第97話 繰り返す一日 その5
「うーん、特に何もおかしなところはないなあ……」
天気のいい街並みは普通に見渡してもどこにも全く違和感はなく、自動操縦で市街を運転しても全く何の問題も見つからなかった。大きなトラブルが発生する事もなく、車は安全運転を維持したまま道なりに走り続けていく。
「考えたらこう言うパトロールって今までしてきた事がなかったな。今後はするべきなのかな?」
センサーは何の異常も感知しない。車は快適に道を走っていく。ふと横を見るとそこには太陽の光を反射した海があった。快適に絶好の天気の中を走り抜けるこのシチュエーションに、俺は一瞬今仕事中だと言う認識を忘れる。
「あー、それにしてもいいドライブ日和だ。仕事なんて忘れてこのままずっと走っていたいな」
「ちょっと?聞こえているんですけど?」
人が休日ドライブ気分に浸っているところで、そのゆるい気持ちに水を差すJKの冷たい言葉がスピーカーから漏れてくる。どうやら所長達基地組は俺達の様子をリアルタイムでチェックしているらしい。この予想だにしていなかった突然のツッコミに俺は焦った。
「うわっ?冗談だよ冗談!」
「ふふ、でも天気がいいと羽根を伸ばしたくなる気持ちは分かります」
少し機嫌の悪そうな所長の隣から温和な声が届く。このモモの優しいフォローに俺は幾分かテンションを取り戻した。
「だろ?本当に今日は……」
「おい!見つけたぞ!」
彼女と軽い世間話でもしようと喋り始めたところで、突然ランダムで走っていたソラ側からの緊急連絡が届く。俺はすぐに気持ちを仕事モードに戻し、車の運転モードを手動に切り替えた。
「何?待ってろ、すぐ向かう!」
「合流するのはいいけど、焦って動かないでね!」
「ああ、分かってる!」
所長からの再度の忠告を耳に入れながら、俺は彼から連絡があったその場所へと急いだ。
その頃、ソラが探知したその場所には、同じ時間軸上に時を操る幻獣にまたがったマーヴが上空から景色を見下ろしていた。
「ふふ、俺様の天下はもうすぐだぜ……」
ヤツはループする時間の中で異常を察知した人間を発見して、その様子を観察していたのだ。やはりこの作戦の目的は所長の想定した通りだった。
俺は車を走らせソラと合流する。いつ攻撃されてもいいように移動中に変身済みだ。現場に着くと同じく変身済みの彼がバイクから降りていて、そこで上空のある一点を見つめていた。
「どうなってる?」
「おっ、来たな」
俺が車から降りると、それに気付いたソラが軽い挨拶をする。それから俺にも上空を見上げるように空を指差すジェスチャーをした。
「見ての通りだよ」
「いやどこにも見たらないぞ、逃したのか?」
「センサーを働かせてみろよ」
俺はすぐに手首のスイッチを調整して、車に装着したセンサーの情報を受け取れるようにリンクを作動させる。するとメルメットのモニターに情報が表示された。それを見ると、確かにソラの指差す場所に時空の歪みが存在しているのが分かった。
「反応が?これは一体……?」
「敵は時間の外にいるから、こっち側からは見えないんだ」
「なるほど……」
センサーの情報は時空の歪みしか感知しない。この状態ではその歪みが敵のものなのか、それとも別の異常かまでは分からない。この情報が基地で処理されてもっと詳しい事が分かればいいんだけど。そもそも俺達をおびき寄せる罠の可能性だってあるし。
この時空の歪みは発見してから全く動く気配がない。そこから俺はある仮説を口にする。
「もしかして、敵はずっと動いていない?」
「みたいだな」
観察を始めて10分くらいして、待望の基地からの連絡が届く。どうやらデータを送った事で何かしらの進展があったらしい。
「2人共データを再更新して!詳しい情報を送ったわ。マスク越しに分かるようにしたから」
「んじゃ、そうしますか」
俺達はすぐにその指示通りにする。すると、ただの時空の歪みだったそれがもっと鮮明な形を取り始めた。その変化をソラが口走る。
「お、分かった。サーモグラフィーみたいに映るんだな」
どうやらあの時空の歪みの中心に敵の本体がいるらしい。情報処理されたその映像を見る限りでは、敵は何かの大きな動物に乗っているように見える。
そのシルエットから、俺はすぐに昔戦った幻獣使いの姿を思い浮かべた。もしかしたら、今回の攻撃を仕掛けてきたのはそいつかも知れない。
ただ、これで敵の正体がおぼろげに分かったと言うだけで、そこから先、俺達には何も為す術がない。ここで俺は思いついた疑問をつぶやく。
「でも攻撃が届くのか?敵は時間の外側にいるんだろ?」
「スーツに必要な情報を転送したよ。これで干渉出来るはず」
俺の疑問に所長からの返事が届く。相変わらず仕事が早い。その言葉の通りなら、俺達の攻撃があの時間軸の外側にいる敵に届くと言う事か。万能過ぎるだろ、このスーツ。何でもありかよ。
でも敵は空の上に浮遊しているんだよなあ。上空20mの目標に攻撃かぁ。
「とは言っても俺、遠隔攻撃の技とかないし。なんちゃって風刃でも届くかどうか……」
「まぁ、見てな」
俺が唯一身につけている技の構えを取り始めたところで、自信満々のソラがその動きを右手を出して止める。その言動を目にした俺は彼に任せる事にした。
ソラはすぐに右手に力を乗せると、センサーの示す上空の一点に向けて力を放った。
「波動カッター!」
彼の腕から放たれた見えない波動の攻撃は、見事に時間軸を飛び越え隠れてこの状況を観察していた敵にヒットする。
「うわあああああ!」
攻撃が当たった瞬間、マーヴは叫び声を上げながらこちらの時間軸上に姿を表し、そのまま
「おお、落ちた」
俺はその様子を、まるでテーマパークのイベントを見るような気持ちで傍観していた。落下した敵はそのまま真下の廃屋の屋根を突き崩す。
俺達はすぐにその落下地点へと向かった。これで仕留められていたら楽なんだけど、多分そんな簡単な話じゃないだろうなと思いながら。
現場に着いてぐちゃぐちゃになった瓦礫の下を確認すると、そこに埋まっていたのはさっき想像していた通りの見覚えのある敵と見慣れない幻獣だった。
俺は呆れながらそいつの名前を呼ぶ。
「何だ、マーヴじゃないか。お前がやってたのか」
「やはり貴様らが出てきたか!だが何故だ!何故この俺様に攻撃が届いた!」
マーヴはよほど自分の計画に自信を持っていたらしい。ソラから攻撃を受けた事に心底驚いている。この激高に攻撃をかました本人は呆れながら返事を返した。
「そのくらい、俺達の科学力があれば簡単だっつーの」
「ふん、この時空龍キロンの時空操作がただそれだけだと思うなよ!これからが本番だ!」
どうやらさっきの波動カッターのダメージは、そこまで致命傷と言う訳でもなかったらしい。奴はすぐに体勢を取り戻すと、跨っていた幻獣、時空龍キロンとやらに指示をしてまた空高く舞い上がった。俺達はすぐにそれぞれの遠隔攻撃を繰り出すものの、キロンの周辺に近付いたところでそのスピードはピタッと停止して余裕で避けられる。
反撃とばかりにキロンが吐き出したエネルギー弾は一瞬で俺達の目の前に出現し、避ける間もなくその攻撃が直撃する。
「うああああっ!」
「おぶっ!」
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