第115話 暴走するスーツ その7

 実際、機械が自動的に体を動かしているので決着なんて着くはずがなかった。コウもそれを分かっていて何度も楽しんでいるのだ。自分の意志ではどうにも出来ないと言う事は、戦闘中にも本人は別の事を考えられると言う事で、殴り合いながら2人は現状の打開策を話し合う。


「どうにか出来ないのかよ」


「ごめん、今は無理。でも体が勝手に動くのは多分イメトレの機能を利用されちゃってるんだと思う」


「装置を壊さないとどうにも出来ないか」


「そうね、その通り。悔しいけど」


 戦いながら話し合う2人を目にしたコウは、まるで野球観戦のヤジのように軽い感じで注意を促した。


「どんな相談しても無駄やからなー。装置には逆らえんでぇ」


「くっ、いい気になりやがっ……」


 ソラがコウの態度に苛ついたその瞬間、モモのアッパーが顎にクリーンヒットする。その衝撃で彼は放物線を描いて吹っ飛んだ。


「あっ、ごめっ……」


 不可抗力とは言え、彼女は律儀に謝罪の言葉を述べる。口ではそう言いながらも、体はふっとばしたソラにとどめを刺そうと近付いていく。言葉と行動が裏腹なそのやり取りを見ながら、見物しているド派手スーツ男は手を叩いて面白がっていた。


「やあ、おもろいおもろい」



 その頃、俺はヘリで現場に向かいつつ、操縦席に設置されている多目的モニターで同僚2人の戦闘状況を観察して疑問点を洗い出そうとしていた。映し出されていたのは2人がお互い機械的に殴り合う映像。

 俺はこの行動の理由がさっぱり理解出来なかった。


「これ、現状どうなってるんですか」


「どうやらスーツの脆弱性を攻撃されたみたい。今解析してる」


 所長もすぐに検査室に戻ってきていたので、2人が操られているのを確認したのは俺が検査を終えてからだ。そこからの解析だから解決方法を導き出すためにはまだしばらく時間がかかるのだろう。

 そこまで考えが及んだところで俺は急に不安になって来た。


「もしかして俺が現場に到着しても役に立たないんじゃないですか?」


「敵が外部装置を使っている以上、隙を突けば勝機はあるわ」


「何か方法があると?」


「任せて!」


 本格的な解決にはまだ時間がかかるにしても、現場の状況を分析した所長は手っ取り早く解決する作戦を既に何か思いついているらしい。全く絶望にくれていない彼女の声に勇気をもらった俺は、その作戦に乗っかる事にする。



 その頃、ずっと決着のつかない自動戦闘に飽きたコウは、これみよがしに装置を見せびらかすように頭上にかざした。


「ふあぁ~あ。殴り合い見るのも飽きたわ。そろそろ本気でやってもらおうかなっと……」


 そうして装置がこの言葉に反応したところでヤツの頭上に俺の乗ったヘリが到着する。そのタイミングを見計らって、俺は空中のヘリから眼下の敵に向かって躊躇なく飛び降りた。


「うわああああ~!」


 上空から聞こえてきた雄叫びに、流石にそう言う想定までしていなかったコウは混乱する。聞こえてきた声の主を探して、ヤツはキョロキョロと顔を動かし始めた。


「な、なんや?!」


 この隙を狙って俺は上空から重力の力も借りて超高速で速攻アタックを仕掛ける。この攻撃について所長は俺にこう説明していた。


「あの装置、スーツと共鳴する高周波のようなものを放出してるみたい。だから有無を言わさずに一気に攻撃すれば破壊出来るはず!」


「つまりはヘリから飛び落ちろと」


「私のスーツを信じれば、出来るでしょ」


「やれやれ、ウチの雇い主は無茶しか言わないな……」


 この無謀な作戦を了承した俺は敵が現状を認識するより早くにその手に持っている装置の破壊だけに意識を集中する。落下中に位置を調整するために装置の発する高周波を逆に利用してピンポイントで狙いを定めた俺は、一瞬のそのチャンスを逃さないようにイメトレの感応速度を最大限にして臨んだ。


「スーパー本気アターック!」


 そのほんの一瞬のチャンスに俺はコウの持っている装置を思いっきり殴って破壊に成功する。この想定外の攻撃を受けてコウは吹っ飛びながら大声を上げた。


「う、嘘やろーっ!」


「よし!破壊した!」


 俺は見事に自分の役割を果たせたと安心する。落下中に装置を破壊する事だけに意識を集中させていたためにそのまま地面に無様に衝突してしまったものの、スーツのダメージ無効化機能が働いて衝撃のダメージは全く生じなかった。

 この一連のやり取りを見ていたソラは、装置が破壊された事で体の自由を取り戻して歓喜の声を上げる。


「よくやったリーダー!」


「助かったー!」


 これで体が自由に動かせるようになったモモも嬉しさのあまりそのまま地面に座り込む。不意を突かれた格好になって混乱していたコウも流石同じスーツ装着者、すぐに体勢を取り戻すと3人揃ったヒーローに対して強気の態度を取った。


「ふん、これで勝ったと思わん事や……」


「なっ!」


 その派手スーツ男を見たソラは動揺する。何故ならヤツの手にはさっき俺が壊した装置と同じものが握られていたからだ。


「トラブルが起きた時のために予備を持参、こんなん常識やん?3人全員揃った事やし、これで勝ったで!」


「ヤバい!早く装置を!」


「わかっ……!」


 装置の恐ろしさを知っているソラが急いで破壊に走る。エネルギー弾は相殺されてしまうために飛び道具攻撃は使えない。俺もすぐにソラの後に続いた。

 けれど、コウが装置を起動させる方が早かった。ヤツはニヤリと笑うと同時に装置のコアの水晶玉が赤く光る。


「ざんねーん!」


「う、うわああああーっ!」


 装置の稼働と共にソラの動きが止まる。俺はそんな彼を置き去りにしてコウの懐まで潜り込むと、装置もろともヤツの体を最大限の力でふっとばした。


「なんでやねーん!」


 イメトレで最大限の力まで発揮出来るように調整していた俺の拳はコウを空の彼方までふっとばす事に成功する。よし、これで勝ったな。

 装置が可動したのに俺が攻撃を成功させた事に残りの2人は呆気にとられていた。


「嘘だろ……」


「殴り……飛ばした?」


 全てが終わった後、得意げに振り返ったところで、俺の体にも時間差で異常が発生する。


「あがががが……体の自由がきかない……」


 さっきまでスーツに操られていた2人と同じように俺の体が俺の意思とは関係なく勝手に動き始めた。この状況に混乱したのは俺だけじゃなかったようで、その様子を眺めていた2人もまた困惑する。


「は?冗談だろ?俺の束縛は切れたぜ?」


「私も大丈夫……そうか、反応が違うんだ!」


 流石にモモはすぐに状況を理解したらしい。ソラはすぐに情報を共有しようと質問を飛ばす。


「どう言う事だよ?」


「リーダーのスーツがリーダーに合わせて進化しているんだと思う。だから装置の反応が私達と違った」


「うわああ~どうにかしてくれ~」


 俺は自分の体が制御出来ず、目の前の可動物に向かって無差別に攻撃を仕掛けようと体が自動的に動き出した。この攻撃を避けながら、ソラはそれでもまだ納得していないのか質問を続ける。


「でも装置はもう止まったはず」


「多分命令が止まってすぐに機能を回復した私達とは違うんだよ。多分一度命令を受けたらずっとそれを実行してしまうんじゃないかと……」


「何だそれ、余計厄介じゃねーか」


 暴走した俺のスーツは執拗にソラとモモを襲い続ける。2人共俺の攻撃を紙一重で避け、現状を打破する方法を模索していた。

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