動を開始した。


「ならばこうだ!」


 体の制御が効かない俺にソラが下した決断は、自慢の結界で閉じ込めると言うものだった。確かにこれならば誰も傷つく事はない。ただ、気分的にはちょっと凹むなぁ。まるで自分が超危険人物みたいじゃないか。……現状、その通りなんだけど。

 この動物園の動物状態の俺を見てモモもほっと一息ついていた。


「結界に閉じ込めたらもう安心ね」


 こうするより他に手がないとは言え、ちょっと惨めだな。と、俺が落胆していると、暴走した俺の体はまだあきらめていなかったらしく、ここでまたとんでもない馬鹿力を発揮した。


「ふんす!」


「け、結界がー!」


 そう、スーツで強化された本気以上の力で俺はソラの拘束用個人結界を破壊したのだ。この予想外の行動にモモは驚いて顔に両手を添えている。

 この結界を作ったソラもまた俺の行動に目を丸くしていた。


「あいつ、あんなに強かったか?」


「多分、スーツがリミッターを外しちゃってる。あのまま暴走を続けたらリーダーの体が耐えきれない」


 モモの見立てによると、この俺の暴走は大変危険なものらしい。今でも十分体が痛いんですけど!もっと続けたら一体どうなってしまうん?自分の自由に出来ない体は勝手にまた仲間を自動的に攻撃し始めた。

 この俺の攻撃を避けながら、何か方法をひらめいたソラがモモに声を掛ける。


「じゃあ、2人で本気を出してリーダーを止めよう!」


「そうね、じゃあタイミングを合わせて」


「せーのっ!」


 どうやら俺の暴走を止める為に2人が力を合わせてくれるらしい。その方法に若干の不安を感じたものの、自分ではこの暴走を止められない以上、もうこの流れに身を任せる他なかった。


 ソラとモモはまずイメトレを同期して呼吸を合わせると、俺に向かって拳を振り上げる。


「スーパー……」


「ダブルゥー……」


「「パアーンチッ!」」


 2人が息を揃えて放った拳が寸分違わぬタイミングで俺の顔面にヒットする。スーツパワーが上乗せされたそのパンチによって、物理ダメージ以上に精神エネルギーがスーツに流れ込んだ。その影響を受けてスーツ内にエネルギーの逆流現象が発生する。

 これによって俺のスーツに高圧電流のような大ダメージが発生した。


「あひゃあああーっ!」


 ダメージを受けた俺は意識を失い、その場にバタリと倒れ込む。おかげで暴走は止まったものの、引き換えに反動が来たのか俺の体はもうピクリとも動かす事出来なかった。

 死んだように動かなくなった俺を見て、モモが心配そうに声をかける。


「これで良かったのかな」


「もう動かないし、オッケーだろ」


 ソラは相変わらず感情をあまり動かさずに倒れた俺を冷静に見下ろしている。同士討ちをしても薄情さはちっとも変わらないな。それとも俺は大丈夫だって信じてくれているからそんな態度なのか?

 前のめりに倒れていた俺をモモはくるっとひっくり返した。この時の俺の顔は電流ダメージを受けて白目になっている。この顔を見て心配になった彼女は俺の役職を呼びながら体を揺さぶった。


「リーダー、リーダー!」


「息はしてるんだろ?」


 かなり本気で心配しているモモとは対照的に、ソラは何だか面倒臭そうにしている。呼吸を聞かれた彼女は早速それを確認して報告した。


「それは、そうだけど」


「じゃ、俺は帰るわ。後よろしくな」


「あっ……」


 呼吸をしていれば問題ないと、ソラはまたいつものように早々に現場を離脱する。彼のまたがった自動操縦のバイクが遠ざかる音を聞きながら、俺はここで何とか無事に意識を取り戻した。


「……う、ううん」


「気がついた?良かった」


 俺の意識が回復したところでモモの顔に笑顔が戻る。まだスーツから受けたダメージが大きくて、体がうまく動かせない。

 けれどずっと心配してくれている彼女を安心させようと、俺は気合を入れて無理やり体を起こした。


「暴走、止めてくれて有難う。何だかまだ身体中が痛いよ」


「え?スーツの機能は?」


「上手く働いてないみたいだ、おかしいな……」


 暴走中に機能が乗っ取られていたとしても、正常化すればスーツのダメージ無効化機能が働いて体に受けた傷は中和されるはずだった。同じくスーツの自由を乗っ取られた2人は機能が回復した瞬間にダメージが回復している。

 なのに俺のスーツがそう言う反応をしなかった事にモモは首を傾げていた。


「少しは動けますか?」


「うん、少しくらいなら」


「じゃあ、戻りましょう」


 こうして俺はモモに肩を貸した格好で彼女が乗ってきた車に乗せられる。そのまま俺は深い眠りに落ちてしまった――。


 基地についたところで俺は医療スタッフによって担架に乗せられて、まずは体に異常がないか検査室で検査を受ける。その結果はただの疲労で心身共に異常なし。

 そのまま医療室のベッドで寝かされて様子を見る事となった。


 所長とモモは、この報告を受けて俺の様子を見に現れる。眠っている俺の顔を見ながら所長が口を開いた。


「どうしてこうなったんだろ?」


「スーツの再調整をした方がいいですね」


 現場の俺の様子をつぶさに見ていたモモが所長にアドバイスをする。所長は腕を組みながら、何故俺の反応が他と違っていたのかその原因をじっくりと考えるのだった。


「それにしても、幸せそうな寝顔だこと」


 それから俺は2日ほど昏睡状態だったらしい。その間、何も大きな事件が起きなかったのは不幸中の幸いだったけれど、復帰した後に所長とモモがずっと頭を抱えていたのが印象的だった。どうやら俺の状況の改善を目指してくれていたみたいなんだけど、その解決の糸口が見つからないのだとか。


 自分ではどうしようも出来ないこの問題には俺自身も頭を抱え、しばらくの間は頑張っている2人にお茶を出すなどしてサポートを続けたのだった。

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