第41話 新しい協力者 その4

「ふん、あいつを倒したらこんな同盟は解消だ。誰が好き好んでこんな卑怯なヤツと……」


「ちょっとお、それは聞き捨てなりませんよ?一体誰があいつの意識を飛ばしたと思ってるんです?」


 メメラはつい興奮してケインの悪口を言う。彼にとって直接的な力を持たない彼は軽蔑の対象でもあったらしい。その挑発に乗ったケインは自分の成果をこれ見よがしに口にする。ケインの毒がなければメメラの攻撃も空振りに終わっていたはずだと。

 当然のようにこの言葉にメメラは気を悪くする。すぐに声を荒げてケインに反論した。


「だが、致命傷を与えたのは俺だ!」


「まぁまぁ、喧嘩はあいつを確実に仕留めてからでいいだろ。これだから……」


 メメラの怒号に仲間割れの先触れを感じたゾーイをそれを止める為に険悪な2人の間に割って入る。

 しかし止める為に言った言葉が更にメメラの機嫌を損ねていた。


「これだから、何だ?喧嘩を売るなら買ってやるぞ!」


 悪党3人組が揉めてくれたお陰で時間が稼げた俺はスーツの回復機能のお陰で何とか立ち上がれる程度には機能を回復させる事に成功する。


「うう……」


 俺が頭を押さえながら立ち上がるとその姿を見たメメラが驚きの声を上げる。


「何……だと?」


「やっぱお前ら仲悪いな。おかげで助かったよ」


 俺は揉めている悪党3人組を前に軽口を言った。この言葉にメメラは悔しそうな顔をする。


「くうう……」


 この状況にケインはメメラに向かってぶっきらぼうに言葉を投げかけた。


「だから言ったんですよ、あいつは一筋縄じゃないかないって」


「分かった、俺、もう慢心しない」


 メメラはそう言うと俺に向かって超高速で向かってくる。その豪腕で殴り掛かかって来たのをギリギリで交わしながら俺はまた軽口を言う。


「あらら、更に手強くなっちゃった?」


 今のところ、この状況で本気で攻撃してくるのはメメラひとりだけだ。残りの2人はまた俺の死角に入って隙を見せた時に攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。獣人の超人的なパワー攻撃を避けながら俺は常に別方向からの攻撃に備えていた。


 この戦いをモニターしていた所長は俺が無事なのを確認してひとまず胸を撫で下ろす。そしてこの状況を打破する方法の模索を続けていた。


「何か手は……彼の助けになる……そうだ!」


 ずっと考えていた彼女はこの時、ついに何かアイディアを閃いたらしい。善は急げとすぐに所長は行動を開始する。


 その頃、悪党3人組と対峙していた俺は当然のように苦戦を強いられていた。やはり数が多いとそれだけで対処が難しくなる。

 追撃を気にしながらメメラの猛攻を避けていたその時、ケインがまた高濃度の毒を俺に向かて噴射する。


「最高出力だぜ!くらえっ!」


「くううっ!」


 流石にこれはキツい……けれど、ここで露骨にそれを見せちゃ駄目だ。それだけで一気に形成は逆転してしまうだろう。だから何とか耐えねば――。

 俺はケインの攻撃を何でもない風に装った。こう見えて強がりは結構得意な方なんだ。さて、上手く騙せるか……?

 俺の動きが全く変わらない様子を見たケインはそれが信じられない風な顔をしている。


「た、耐える……のか?」


「へ、へへ……耐えきって……やる……ぜ?」


 どうやら俺の強がりはちゃんと通用しているようだ。よし、このままこの状態を維持して時間を稼ぐぞ。時間さえあればスーツの解毒能力で必ずこの毒もしっかり中和してくれるはずだ。

 体調が戻った時こそが反撃のチャンス。どうかこのままみんな騙されていてくれ……っ!


「いや、こいつ、間違いなくダメージは受けてるぞ!みんな、とどめの攻撃の準備を」


 この状況を誰よりも冷静に見ていたゾーイが俺の作戦を簡単に見破った。こいつ――厄介だぞ。

 作戦が見抜かれたら見抜かれたで仕方ない。ならば別の方法で行くだけだ。そもそも本来組まない同士の同盟の結束なんてちょっとつついてやればすぐに崩壊するはず……。そう考えた俺は奴らを挑発する。


「うはっ、みんな馬鹿真面目に指示を守っちゃって。本当に従順なんだな」


「お前の言葉など誰が聞くか!確実にお前を倒せるなら誰の言葉でも聞いてやる」


 俺の安っぽい挑発に対し、一番そう言うのが効きやすそうなメメラですら全く意に介していなかった。あるェ?こいつから実は結構結束が硬い?

 挑発作戦が通じなかった事で俺は一気に耐えてきた分のダメージが表に出てしまう。


「くっ、さ、作戦失敗……かよ……」


「よし、もう少しだ」


 一方的なメメラの攻撃は避け続けていたものの、毒によって蓄積されていたダメージで俺はついよろけてしまう。それを見逃さなかったゾーイがタイミングを見計らって仲間に指示をする。ここで総攻撃が始まればかなりヤバイ。何とかそうならないようにしなければ……。


「いい……のか?時間が経てば……お前の毒……なんて全て解析……してノーダメージ……だぞ」


 もう騙せていない事が丸分かりなものの、俺はここで無理矢理にでも強がりを言った。俺の言葉を聞いたゾーイが確信を持って強い口調で言葉を返す。


「解析などさせない!その前にお前を倒す!」


 その事から敵の次の一手が分かったものの、この時既に俺にはそれに対抗する手段を思い浮かべられられる程の余裕を失っていた。


「成る程……そう……言う……作……」


 俺は喋る途中で意識を失いかけていた。スーツの中和機能より毒の進行の方が勝っていたのだ。今がチャンスだとばかりにゾーイが叫ぶ。


「よし、今だ!」


「ウガアアア!」


 ゾーイの号令でメメラが渾身の一撃を放った。もはや避ける気力すら残っていなかった俺はまたしてもその一撃で空中に飛ばされる。


「ぐふっ!」


「トドメは俺に任せなっ!」


 ここで今まで大きく動いてこなかったゾーイが動いた。奴は身体を前傾姿勢にして口を開く。次の瞬間、高出力の超音波が放出され、俺の身体を貫いた。


「ゾーイソニック!」


 この超音波攻撃に俺は全く抵抗出来なかった。無敵なはずのスーツでさえその攻撃には無力だった。まるで強風に弄ばされるゴミのように俺は無抵抗に転がっていく。

 その様子を見た悪党3人組は勝利を確信する。その中でもケインは素直に自分の気持ちを口に出していた。


「やったっ!」


 更に勝利を確実なものにする為にゾーイがもう一度倒れている俺に向けて超音波攻撃をする。その瞬間、辺りに視界を遮る程の砂埃が発生した。

 砂埃が晴れて視界が戻った時、そこには見慣れない新しい人影があった。


「全く、何で俺がこんな事……」


「誰だお前!」


 突然現れた謎の影にメメラが叫ぶ!俺のピンチに現れた新たな人影の正体はソラだった。多分所長がこの状況を打開する為に現場に呼んだのだろう。

 俺は彼に何か声をかけたかったが、体に受けたダメージが大きくて一言も喋る事が出来ないでいた。流石元々敵の組織の施設にいただけあってか、ソラは初めて対峙する悪党3人組に全く臆する事なく強い言葉を投げかける。


「バケモンに名乗る名前なんてねーよ」


「あ?」


 その生意気な言葉遣いにメメラは激高する。声の主が若いのも気を逆立てる要因となった。ケインはこの計画にない状況に声を荒げる。

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