第104話 蘇る伝説 その5

「ここはかつて古代文明が栄えていた場所。人々はここで聖なる声を聞いたのだとか」


「じゃあ、この遺跡を荒らしている相手はその声を聞きに来た?」


 俺は今この遺跡で好き放題しているヤツらの目的を推測する。この素人判断に対して、専門家の意見は別の見解を持っていた。


「いや、多分違う。きっとここには荒らしてでも求める何かがあるんだよ」


「それは?」


「この遺跡は確かに探索隊が探索したけど、その時、外部の人間には決して入れない部屋がいくつもあったみたい。ヤツらの目的もきっとその中の部屋のひとつだと思うんだよね」


 このモモの推理を聞いて、俺はひとつの疑問を思い浮かべる。探検隊が入れなかった部屋に謎の答えなりヒントなりがあるとして、その情報は彼女が頼りにしているデータの中にはない事になる。と、言う事は――。


「でも俺達だって外部の人間だろ?分からないエリアの情報なんてどうやって……」


「私達は後を追っている。だから何の問題もないのよ」


「おお、なるほど」


 つまり、遺跡荒らしの足跡が見つかればそれを辿るだけで自動的に相手の居場所に行き着けると、そう言う事らしい。モモはその痕跡を探し出そうと遺跡内を歩いていたのだ。

 やがて、俺達は最近誰かが足を踏み入れたらしい痕跡を遺跡内の部屋から見つけ出す。


「うーん、確かに最近ここに誰かが足を踏み入れた形跡があるな」


「出来ればこの遺跡を詳しく調べたりもしたいけど……先に進みましょう」


 彼女は遺跡荒らしの追跡以外にも、普通にこの遺跡そのものの調査もしたそうにしている。平静を装ってはいるけど、態度でバレバレだ。


「なぁ、こう言うの、やっぱり興味があったりする?」


「考古学は専門外なんだけど……こう言うのも普通に好きですよ」


「古代文明ってロマンだもんな」


 俺がモモの気持ちを汲み取って話を合わせていたその時だった。当然どこか――多分上層階――から人の叫び声が聞こえてきた。


「ぐあああああ!」


「何だ?あの声!」


 この異常事態に俺は身構える。何か異常事態が発生した事は間違いないものの、その影響が自分達のいる場所まで及ぶ可能性を考えたからだ。

 だが、幸いな事にその危険性はないみたいで、俺達のいる部屋は全く異常は感じられなかった。少し安心したところでモモが突然駆け出した。きっと叫び声の正体を確認しようとしているのだろう。

 確かに怪我人がいるのなら少しでも早く助けた方がいい。それがたとえ遺跡荒らしの悪人であったとしても。


「声は上層階からでした!急ぎましょう」


「分かった!!」


 俺達はまずは上層階に繋がる階段を探す。この時はその先に待ち構えているものが何か全く予想が付いていなかった。まさかあんな展開が待っているだなんて――。



 魔法使い2人の本気バトルの結果はルードラの勝利となった。倒れたリッツとかろうじて立っている彼はしばしの間見つめ合う。敗者を見下ろしながら、ルードラは申し訳なさそうな表情を浮かべながら声をかける。


「悪いな……こんな結果になってしまって」


「いや、いいんだ。求める者が力を得る……正しい結果になって良かった」


「リッツ……」


 戦いに負けた炎の魔法使いは、風の魔法使いに見守られながら軽くまぶたを閉じる。勿論これで息を引き取った訳ではない。魔力を使い果たして軽く眠りにつこうとしているだけだった。そう、この時点では。

 そうして眠りにつく前に自虐的に自分の未来を予想する。


「これで俺は魂を吸い取らあああああー……!」


 眠りにつこうとしたその時、石像の力が発動し、栓を抜いた風呂の水のような勢いで敗者の魂を勢い良く吸い取っていく。リッツの魂を完全に吸収した石像は不気味に動き出し、くわっとその目が開かれた。その瞬間に、勝者であるルードラにとんでもない量の力が注がれていく。

 勝利の報酬を石像から受け取り、力が湧き上がってくるのを実感しながら彼はつぶやいた。


「これで、資格を得た、か」


 力を注ぎきった石像には亀裂が入り、役目を終えたそれはやがて風化して一気に砂と化してしまう。きっとそれが限界だったのだろう。魂を吸い取られたリッツの体もすでに像と同じように砂と化していた。

 相棒を犠牲にして力を得たルードラは、何を思ったのかその場から姿を消す。



 誰もいなくなったその部屋に俺達がやってきたのは、風の魔法使いがその部屋から出ていってから30分くらい経った後だった。遺跡が予想以上にボロくなっていて、朽ちた道を避けながら進んでいたらかなりの回り道になってしまい時間がかかってしまったのだ。


「おおーい!」


 声が聞こえた部屋まで辿り着いた俺は大声で呼びかけるものの、何の反応も戻ってこなかった。この状況を前に俺は息を整えながら首を傾げる。


「おかしい、誰もいないなんて……」


「とにかく探してみましょう!」


 ここで物理的に探しても効率が悪いと思った俺は、すぐにスーツの対人センサーを稼働させる。センサーの範囲内に人がいたらこれですぐに分かるはずだ。

 けれど、検索結果を表示させたところで予想通りの反応は得られなかった。


「くそっ、半径100m以内に生体反応はないぞ」


「遺跡の頂上を目指してみましょうか?」


「しかしこの部屋で何かがあった事は間違いないんだ。せめてヒントだけでも……」


 機械的に反応が見つからなかった以上、ここは時間がかかっても地道に痕跡を探すしかない。まずはこの部屋全体の調査だ。俺がそう判断するより早くモモは動き始めていた。

 部屋の壁を触り、装飾品を真剣に見つめ始める。この部屋で起こった出来事の痕跡が何処かにないか、気分はさながら腕利きの探偵だ。


 ある程度室内を歩き回って分かった事は、この部屋は俺達が部屋に入る直前まで何か大きな力がぶつかり合っていただろうと言う事だ。

 やがて床に落ちていた装飾品に気付いた俺は、それを元あったであろう場所に戻そうとする。


「これは……ここにあったものなのかな?」


「ちょっと待って、何か仕掛けがあるのかも……」


 この行為をモモが牽制する。俺はその忠告を右から左に受け流し、軽口を言いながら拾った物をそのまま元の場所に戻した。


「まさか。映画の見過ぎ」


「何気ない行動から罠が発動したりしたりす……」


 彼女の想定を受け流しながら歩いていた俺はこの時、床の亀裂に気付かずに足を踏み降ろしてしまい、その衝撃で床が崩れ落ちる。

 この突然の出来事に俺は為す術もなく、そのままあっけなく階下に落下してしまった。


「うわあああ!」


「1号!」


「ゆ、床が崩れただけだよ」


 ひとつ下の階の部屋に無事着地した俺は、上から心配そうに見下ろす彼女に無事をアピールする。ダメージを無効化するスーツだから、この程度では本当にちょっとしたアクシデントにしかならない。

 落下した直後は尻餅をついた格好になってしまったけれど、すぐに立ち上がった俺は腰についた埃をパンパンと手で払う。そう言う仕草をしていると上から声が届いた。


「戻ってこられますか?」


「ああ、すぐにでも」


 俺は軽く返事を返すと急いで彼女のいる部屋まで戻る。道順は覚えていたので20分程度で戻る事が出来た。部屋ではまだ彼女が周辺を慎重に観察している。


「それで?何か分かった?」


「いえ、センサーを駆使してはいるんですが……」

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