第42話 新しい協力者 その5

「仲間が登場とか、聞いてないぞ!」


「……」


 この展開は流石のゾーイも想定に入っていなかったのだろう。ケインの言葉に何ひとつ反応出来ないでいた。元から慎重派のゾーイはこの新たな状況にまずは情報収集だとばかりに目の前のソラをじっくりと観察し始める。逆にケインは早速ソラに対して毒攻撃を仕掛けようとしていた。


「誰が現れようとこの俺の力で……」


「お前が一番厄介だから最初に倒す」


 ソラは一言そう言うと静かにケインの方向に手を上げて手のひらを向ける。次の瞬間、目に見えない攻撃がケインを襲った。


「ぐはあ!」


 ケインはそう呻き声を上げて吹っ飛んでいく。ソラはいつの間にか自分の能力を完全に制御する事に成功していたのだ。彼の攻撃を目の当たりにしたゾーイはこの想定外の状況に言葉を失なった。


「え、遠距離攻撃……だと?何だ、その力は?」


「別に殺すつもりはないから。ちょっとの間寝ていてよ」


 自分がふっ飛ばしたケインに向けてソラはそうつぶやく。その言葉が気に障ったのかケインは無理矢理に体を起こして鬼気迫る形相で彼を睨む。


「ざっ……けんな……。こうなったら最後の手だ!」


 ケインはそういったかと思うと身につけていた服のポケットから大きな赤いスイッチを取り出した。そのスイッチを目にしたゾーイは叫ぶ。


「ちょ、待て、早まるな!」


「お前らみんな道連れだ!喰らえ、毒爆発!」


 ケインはゾーイの言葉に耳を貸さず、いきなりそのスイッチを押す。次の瞬間、超高濃度に圧縮された毒が爆発と共に周りに拡散されていく。

 そう、これはケインの命を賭けた自爆技だった。爆発によって発生した強烈な爆風に流石の敵2人も耐えきれずに吹き飛ばされていく。


「ウガアアア!」


「くううっ!」


 人気のないショッピングモールはケインの自爆により半壊する。その威力にかなりのダメージを負いながら敵2人は何とか健在だった。そうして爆風の砂埃が消え去った後、超能力の防御結界で爆破攻撃を防いでいたソラが吹っ飛ばされた敵2人に対して冷たい視線を浴びせながら口を開く。


「ねぇ、気が済んだ?」


「馬鹿な……。無傷……だと?」


「俺、あの手の攻撃、効かないんだよね」


 ソラがあの攻撃に対してノーダメージだった事にゾーイは困惑する。自分達ですら耐えきれなかった攻撃ですら傷ひとつ付けられないこの相手に対して、何ひとつ有効な攻撃手段を思いつけなかったゾーイはここで戦略的撤退を宣言した。


「仕方ない、仕切り直しだ、ずらかるぞ!」


「お~っと、逃さないよ?」


 自分達が不利になったと思いきやすぐに手のひらを返す、この知将の前に俺は立ちはだかった。倒したはずの俺が突然目の前に現れた事にゾーイは驚愕の声を上げる。


「な、馬鹿な!お前はさっき確実に……」


「それが確実じゃなかったんだなぁ……。ツメが甘かったね」


 そう、俺はソラが時間を稼いでいる間に完全復活していた。あの後すぐに所長から解毒データがスーツに送られて一瞬で解毒完了。肉体的なダメージもスーツの回復機能を最大出力に上げて見る見る内に体調を回復させたのだ。従ってもう俺にダメージは残っていない。万全の体制で俺は残りの敵の対処に向かったと言う訳だ。

 そんな訳で俺がゾーイに殴りかかろうとした次の瞬間、素早く別の影が現れ、目の前に立ちはだかる。


「お前だけでも逃げろ!」


「メメラ!」


 そう、その影はもうひとりの悪党、メメラだった。突然現れたメメラにゾーイが叫ぶ。奴は急に俺の前に姿を現したかと思うと黙って殴られ、そのまま俺をその強烈な力で抱きしめた。きっとこのままその力で絞め殺すつもりなのだろう。俺は奴の魂胆が分かった上で軽口を口にした。


「何これ?敬愛の表現?」


「メメラすまん!」


 ゾーイはメメラに俺の相手をさせたその隙に勢い良く逃げ出した。ここまで来て敵を逃がす訳にはいかないと俺はメメラを振りほどこうとするものの、その強烈なパワーによって何ひとつ身動きが取れなかった。


「ちょ、離せ!」


「離す訳が……ないだろうがっ!」


 メメラはそう言って俺を強く抱きしめたまま――自爆する。まさかこいつにも自爆機能があったなんて……。ただ、獣人の自爆の威力はさっきのケインの自爆の足元にも及ばず、俺のスーツに傷ひとつつける事すら出来なかった。


 黒焦げになったメメラの残骸を振りほどいた俺はすぐにゾーイを探すものの、奴の姿はもうどこにも見当たらなかった。そこに後手に組んだソラが飄々とした態度で近付いて来る。


「あ~あ、逃がしちゃった」


「あれは仕方がない……向こうも必死だった。初めてだ、こう言うの……」


 結果として敵2体の自爆にショッピングモールの半壊と言う結果をを招いた事に対して、俺はすぐに気持ちを整理出来ないでいた。敵の共闘、今後もっと本格的に計算されて行われれば更に厄介な事になる。今回はソラが助けに現れたから何とかなったけど、毎回そううまく行くとは限らない。

 当のソラは俺の仕事にはさほど興味もないらしく、どこか他人事のような感じで俺に声をかけて来た。


「じゃ、俺帰るから」


「ソラ」


「ん?」


 事件が終わった事ですぐに帰ろうとするソラを俺は呼び止めた。このまま何も言わずに彼を帰すなんて出来ない。


「さっきは助かった、有難う」


「いや、アリカに言われたからだし。……もういいか?」


「あ、ああ……」


 ソラは普通に所長を呼び捨てにしていた。俺だって彼女をそんな風に呼んだ事はないって言うのに。ああ、それが若さって言うものなのかも知れない。

 そんな彼は我関せずと言った風情で呆気に取られた俺を置いてスタスタと帰っていく。うーん、大物だな、ありゃ。


「彼をパートナーにしたのか?」


「いや、どうやら所長が寄越したらしい」


 散々な結果になったとは言え、一応は事件が解決したと言う事で警部に挨拶に行くと、早速今回助っ人に現れたソラについて話をされてしまう。気の早い警部に対して、今回が特別だと言う事を強調したかった俺はこうなった理由を包み隠さず素直に白状した。


「ふうん、アイツ、うまく連携が取れればいい相棒になるかもな」


「向こうがその気になったら、ですけどね」


 俺の弁明を聞いた上で、警部は改めて俺とソラは組むべきだと主張する。俺はその考えに賛成でも反対でもなく、どっちかと言えば賛成に近い立場として、決めるのはソラ自身だと言う事を印象付けるように言葉を返すのだった。


 彼が組むと言ってくれるなら俺は喜んでその申し出を受けるだろう。年齢差はあるけれど、ソラはそれを気にしない性格だから意外とうまく行くかも知れない。

 問題は彼がそう言い出すかどうかって話だけど――。


 場所は変わって探偵事務所内、一部始終をモニターしていた所長は事件が無事収束した事にほっと胸を撫で下ろしていた。


「はぁ、良かった、間に合って」


「で、どうするの?計画に変更は?」


 この時、彼女は誰かと電話で話している最中だった。何やら今後の事について詳細を詰めているようだ。


「いや、このままやってみるよ。何だか上手く行きそうな気がする」


「分かった。じゃあ私もあんたの賭けに乗るわ」


 彼女の立てた謎の計画はこうして秘密裏に進んでいく。いつかその計画が表に現れる事になるのか、それとも最後まで俺に秘密のまま進ませて行くつもりなのか、現時点では全く分からないのだった。

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