第87話 宇宙からの訪問者 その6
「地味にキツかった……」
そうして俺もまた変に疲れてしまい、かがみ込みながら膝に手を置いて息を整える。その時、呆然としながら空を見上げていた彼女がこの戦いでの一番の功労者達を指差した。
「見て、光が消えていく……」
モモの言葉に顔を上げると、確かにその言葉通り上空にあった光は音もなく消えていく。俺はその神秘的な光景に言葉を漏らした。
「俺、UFOを生で見たの初めてだよ」
「本物かどうか分かんねーけどな」
感動している俺に対して、ソラが雰囲気をぶち壊すような無粋なツッコミを入れる。そのツッコミに呆れて俺が返す言葉を失っていると、モモが吹っ切れた笑顔でこの件について自分の推測を口にする。
「きっと本物ですよ。博士がよこしてくれたんだと思います」
「ハハ……まさか」
さすがの俺もこの説にはついていけず、思わず苦笑いを浮かべる。ただ、あのミラクルを起こす所長の事、もしかしたら本当にそうしてくれたのかも知れない。
光はやがて全て消えてしまい、後には何の変哲もない見慣れた青空だけが残っている。この光景を見た俺は思わずあのUFOについての感想をこぼした。
「UFO、母星に帰っていったのかなぁ?」
「多分そうなんでしょうね」
俺の感想にモモが返事を返す。流石所長信者だけあって彼女は所長が関わる事全てを全面的に信頼しているようだった。こうして何もかもが終わったところで、うーんと手を伸ばして背伸びをしたソラがいつものようにひとり先走る。
「じゃ、終わったし、帰るか」
その言葉を聞いたモモはすぐに彼を止めようと手を伸ばす。
「ちょ、遺跡のこれ、何とか直さないと!」
「うわぁ~、これ直るかなぁ?」
モモの言葉を聞いて我に返った俺があたりをキョロキョロと見渡すと、テンの無差別レーザーによって破壊しつくされたような遺跡の姿がそこにあった。
被害が大き過ぎて何から手を付けたらいいのか分からない、むしろこの場合は何もしない方がいいんじゃないかとすら思えるくらいだ。
「じゃ、後よろしくー」
「あ、こら、ソラ!」
結局ソラは困り果てる俺達をしり目に勝手に先に帰ってしまう。
でも今回の戦いもほぼソラの力に頼りっぱなしだったからあまり強くは言えない。やれやれと俺が呆れていると、同じく呆れていたモモが声をかけてきた。
「私達だけでも、出来る事をしましょう、ね」
「仕方ないな、手伝うよ……」
俺達は手分けをして、何とか痕跡を直せそうなところだけでもと後始末を開始する。幸い、遺跡の重要そうな部分はソラのフィールドに守られていた為に事なきを得ていた。テンのレーザーの精度も高く、掃除をしてみると周囲を焦がしていたのはほんの少しだけで、修復作業は思いの外小規模で済んでいた。
後始末を終えた俺達は車に乗って基地に戻る。それから所長に戦闘時にあった事を全て口頭で報告した。それが全部終わった後、最後に個人的な質問をする。
「どうやってUFOと意思疎通出来たんですか」
「すごいでしょ!彼らとはもうマブダチなんだ!」
彼女はドヤ顔で自分の成果を強調する。本当に意思疎通出来ていたのならと、俺は所長にあのUFOについての質問をしてみた。
「ちなみににあの宇宙船に乗っていたのは何て言う星の人なんですか?」
「確か、ケセラ星人だったかな?」
「何だそれ、胡散臭ぇ……」
彼女からUFOに乗っていた宇宙人についての情報を聞いた俺は素直な感想を口にする。ケセラ星人て……。ケセランパサランか何かかな?
何にせよ、初めて聞いたその名前に俺は胡散臭さしか感じなかった。この反応に対し、当然のように所長は気を悪くする。
「うっさいうっさい!みんな助かったのが証拠だよっ!」
「確かに一応は助かったけどさ……やっぱり色々と騙されていそう……」
宇宙人と言う言葉を胡散臭さでしか感じ取れない俺は、あんなに助けてもらったのに関わらず、まだ半信半疑なところがあった。きっとこれからもっともっと交流を深めて、やっとそれを現実として受け入れられるようになるのだろう。まだ見たのは光の点だけだし。いつか宇宙人の姿を実際に目にしたなら認識も全く変わる気がする。
どうしてもしっかり信じてくれない俺に対して、所長はちゃんと信じてもらおうとUFOが呼びかけに応えてくれる人の条件を口にする。
「UFOは素直な人しか呼びかけに応じないんだよっ!」
「素直……素直ねぇ……」
俺はその言葉にまず首を傾げる。その態度が悪かったのか、彼女は更に怒りゲージを溜めてしまった。
「私は素直だよ!文句ある?」
「い、いえ、ありません……」
「そ?なら良し……」
何とか所長の機嫌をなだめると、報告も終わったと言う事で俺は司令室を後にする。今日は疲れた、本当に疲れたよ。
それにしてもあの宇宙船、すごかったな。セルレイスの精鋭が手も足も出なかった。やっぱりよっぽど科学が進んでいるんだろう。彼らを敵に回さないようにしなくちゃな。
俺は基地の窓から上空を見上げながら、まだ見ぬ宇宙の同胞への思いを強くしたのだった。
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