第101話 蘇る伝説 その2

 ただ、今までの人生でリーダーをやった事がない俺はこの言葉に戸惑った。もし自分がこの3人の中でも飛び抜けた能力があったならこの言葉も素直に受け入れられたかも知れない。

 けれど実際はどうだ。俺はこの3人の中で一番役に立たない立ち位置だ。そんな状態で自分がリーダーだなんて言える訳がない。リーダーって言うのは普通、誰よりも強い存在がなるものだ。


 そんな訳でリーダーなんて自分には相応しくない言葉だとキョドっていると、モモが更に言葉を続ける。


「ヒーローモノは最初に活躍を始めたメンバーがリーダーって昔から決まってるんです」


 何てこった。彼女は俺の実力を買ってリーダーに推薦してくれている訳じゃなかった。単純に一番最初に始めたからそう言っただけだ。これってちょっと淋しくない?別に役に立てなくても最初に始めたってだけでリーダーってか……。

 発言の真意が分かって地味にショックを受けていると、ソラが更に追い打ちをかけてきた。


「こいつがリーダーらしいとは特に思わねーけど」


「ううっ」


「でもま、リーダーって何かと面倒そうだし、頑張ってリーダーやってくれよ」


 彼の中じゃリーダーってのは便利屋か何かみたいな感じらしい。ま、責任を取るのがリーダーだものな。ま、仕方ないか。こうなったら厄介事は全て受け入れようじゃないか。


「んまぁ、何かやらかした時の責任くらいは取れるかな……」


「……ったく、情けないなぁ」


 俺の態度を見たモモが小さく吐き捨てるようにつぶやく。ま、馬鹿にされてもそのまま受け入れたからそう思われても仕方ない。俺は平和主義者だからね。

 とにかく、メンバー2人からリーダー認定を受けた事だし、これで俺は実質的にリーダーって事でいいんだろう。

 そう思うと何だかちょっと自信が湧いてきて、俺は意味もなく胸を張った。


「んじゃあ、リーダーらしく気合を入れますかっ!」


「お、所長が呼んでる」


 折角頑張ろうと思ったところでソラが携帯を覗く。どうやら所長から連絡があったらしい。何もこんなタイミングで呼び出さなくても……ああもう、調子狂っちゃうなあ。


「うっ、ここからがリーダーの見せ所だったのに」


「とにかく、行きましょう」


 俺が愚痴を吐き出していると、先に動いていた彼女にも声をかけられる。そう、愚痴っていたために行動がワンテンポ遅れてしまったのだ。ソラなんて一番最初に動いてもう豆粒ほどの大きさだ。俺はモモについて急いで司令室に向かいながら、この状況に対して思考がループし始めた。


「あれ?俺リーダーなのに全然リードしていないような?」


「何か言いました?」


「い、いやいや、何も?」


「?」


 今更行動力のあるリーダーを目指してもあんまり意味はないだろうと、出した言葉をすぐに引っ込める。名実共にリーダーとなるにはまだ時間が掛かるし、今は理想のリーダーを目指すぞって言うその志さえあれえばいいや。


 その頃、一番最初に駆け出したソラはもうとっくに司令室に入室していた。そうして開口一番、自分達を呼び出した張本人に声をかける。


「どうしたんだよアリカ、急に呼び出して」


「ちょ、ここでは所長と呼びなさいって……。まあいいわ、これを見て」


 彼に小さく小言を言った後、所長はすぐにモニターを切り替えた。そこには地元ではない見慣れない一面の森の景色が映っている。そうしてその映像の中心には遺跡のような建物が。彼女が何の意図でその映像を見せているのかはまだ分からない。その映像を流し始めた直後に俺達もようやく司令室に到着する。

 部屋に入った途端にその映像が目に飛び込んできたので、思わず俺は口を開いた。


「ん?これは?」


「ここは海外のある森の中に遺跡の映像なんだけど、見てて」


 どうやらモニターに映っているのは海外の景色らしい。リアルタイムなのか録画なのか分からないけど、彼女がその映像の先の事を知っていると言う事は多分録画なのだろう。俺達は一体何が起こるのだろうとモニターが映す景色に釘付けになる。すると画面上の遺跡らしき建物が突然揺れ始めた。


「何だ?地震?」


「よく見て!遺跡しか揺れてないでしょ」


 俺の推理に対して所長がツッコミを入れる。確かに遺跡と森をよく観察すると、森は全然動いていない。とは言え、古代の建物が何もなく揺れるって事が有り得るのだろうか。俺はその原理に全く思い当たるものがなく、ただ目の前の不可思議現象を前に首を傾げる。

 すると、同じ景色を眺めていたモモがゴクリとつばを飲み込んだ。


「これ、もしかして遺跡内の古代文明か何かの遺物が発動している……とか?」


「それはまだ分からないけど、変な胸騒ぎがするのよ。あの遺跡内部に誰かがいて何かをしている……」


 モモの推理を受けて所長が自身の見解を口にする。2人の会話の内容から俺はあるひとつの回答を導き出した。


「もしかして、俺達に調査に向かえと?」


「そ」


 所長はモニターを切るとあっさりと首を縦に振った。その決断を聞いたソラはすぐに抗議を開始する。


「いやいやいや、俺達は遺跡発掘隊じゃないんだぞ?街の平和を守るヒーローだろ?」


「確かに治安も大事だけど、これをほっとくともっと大変な事が起きそうな気がするのよね」


「大変って、そもそもあの遺跡は何なんだ?」


 ヒーロー活動をしていると言っても、行動範囲から言って海外は対象外だ。俺も抗議する彼の意見に賛同する。その大前提を崩してまでも調査に向かえと指示するのだから、モニターに映っていたのあの遺跡はとんでもなくヤバイものなのだろう。ヒーローの俺達が出張らなければならないくらいに。

 ソラに追求された所長は、真剣な表情を浮かべると声のトーンを落として説明を始めた。


「あの遺跡は神話時代の宝物を封じた伝説が残ってる」


「宝物を封印?」


「詳しい伝承は失われているけど、かつて神話の時代、その宝物を使って世界が滅びかけたって伝承もあるみたいなの」


 世界を滅ぼすレベルの古代の遺産。中二心がうずく話だ。もし本当にそんなものがあの遺跡にあるのだとすればの話だけど……。

 彼女の話を黙って聞いていたモモが、ここで突然勢い良く右手を上げる。


「私、行きます!」


「お、おい……」


 この突然の言動にソラが引いた。所長は彼女の意見をすぐに受け入れると、速攻で今後の俺達の仕事についての指示を出す。


「じゃあソラ、留守番頼める?」


「しゃーねーな。任せろよ」


 彼も所長の待機の指示にすぐに従った。一瞬でメンバー2人の行動が決定されて、さっきから蚊帳の外だった俺は思いっきり面食らってしまう。


「えっと、俺は……」


「危険な場所に女性ひとりで行かせられると思う?リーダーはモモと一緒に行って」


「あ、ああ……」


 そんな感じで成り行きで俺の役割も決まる。どうやら所長も俺をリーダー呼びしてくれるらしい。もしかしてさっきの俺達の会話を聞いていた?所長のあの性格なら十分有り得そうだから怖い。

 と、俺が現状認識に時間をかけてしまっていると、モモが先に動き始めた。


「じゃあ私、準備してきます」


「ちょ、俺はどうすれば?」


 何も聞かされていない俺は、焦ってこの作戦の責任者に質問する。すると彼女はハァとため息を吐き出すと、淡々とどこか投げやりっぽく話し始めた。

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