第86話 宇宙からの訪問者 その5
次は俺の番だ。今までのソラの戦闘を見てきて、何かこの状況を打破する技がないか考えてみた。そこで思い浮かんだのは幻獣を倒した時に使っていた方法だった。あの技がこの戦いでも使えたら勝てると踏んだんだけど、彼からの返事は芳しくないものだった。
「それは……やっぱり無理だ」
「どうして?前に幻獣相手にそんな技を使ってたじゃないか」
「ネックはスピードだ。フィールドの位置固定をする前に逃げられる」
どうやら敵そのものにフィールドを展開するためにはしっかり位置を把握しないといけないらしい。現時点ですらフィールドの外のテンは高速移動を続けていて、肉眼でも捉えられない。ハッキリと視認出来ない相手にこの方法は使えない。と言う訳で、この作戦もあっけなく却下となった。打つ手は何もないのか、ひとつも有効な手を思いつけないまま時間だけが無情に過ぎていく。
八方塞がりになって自分達だけではどうにも出来ないと感じた俺は、この戦況をモニターしているであろう知恵者に助けを求めた。
「所長、聞こえてるか!何とかならないか?」
「ごめん今ちょっと手が離せない」
藁をも掴む思いで縋った彼女からの返事が自分達を見ていないと感じた俺は、一気に戦意喪失する。こんな時に所長は一体何をしているんだ。この返事は他の2人にも聞こえていたようで、まずはソラが不満をぶちまける。
「全く、宇宙人だか宇宙存在だか分からないけど、優先順位を間違えてるって」
「す、すみません」
所長の対応の不味さを訴える彼にモモが謝罪すると言う流れだけど、彼女は所長に憧れているからつい代わりに受け取っちゃうんだろうな。
けれど調子に乗ったソラはそんな彼女の思いとは裏腹に、更に所長へのヘイトを続ける。
「モモが謝る必要なんてないよ、アリカがおかしいだけだ」
「博士を悪く言わないでください!」
「お、おう……」
言い過ぎた彼は逆にモモに怒られていた。全く、ちゃんと空気を読まないからだよ。それにしてもこの状況で所長が俺達をまるっと無視しているとはやっぱり思いたくない。きっと何か事情があってそっちを最優先しているんだ。少なくとも今はそう信じていよう。
俺達がずっと動きを見せない事もあって、外で攻撃を続けているテンはいやらしくニヤリと笑うと余裕たっぷりに言葉をかける。
「さあさあ、もう人生最後の言葉は言い尽くしたかなぁ?今の内に全部吐き出しておかないと後悔しますよぉ……」
その挑発を聞いた俺とソラは2人揃って言葉を返す。
「誰が後悔するか!」
「今はお前を倒す事だけで頭がいっぱいなんだよ!」
しかしこの精一杯の強がりも勝利を確信しているヤツには馬の耳に念仏だった。
「くくく、精一杯悩みなさい。そしてそれは出口のない迷路だ!」
「くっ!」
「こんな単純な攻撃で俺達が籠城するしか出来ないなんて……」
こうしている間にもソラの残り時間が減り続けていく。2人から具体的なタイムリミットは聞いていないけれど、あんまり余裕はないのだろう。早く、早く何か対抗策を考えないと……このままじゃ……。何もいい案を思いつけない俺はただ焦るばかりだった。
その頃、基地では所長が宇宙存在との交信を続けていた。色んな情報を交換して、最後に現在の状況を話したところで彼らからの返事が届く。
「力を貸してくれるの?」
宇宙存在との交信方法は特殊なエネルギー波によるもので、そこから独自の言語に変換する。更にその言語を日本語に翻訳するため、ストレートに意思疎通が出来ているかどうかは怪しい部分もあったものの、それでも何とか会話は成立しているようだった。
俺達の苦戦の状況を所長から聞かされた彼らは親切心で動いてくれるらしい。この申し出を彼女は快く快諾する。
「分かった、お願い!」
所長が宇宙存在に事態の解決を願った数秒後、俺達が戦っている遺跡の頭上にあの光体が音もなく現れる。勿論この時前しか見ていなかった俺達はこの事に全く気付いていなかった訳だけど。そうして光体の現れた影響はすぐに訪れる事になった。
「ん?」
「攻撃が……止んだ?」
そう、さっきまで絶え間なく続いていたレーザー攻撃が突然止まったのだ。これは千載一遇のチャンスだとソラがフィールドを解いて、すぐの俺の肩に手を置いた。
「今だ!いくぞ!フルバー……」
この突然の彼の行動に俺は一瞬対応が遅れてしまい、焦りながらテンの姿を探す。しっかり相手を見定めなければフルバーストも空振りに終わってしまうからだ。
けれど流石にスピードに自信のあるテンは逆にその超スピードを活かして攻撃前に仕留めようと俺達の前に急速接近していた。
「馬鹿めぇ!今の私の速さを舐めないで頂こう!」
ドアップで迫ってきたヤツに不意を突かれた俺は一瞬動きが止まる。この様子を間近で見ていたモモは小さく悲鳴を上げた。
「ひぃ!」
一瞬で距離を縮めたテンはすぐに攻撃に移るかと思ったら、何故だかその動きは見られない。そこでこれがチャンスだと感じた俺は、すかさずヤツに向かって渾身の一撃を打ち込んだ。
「マックスパンチ!」
「うごほッ!」
この一撃が効いたのか、テンは打撃を打ち込まれた腹を抱えてうずくまる。ソラはそんなダメージを受けたヤツを見てにやりと笑みを浮かべると、さっきまでのお返しとばかりに上から目線で一言言い放つ。
「油断したな馬鹿め!」
「くっ、ブルーレーザ……」
散々な言われように、テンはよろよろと起き上がると自慢のレーザーを至近距離で放とうとする。
しかしそれこそがソラが一番望んでいた行動だった。彼はすぐにヤツの両手をがっしりと握りしめ、速攻で前回同様の攻撃を開始する。
「裏モード!反射挙!」
「うぐぐ……!私に同じ技など……」
ソラの技で自慢のレーザーを封じられ、自身の体に逆流したエネルギーを受けてテンは自爆してふっとんだ。これで終わりかと思ったらそこは流石セルレイスの精鋭。どうやら致命傷だけは避けたみたいで、ボロボロになりながらも気合で立ち上がる。
それでもかなりのダメージを受けた事は確かなようで、その様子を目にしたソラはまた挑発を繰り返した。
「はいはい、どうしたどうした」
「何故だ……また身体が動かな……むう!上空か!」
自分の身に起こった異常の原因を探り当てたテンは確信を持って上空を見上げる。その言葉を聞いた俺達もつられて空を仰いだ。
「上空?」
「あっ!」
「UFO?!」
そう、そこには基地で目にしていたあの謎の光体が複数浮かんでいたのだ。謎のUFO群は上空からヤツに向かって何らかの攻撃をしていたらしく、俺達が見ている前で突然苦しみ始めた。
「くそおダメだ!暴走が止まら……」
UFOからの謎の攻撃で身体の自由を失ったテンは身体に埋め込まれた生体レーザー発生装置の暴走で派手な爆発を起こして自滅する。こうして俺達は宇宙存在との共闘と言う世にも珍しい体験によってこのピンチを脱する事に成功した。何これ奇跡?
全てが終わって緊張感が解けたモモは、力が抜けたのかその場にぺたりとへたり込んだ。
「や、やったね」
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