第98話 繰り返す一日 その6
攻撃を受けた俺達はそのまま10mほどふっとんだ。スーツのおかげでダメージはないけど、これはかなり厄介だぞ。時間を操る能力と攻撃を合わせてきたら、このスーツの対防御力を超える攻撃になるのかも知れない。
上空から攻撃が届いた事を確認したマーヴは、悪役らしくいやらしく笑う。
「ふふん、いい気味だぜ。時間を操る者が勝つ!お前らはここで終わりだっ!」
「くそっ!このままじゃ……」
こちら側のどんな攻撃も時間を止めて避けられ、敵からの攻撃は避ける間もない。この状況に悔しがっているとここで所長からのメッセージが届く。
「落ち着いて、時空感覚標準値を敵に合わせればいいのよ」
「それどうやるんだよ!」
いきなり訳の分からない事を指示されたものだから、俺はつい反射的に逆ギレしてしまった。するとすぐのモモからの補足説明が届く。
「それはこっちで全部計算するから!2人は敵から目を離さないで!」
「わ、分かった!」
「頼むぜ!」
俺達は同時に基地側からの要請に返事を返した。これで対策はほぼお任せと言う事でいいのだろう。そう言う訳で、俺達は上空のマーヴの動きにだけ注目する。
上空でヤツを乗せている時空龍はある一定の高度を保っていた。高みの見物をするマーヴはまだ自分が有利だと思い込んでいて、地上の俺達を見下ろしては上から目線で宣言する。
「ふん、お前らのスーツは厄介だけど、こうして時間さえ止めてさえしまえば……」
奴はそう言ったかと思うと、上空から急下降し始めた。どうやら時間を止めた上でのダイレクトアタックをするつもりらしい。本来止まっていれば視認出来ないはずのその動きが見えると言う事は、基地からの処理が間に合ったと言う事なのだろう。
(おお……動きが分かる。これなら……)
俺は敵が止めたその空間から攻撃を回避するために体を動かし始めた。
しかし、この時間の止まった世界で動くと言う初めての体験に中々体がついていかない。
「くっ、空気が重い……」
空気抵抗が壁になっているのか、そもそもスーツがきちんと対応していないのか、普段通りの動きを俺は出来なかった。このままでは敵の攻撃をまともに受けてしまう。
焦る気持ちだけが高まる中で、マーヴの命を受けたキロンがその体の割に小さめな腕を大きく振りかぶった。
「龍の爪で引っ掻いてやれ!」
相変わらず俺はゆっくりとした動きしか出来ない。攻撃が来ると分かっているのに思い通りに動けないもどかしさが、俺の恐怖心を更に高めていた。
目の前に迫るこのドラゴンの攻撃にスーツはきちんと耐えてくれるだろうか。最後の最後はもう覚悟を決めて、俺はギュッと強くまぶたを閉じる。
「うおおおおお!」
その時、最接近したキロンの背後でソラがその体に触れた。この突然の予期出来なかった行動にマーヴは驚きの声を上げる。
「な、何ィ!」
「キョオオオオ!」
時空龍に触れた彼の拳から超能力的なエネルギーが放たれた。その強い刺激にキロンは甲高い悲鳴を上げる。自慢のペットの異常にマーヴは混乱した。
「キロン、キロン!貴様!何をした!」
「いたずら好きな龍にちょっとしたお仕置きをな」
ソラはドヤ顔でファイティングポーズを取る。どうやらこの空間にすでに適応しているらしい。やっぱりあいつは天才だな。
この攻撃を受けた時空龍はそのまま20mほどふっとんだ。一緒に乗っていたマーヴもかなりのダメージを受けている。それでもまだ時間の流れは変わっていない。
多分一撃を加えたくらいでは龍の能力も失われはしないのだろう。そもそももさっきの攻撃も、決して致命傷を与えるレベルではなかったみたいだし。
ただ、これで俺にも十分この世界に馴染む時間が出来た。少しずつ楽に体が動くようになってきた俺は、この時に出来た隙を狙って反撃に転じた。
「フラッシュパンチ!」
「くううっ!」
倒れ込んでいたキロン目掛けて必殺のパンチを御見舞しようとしたところ、その殺気に気付いたマーヴがすぐにその場を離脱する。後ちょっとのところで俺の攻撃は空を切り、必殺のフラッシュパンチ――力を乗せて威力を数倍に高めた物理攻撃のパンチ――は不発に終わった。
その様子を横で見ていたソラは、余裕の態度で俺の失態を軽く指摘する。
「先輩、避けられてますよ」
「わ、分かってるよ」
パンチを避けられた俺は、バランスを崩して転けそうになっていた体勢を何とか気合で回復させる。その際中にツッコミが入ったものだから、何だか余計に恥ずかしかった。くうう、何でうまくいかないかなぁ。
地上でそんなコントを演じている頃、上空に逃げたヤツはまた地上20mほどの高さまで飛び上がって仕切り直しにかかっていた。その様子を目で追っていたソラは余裕の態度で軽口を叩く。
「あらら、得意の攻撃が効かないんで空に逃げた?」
「お前らが何の策を講じても無駄だ!俺様がとっておきの時空弾をお見舞いしてやる!」
一度失敗したと言うのに、それでもまだマーヴは粋がっている。どうやら、まだ何らかの攻撃手段が残っているらしい。今度は飛び遠具を使おうとしているようだ。ヤツの言葉受けて時空龍が大きく口を開く。きっと次の瞬間、あの口から時空弾とか言うのが放たれるのだろう。
一体それがどんな攻撃なのかと、この状況に俺が身構えていると、ソラが素早く両手を上空のキロンに向かって掲げると技の発動と共に大声で叫んだ。
「二重時空結界封印!」
「ふん、そんな技打ち破ってやるわ!いけええ!」
「ギョワアアア!」
強がるマーヴの命令を受けて時空龍が謎のエネルギー弾を吐き出した。その弾は非常に分かり辛い見た目で、中に時空の歪みが確認出来る。あんなものを体に浴びたら一体どうなるのか見当もつかない。
キロンの攻撃発動時、ソラは自分の技に絶対の自信があるのか、その場から全く動こうとしていなかった。俺はすぐに彼に避けるよう呼びかける。
「ソラ、避けろっ!」
「まぁ見てなって」
それがあんまり余裕過ぎる態度だっために、俺も避けるのを止めて上空に注目する。すると確かに時空龍の吐き出したその攻撃は俺達に届く気配がなかった。
この事に違和感を感じたのは向こうも同じだったようで、マーヴは思わずキロンに話しかける。
「うん、どうした?」
「どうした?時空弾ってのはハッタリか?」
さっき張った結界によって攻撃の無効化に成功したソラは、思いっきり胸をそらして演技がかった言葉で上空の敵を挑発する。
しかしマーヴの方はどうやらそれどころではないらしい。攻撃が結界に邪魔されたあたりから跨っている幻獣の様子がおかしくなり、その制御に苦心し始めていたのだ。
「おい!キロン!おい!しっかり……」
「キュオオオオオ!」
キロンは叫び声を出しながら暴れ始める。その様子から、もはやその制御をマーヴは出来なくなっている事が伺われた。次第にもがき苦しみ始めた時空龍の背の上でマーヴはもはや暴れ牛に跨るロデオ状態になっている。振り落とされまいと必死にしがみつきながら、この予想外の事態に大声を上げた。
「う、何だこれ?何だこれえええ!」
「自分の起こした時空の歪みに飲み込まれてしまえ」
ひとりだけこの状況を理解しているソラが冷静に反応している。同じ景色を見ている俺は理解が追いつかず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
この上空の混乱はとどまる事を知らず、更に激しさを増していく。
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