第103話 蘇る伝説 その4

 彼女の説明を聞いてようやく安心した俺は、座席に座りながら両手を伸ばして背伸びをする。


「見えてきましたよ、あの遺跡です!」


 進行方向をじっと見ていたモモがここで目的地が近付いた事を教えてくれた。俺もすぐに前方に注目すると、確かに一面の森の中に埋もれるように遺跡の一部が顔を出している。その次の瞬間だった、遺跡の一部から爆発に伴うであろう煙が見えたのは。先に気付いた彼女がまずその場所を指し示した。


「あ、あれ!」


「一体中で何が?」


「取り敢えず降りて潜入しましょう!」


 その後、ヘリコプターは遺跡の近くの広けた場所に無事に着陸する。未知のジャングルではどんな危険が待っているか分からないため、俺達は変身を済ませてからヘリコプターから降りた。それから300mほど歩いて遺跡の前まで辿り着く。着くまでの道中は思ったより静かで、それは拍子抜けするほどだった。

 もしかしたら遺跡の異変を感じて、周辺に生息する動物達は先に避難したのかも知れない。


 その遺跡は例えるなら裾の広がったビルのような造形で、古代にこんな建物を作っていたと言う事が信じられなかった。俺は謎の期待に胸を膨らませる。


「森の中に打ち捨てられた古代遺跡……確かに何らかのお宝が眠っていそうだな」


「そう言うお宝の前には危険な罠がつきものですけどね!」


 その話しぶりから言って、モモも何故だかすごく興奮しているようだ。そのテンションに俺は若干引き気味になりながら、心の準備も整ったと言う事で声をかけた。


「よし、行こうか!」



 その頃、遺跡にヒーロー達がやってきた事を知らない魔法使い達は、襲いかかってきた魔導人形を何とか全て蹴散らし、その先の部屋に歩みを進めていた。

 ずっと何かを探していたルードラは、進んだ先でついにその求めていた古代の遺物を発見する。


「あったぞ、これだ!」


 埃にまみれたそれを丁寧に払うと、現れたのは古代人が作った古い石像のようなモニュメントだった。冒険の末に発見した念願のお宝を大事そうに触っていた彼は、突然襲ってきた自身の体調の変化に狼狽うろたえる。


「な、何だ?頭が……」


「ど、どうした?」


「くそっ、流石は試練の石像だ……」


 心配になったリッツが声をかけると、苦しそうにしながらも無理やり笑顔を作ってルードラが答える。命を吸い取るかのようなその石像の力を前に、風の魔法使いの起こした行動に違和感を感じた炎の魔法使いは大声を上げる。


「それが試練だって言うのか!」


「ああ、それと、この石像は客人をひとりしか招かないらしい」


「ほう?じゃあ俺はここで留守番しといてやるよ。他の盗賊からお前を守らなきゃだしな!」


 目の前の危険そうなブツに関わりたくないリッツは、敢えて自主的に石像から離れようとする。

 その言動を目にしたルードラは、一緒に来た相棒にもその権利はあると強く主張した。


「ば、馬鹿言うな!ここまで来たんだぞ!どっちが相応しいか今から決めよう!」


「いや、いいよ。そもそも俺は勝手についてきただけだ」


「いや、ここまで来たんだからお前にも権利はある。強くなれるんだぞ?」


 彼の求めた石像、この目の前にある古代の遺物の能力とは、望んだ者の力を増強させると言う代物のようだ。最近力を増してきたヒーローに対抗するために、ルードラは力を求めていた。魔導の研究、最新の魔法科学理論、古代の叡智の追求など、力を求めるその探求の果てに辿り着いたのがこの石像と言う訳だ。

 その並々ならぬ情熱を側で見ていたリッツは、だからこそ、その成果を受け取るのは自分ではないと相棒からの申し出をあっさりと断っていた。


「正直、俺はこれ以上強くなる気はないんだ。これ以上力を得てしまうと多分精神が崩壊する」


「けどな、石像は贄を求めるんだ。どちらかが犠牲にならなければ先へは進めない」


「な、嘘だろ?」


 石像は力を与えるが、無償で与えるものではないらしい。ルードラがなぜ自分を誘ってこの冒険に出たのか、その真の理由をそこで察したリッツはこの先の展開を想像して愕然とする。動揺する彼にルードラは更に言葉を続けた。


「俺は求めてしまった。だから……もう引き返せない」


「なんてこった。流石に俺も命は惜しいぞ……」


「だから戦ってくれ!お前が勝ったら代わりに先に進むんだ」


 誰かを生贄にする事で絶大な力を与える魔性の石像。力を望んだ魔法使いは全てを知った上で行動を起こしていた。その覚悟を知ったリッツもまた、何とか最悪の事態を避けるために言葉を尽くす。


「どうしても戦わなきゃ駄目か?」


「戦わなければお互いに石像に命を奪われる」


「じゃあ壊せよそんな石像!」


「壊せるものか!何のためにここまで来たと……」


 2人の魔法使いは残された選択肢がない事を悟り、お互いに覚悟を決める。動き出した運命の歯車は止める事など出来なかったのだ。2人はお互いに見合った後、じりじりと歩きながら間合いを計り、そうして魔法攻撃の構えを取る。

 やがて周囲の魔導エネルギーが不安定になり、辺りの魔法濃度が常人にも確認出来るほどの密度に変わった。そうして本気の戦いの時に駆使する専用の杖を物質変換したリッツは真剣な顔で語りかける。


「分かったよ。じゃあ、本気でぶつかってこい。俺も本気で返り討ちにしてやる!」


「ほう?絶対の自信だな?」


「俺は死を前にすると本気以上の力が出せるんだよ!」


 対するルードラもまた杖を構え、本気で迎え撃つ体勢が出来上がっていた。挑発する炎の魔法使いに対し、杖を振りかざしながらにやりと笑みを浮かべると、大声で返事を返す。


「へぇぇ、それは試してみなくちゃだなあああ!」


「ああ、試してやるともよおおお!」


 こうしてMGS所属の2人の魔法使いはお互いの命を懸けた決闘を開始する。風と炎の魔法がぶつかり合い、周囲は高密度のエネルギーの暴走に強い光と音、それに地震のような振動を与えていた。



 その頃、遺跡探検隊のヒーロー2人は周囲を警戒しながら古代の建築物内を慎重に歩いていた。時折ズウンと建物上部からの振動が響いてきて、その度に2人は足を止める。確かにこの遺跡内で何かが起こっているようだ。

 俺が心配そうに天井を見上げていると、次の瞬間にガララっと言う大きな音と共に天井が崩れてきた。


「うわっ!」


「本当にアドベンチャーになってきたね」


 単純に驚いて大声を出した俺と違って、こんな非常事態になってもモモはとても冷静だ。その冷静具合の真相を探ろうと、俺は声をかける。


「この遺跡の道が分かるのか?」


「以前探索隊がこの遺跡を調査した時のデータをスーツに転送してもらってるから」


「そのデータは信用出来ると?」


 先行する彼女の後をついていきながら、何となくつぶやいたこの言葉にモモは一旦一呼吸をした後に振り向いた。


「今のところは」


「そっか、なら進もう」


 モモはスーツにデータをダウンロードしていて、それを頼りに進んでいる。確かな情報を頼りにしているなら、この探索も無駄なく進む事が出来るだろう。

 俺は彼女を信頼して何も言わずに後をついていく。石組みの遺跡は頑丈に作られているように見えて、やはり長年の歳月を経て全体的に脆くなっていた。

 遺跡について何の情報もない俺は、歩きながら暇潰しに彼女に質問する。


「しかし、この遺跡は何なんだ?」

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