第102話 蘇る伝説 その3

「今回はあの子のボディーガード役をしてもらうから、あなたには特に準備するものはないわ。持っていくお菓子でも吟味したら?」


「俺は小学生ですかっ!」


 その指示を聞いた俺は所長におちょくられているように感じて、思わずツッコミを入れる。このやり取りがツボに入ったのか、待機命令を受けていたソラが突然大声で笑い始めた。


「くはははははっ!そりゃあいい!」


「わ、笑うなっ!」


 彼に笑われた俺は急に恥ずかしくなってそれを止めようとする。

 けれど、その後もソラはずっと笑い続け、司令室では笑い声がしばらくの間反響するのだった。




 その頃、遺跡のトラップにハマった魔法使い2人はまた別の遺跡に転移していた。どうやらあの2人を侵食していた謎の力は罠ではなく、特殊な転移魔法の類だったらしい。

 転移が終わって体の自由が戻ったリッツは首を左右に動かして状況を確認し、独り言のようにつぶやいた。


「まさかこんな所に出るとはな……」


「転移円が生きていたんだ。希望が持てるぞ」


「希望ねぇ……ま、今のところは順調かもな」


 彼が顎に手を当てながら状況を把握していると、その多少不安を含んだ言葉にルードラが気を悪くした。


「順調だとも!後は試練の石像を探すだけだ」


「そいつはここにあるのか?」


「ここになくとも、ヒントくらいはあるはずなんだ」


 彼はひとり鼻息荒く先に歩いていく。その独断専行具合にリッツは軽くため息を吐き出すと、遅れないようにとワンテンポ遅れて歩き出した。


「はいはい、ついていきますよ」


 転移した遺跡もその前の遺跡と同じくかなり古いもので、アチコチで亀裂が入ったり崩れていたり、普通に進むだけでもかなりのアトラクション具合だった。崩れていても飛び移れそうな場合はジャンプして飛び越える。

 ただ、着地の衝撃で足場が崩れる事もザラで、飛び越える時は常に恐怖との戦いでもあった。


「ほいっ」


「うわあああっ!」


 先行する彼に続いてリッツも同じように飛び越えたところで、着地の瞬間に足元の床が見事に崩れ去る。慌てた彼は焦って腕をデタラメに動かした。


「掴まれっ!」


 それを見たルードラがすぐに手を差し出し、リッツは必死でその腕を掴み危機を脱する。引っ張った勢いで2人共床をゴロゴロと転がり、そのまま壁にぶつかったところで動きは止まる。

 ぶつかった瞬間は痛みで何も喋れなかったもの、やがて落ち着くと2人は顔を向かい合わせて笑い合った。


「ふうう、助かった。ありがとな」


 リッツは助けてくれた彼に笑顔を向けて礼を言う。それに対して、ルードラはこの遺跡に構造に関しての疑問点を口にした。


「うーん、崩れたのは年季なのか、それとも罠なのか?」


「いや、罠な訳がないだろ?こんな古びた遺跡だぞ?経年劣化だって」


「どちらにせよ、石像の場所まで辿り着かねば……」


 体にダメージを負った2人は休憩がてらにしばらくそこでじっとしていた。やがて痛みが引くと、お互いにストレッチなどをして体の歪みを正す。それから何回か深呼吸をして息を整えると、腹に力をためて気合を入れ直した。

 体の調子が戻っところで、ルードラが相棒の顔を見つめる。


「じゃあ、行くか」


「ああ」


 こうして2人の冒険は再開される。この遺跡に目的の石像がある事はルードラも把握しているものの、そこに着くまでのルートはアチコチ傷んでまっすぐ進めないために手探りとなる。そのため、全く知らない場所歩く事も多く、常に緊張しながら慎重に進んでいた。

 そんな感じで2人が歩いていると、またしても見慣れない部屋の前に辿り着く。その部屋の雰囲気を感じた風の魔法使いは、緊張で冷や汗を流しながらつぶやいた。


「この部屋は……」


「ああ、魔力を感じるな。とんでもないく古いはずなのに。……まさか中に誰かが?」


「慎重に進もう。ここから先は命の保証も出来ない」


 2人の眼前に魔力を感じる部屋。ルードラはゴクリとつばを飲み込んで、慎重に一歩を踏み出した。緊張する相棒を勇気付けようとここでリッツが軽口を叩く。


「なあに、いざとなったら俺の魔法で……」


「期待してるぞ」


「はは、任しとけい!」


 豪快に笑う炎の魔法使いにルードラの頬も緩む。警戒しながら歩いていると、2人の前に曰くありげそうな大きな扉が現れた。その扉は古代の見事な装飾がなされていて、不可思議な文様と幾つもの宝石が埋め込まれている。

 どうやら求めるものはその先にあるらしく、ルードラは躊躇なく手を伸ばした。その手が扉に触れた途端に彼は顔を歪ませ、うめき声を上げる。


「く、扉に魔力を吸い取られるっ!」


「俺も手伝うぜ!」


 どうやら扉には魔力を吸い取るギミックがあったらしい。相棒のピンチにリッツもすぐに扉に触れる。そうして2人はお互いの魔力を消費しながら力任せにその扉を押し開いた。その先の部屋に待ち構えていたのは、魔力で動く無数の魔導人形。

 状況から判断すると、扉が魔力を吸い取っていたのはこの魔導人形を動かすためだったようだ。無数の敵の出現を前にルードラは声を漏らす。


「おおお……。やはりそうか……」


「いやこれどうすんの?俺らこいつらを蹴散らさないといけない訳?」


「腕が鳴るよな?」


 風の魔法使いはにやりと笑うと、挑発するように炎の魔法使いの顔を見る。そう言われたリッツは覚悟を決めて腕に魔力を乗せていく。


「ええい!なるようになれだ!」


「うおおおおおおお!」


 2人の魔法使いは侵入者を排除しようと動き始めた魔導人形達を前に、それぞれが自慢の魔法を発動させる。静かだった遺跡はこの魔法戦により炸裂音や破壊音がしばらくの間響き続けるのだった。




「しかし格納庫の中の自動操縦マシンの中に高速移動の出来るヘリコプターまであるとは……」


「今回は陸路で到達出来ないので仕方ないですね」


 その頃の俺達は、基地自慢の最新鋭のマシンで件の遺跡へと向かっていた。今回乗り込んだのは、超高速で移動出来るこれまた完全自動操縦のヘリコプターだ。

 目的地に着くまでの数時間は特にする事もなく、のんきに流れる景色を見ながらモモと雑談を楽しんでいた。

 そろそろ遺跡に着くと言う頃になって、俺はある重要事項を思い出す。


「あ、パスポートとか準備してないんだけど大丈夫かな?」


「えっ?持ってきてないんですか?」


「あ……うん。ごめん」


 彼女に呆れられた俺は意気消沈する。とは言え、今からパスポートを取りに行くと言うのも難しいだろう。さてどうしたものかと腕組みしていると、モモはニッコリと笑顔を俺に向けてきた。


「でも大丈夫ですよ、ちょっと遺跡で悪党を懲らしめるだけですし」


 ま、今回は街に行く訳でもないし、パスポートなんて何か問題を起こさない限りなくても大丈夫だしな……。そう気を取り直したところで、またしても気になる事が出てきた俺はその不安で頭が一杯になる。


「そう言えば勝手に空を飛んで大丈夫だったのかな?」


「そこは所長のサポートがありますから」


「な、なるほど……」


 航空機ってのは普通は勝手に空を飛んではいけない。色んな決まりやら条件やらが確か決まっていたはず。詳しくは知らないけど。完全自動操縦なので、乗っている俺達は全くそれを意識していなかった。

 ただ、だからこそ、そう言ういややこしいやり取りは基地側が全てやってくれているらしい。ここは優秀な基地スタッフを信じるとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る