第71話 ソラの謎 その6

 俺の腕から発動した超強力なエネルギーは超高速で動くテンを確実に捉え、あまりに呆気なく奴を吹き飛ばした。


「そ、そんな馬鹿なァァァッ!」


 空の彼方に吹き飛んでいくテンはあっと言う間に見えなくなった。奴がキウより弱いと言うのはこれでハッキリする。ただ、吹き飛ばしてしまったせいで取り押さえる事が出来なかったのは残念だったけど。もっと上手く技を撃てていたら結果も違ったのかな……。今後の課題にしよう、うん。


「やったじゃん先輩!」


 全てが終わった後、珍しくソラが俺の事を褒めてくれた。あんまり褒め慣れていないから何だか少しこそばゆいな。


「あ、ああ……ソラのおかげだ。有難う」


「あれ?先輩、ルードラのヤツがいない……」


「なっ……!」


 そう、今回は色々あったから倒れたルードラは放置したままだった。逆にそれが仇となってしまったようだ。奴はさっきの戦闘の間にちゃっかり復活して、それで隙を見て一目散に逃げ出してしまったらしい。全く、前回もそうだったけど、本当に逃げ足だけは早い男だ。


「あのどさくさに紛れて逃げやがったか……」


「意外と賢いヤツでしたね!じゃ、俺も帰ります!」


 事件もこれで解決したと言う事で、いつもの調子でソラは先に帰ろうとする。普段ならそのまま行かせるんだけど、今回は色々気になる点もあって俺は彼を呼び止めた。


「あ、ソラ、テンを怯ませたあの攻撃は……」


「ああ、反転?あれは裏コードだよ」


「反転?裏コード?」


「スーツを極めたら使える裏技みたいなもの。先輩にはまだ早いけどね」


 ソラは俺の質問にさらっと機密事項っぽい言葉を口走った。裏コードも反転も初めて聞く言葉だ。このスーツにそんな機能があるだなんて聞いた事がない。しかもスーツを極めたら使えるだって?

 俺はまだこのスーツを使いこなせていないとでも言うのか……。


「何でそんな事知ってんだよ……」


「それは……秘密」


 結局大事な事は何ひとつ教えてくれないまま、ソラはバイクにまたがって帰っていく。取り残された俺はしばらく頭の中を整理出来ずに呆然としていた。


 今回は警察依頼で来た訳ではなかったので、俺も関係者に挨拶せずに基地に戻った。騒ぎを聞きつけた警部も現場に到着して戦闘の様子を見ていたけれど、今の俺はそんな周りの様子を気にかける心の余裕すらなくなっていたんだ。


 基地に戻ると、俺の前に所長がやって来て今回の労をねぎらってくれた。


「結局今回は成果ゼロだったわね。ま、正式な依頼じゃないし仕方ないか。次からはやっぱ依頼があってから動くべきかしら?」


 そんな言葉よりもっと別の事が知りたかった俺は所長に詰め寄る。


「それより、どうしてスーツ経験の短いソラが俺よりスーツの事知ってるんですか!」


「そりゃ当然でしょ。セルレイスにいた頃、彼もスーツの装着実験に関わっていたんだから」


 彼女の口からソラの経歴がサラッと語られる。今朝彼の資料を読んでいたにも関わらず、それらの事は一切記載されてはいなかった。


「そんな事、あの資料には……まさか、非公開の?」


「そゆ事。いずれは話すつもりだったけどね」


 所長はため息混じりに真相を口にする。ソラに関してはやはりまだまだ知らされていない事が多いようだ。ならばと俺は質問の矛先を変える。


「……スーツの裏コードって何ですか。俺にも使え……」


「使えない。今の貴方にはね」


 この質問に彼女は食い気味に返事を返す。その有無を言わせない強い口調に俺は意表を突かれた。


「それってどう言う……」


「言葉通りの意味よ。貴方にはもっとスーツを使いこなして欲しいの。応用は基礎が出来てから、これって常識でしょ」


「俺はまだ使いこなせていないと?」


 ソラにも似たような事を言われたなと思いつつ、俺は言葉を返した。少しは否定してくれるかなという淡い期待も残して。

 けれど科学者って言うのは、基本真実しか言わない人種なんだよね。


「うん。まだまだだね」


「とほほ……マジか……」


 こう何度もお前は未熟だと言われると流石に凹む。スーツの適性を認められてこの仕事を始めたって言うのに、俺ってまだまだダメダメなのかぁ……。


「大丈夫!ちゃんと少しずつ成長してるから!小さな事からコツコツとだよ!」


 肩を落とした俺を見た所長は、慌てて励ましの言葉をかけて来た。その気遣いに愛想笑いを返しつつ、俺はトボトボと施設内の酒場へと足を進める。こんな時、一番の慰めはお酒だと古今東西相場は決まっていた。


 その後、どうやって戻ったかさっぱり記憶に残っていない。気がつくと俺は今朝目覚めた宿泊施設の部屋にいた。二日酔いだろうか、とても頭が痛い。こんな日に急な仕事が入らない事を祈りつつ、俺は洗面所に駆け込んだのだった。

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