第99話 繰り返す1日 その7
自分の目論見が失敗に終わったにも関わらず、それでもまだマーヴは自分の失態を認められず、大声で叫んだ。
「そ、そんなバカなああ!俺様こそ、俺様こそが最強なんだあああ!」
その言葉を最後に、時空龍ごとヤツは水が排水口に流れるように何処か別の次元に吸い込まれていった。俺はその異様な光景を見ながら、思わずお約束のセリフを口走る。
「嘘……だろ?」
「ま、正体が分かってしまえばあんなもんだ」
「結局どうなったんだ?」
一部始終を目にしていても一体何が起こったのかさっぱり理解出来なかった俺は、隣のドヤ顔に説明を求めた。するとソラは調子良くスラスラと、頭がスポンジ状態の俺に向かって話し始める。
「ヤツらはあのまま時空の歪みに自ら落ちていったんだよ。運が良けりゃどっかの並行異世界にでも転移するんじゃないの?」
つまり、時空結界を張った事で時空弾はその結界内を跳弾し、そのままキロンに直撃。自爆した結果ああなったと、そう言う事らしい。この説明を聞いた俺は、ある可能性について言及する。
「て、事はヤツらがまた戻ってくる可能性も?」
「さあな。ま、次また現れたとしてもその時も俺が倒してやるから安心しろよ、先輩」
ソラはまたいつもの調子で自分の有能さをアピールする。その言葉に俺は気を悪くした。
「な、その時は俺だって……」
「はいはい、分かったから。じゃ、帰るわ」
ソラは敵を撃退した事で自分の役目は済んだと、すぐにバイクに
「ったく、その口の悪さは変わらないな」
両手を腰に当てて走り去っていくバイクを見送っていると、所長からのメッセージがヘルメット越しに届いた。
「お疲れ様、今回は被害そのものはないからあなたもすぐに戻っていいわ」
「ああ、そうさせて貰うよ」
こうして俺も車に乗り込み、運転を自動操縦に戻すとそのまま基地に戻る。事件も解決したと言う事で、これで時間も元通りに進むはずだ。時間を止めながらの戦闘も終わり、時計の針も正常な時間を刻み始める。
まぶしい太陽に照らされた快晴の空を眺めながら、俺は基地に辿り着くまでの時間をのんびりと景色を眺めながら過ごすのだった。
「くそっ、ここはどこだ?キロン、戻るぞ」
その頃、自爆で違う時空間に放出されたマーヴとキロンは何とか元の世界に戻ろうと悪戦苦闘していた。幻獣使いはその技で時空龍を奮い立たせ、その能力を使わせようとする。
しかし、その必死の声をキロンが聞く事はもうなかった。
「キロン?キロン!まさかお前……」
自分の放った時空弾をその身に受けた時空龍は、その身に宿る時を操る能力の制御が出来なくなっていた。
しかし、この幻獣の異常を跨っているマーヴはまだ実感出来ていない。ただただ負けた屈辱に心を燃やし復讐を誓うばかりで、大事なパートナーの事に意識があまり向いていなかったのだ。
「俺様はどこでだって生き延びてやる……こんなところで……」
マーヴが粋がっている間にキロンの体の中で時空エネルギーが逆流し始め、やがて臨界点を迎える。その瞬間、時空龍の体はその形を保てなくなり、背中に跨っている幻獣使いもろとも超時空変換の高エネルギーに巻き込んでいく。
「な、何だ?うわあああああ!」
やがて2つの命だったものは空間自体に取り込まれ完全に消滅してしまった。これが時間を操る事のリスクだ。うまく調整出来なかった場合、存在そのものがそのまま空間の1要素に変換されてしまう。そうしてその個体の記憶も関係者の記憶から消えてしまうのだ。そう、初めからいなかった事になる。
マーヴの存在はヒーロー側だけでなく、所属していたMGS側のデータベースや関わっていた個人の記憶からもすっぱりと消え去ってしまった。
こうして幻獣使いの最期はあまりにも淋しいものとなってしまったのだった。
基地に戻った俺は仕事を終えた達成感で気持ち良く背伸びをしていた。とは言え、今回もお手柄はソラひとりが成したものだけど。不思議なのは基地に戻った瞬間にさっきまで対戦していた敵の事を何故かすっかり忘れてしまっていた事だった。
所長に聞いたところ、それは時間を操る戦いで起きたパラドックスのせいだと説明していた。難しい話はよく分からないや。要するにあの戦いはすごくリスクの高いものだったと言う事なんだろうな、うん。
俺達側が消えるような事にならなくて良かった、本当に。
「やっぱ平和に過ぎる一日はいいねえ」
「今回は色んな貴重なデータが取れて良かったです」
基地の外で背伸びをしていると、偶然通りがかったモモが今回の戦いについての感想を漏らす。彼女は今回戦いに参加せずに所長のサポートだった訳だけれど、結果的にそれで大いに助かった気がする。
良いデータが取れたと言う彼女の言葉に気を良くした俺は、少しカマをかけてみた。
「お?じゃあ、時空をいじる武器みたいなのも出来たとか?」
「いえ、それは負担が大き過ぎるので作りません。ただ、また次に同じ攻撃が来た時はもっと普通に動けるように研究を進めています」
予想通りの返事が返ってきたとは言え、献身的に自分達のサポートを考えてくれているモモの姿勢に俺は感動して感謝の言葉を伝える。
「そっか、有難う」
「け、研究員として当然の仕事をするだけの話ですよっ!」
彼女は顔を真っ赤にしながらまるでツンデレみたいな反応をする。この予想外の言葉に俺は困惑した。えぇと、言葉のチョイス、間違ったかな……?
「あ、ああ、うん、そうだね」
「じゃ、じゃあ、失礼しますっ」
動揺する俺を置き去りにしてモモはまた研究に戻っていった。ひとり取り残された俺もまた訓練室に向かい、自分の技の研鑽に励む。今後はもう時間がループする事もなく、一日が過ぎれば次の日が普通に訪れる事だろう。当たり前の事が当たり前にやってくる、ただそれだけの事なのに何だかすごく安心する。
この感覚もやがて忘れてしまうのだろうけれど、今はこのささやかな喜びを噛み締めていたいと、そう素直に俺は思うのだった。
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