2人目のヒーロー

新しいスーツ

第34話 新しいスーツ その1

「あ、新しいスーツ?」


「そ、今のスーツから得たデータを活かして完成した次世代スーツ、着てみて」


 驚く俺を横目に所長は得意げにそのスーツの説明をする。聞いた感じだと、これはちょっと期待出来そうだぞ。俺は彼女にそのスーツの性能について現スーツとの相違点を中心に聞いてみる事にした。まず聞くのは――。


「そのスーツを着ればビームとか出せるようになるんですか?」


「それは……」


 遠距離攻撃をする方法がない事が今のスーツの一番の問題点だと言うのに、この点をちょっと追求しただけで所長は口ごもってしまった。その様子を見ただけでこの点を改善出来ていない事はすぐに分かる。俺はがっくりと肩を下ろしてつぶやいた。


「やっぱり直接攻撃しか出来ないんですね」


「い、いやいや、スーツの着用者次第だから!出来ないなんて断言は出来ないのよ!」


 俺が落胆した態度を取るとすぐに彼女は焦って言い訳のような言葉を口走った。その言葉が現スーツの性能説明と同じようなものだったので俺はつい愚痴をこぼした。


「所長の作るスーツはみんなそれですよね」


「何よ、もしかして着る気ないの?別にいいのよ?あなたがそのスーツのままでいいって言うなら」


「そんな事一言も言ってないじゃないですか」


 嫌味が過ぎたのか所長は俺の言葉に軽くへそを曲げてしまった。うーん、これはちょっと機嫌を取った方が良さそうだ。俺はさも興味があるように口を開く。


「ところでそのスーツはどう言う特徴があるんですか?」


 この言葉を受けて、彼女はまた得意げな顔に戻って人差し指を上げながら興奮したように話し始めた。


「フフン、よくぞ聞いてくれました。まずは変身アイテムの超小型化に成功したの!何と指輪よ!これで誰にも怪しまれない!」


「おお……それはすごい」


 今のスーツが腕輪で変身しているからそれから比べたら指輪で済むと言うのはすごい進化だった。全身を覆うスーツが腕輪に収納されていると言う時点でも超科学的な感動を覚えたと言うのに、更にそれが指輪で行えるとかますます魔法じみて来たなぁ。


「それから変身後のスーツ自体もシュッとしてるわね。今までのもそんなにゴテゴテはしてなかったけれど」


「それはあんまり響かないかな……逆に体型がダイレクトに出るのはちょっと恥ずかしい」


「あれ?チョイ不評?」


 あんまり体型がもろに出るのは恥ずかしい。そりゃ、ボディビルダーみたいに鍛えていたらまた違うんだろうけど。こう言う感覚って実際に装着する者じゃないと分からないのかな。俺の反応を聞いても彼女はいまいち理解出来ていないようだった。


「特徴はそのくらいなんですか?」


「ま、まだまだあるわよ!えぇと、セキュリティ面の強化!このスーツは前のスーツから設計思想を全面的に見直して前の研究とのデータの互換性をなくしたの」


 俺に催促された所長は焦りながら次の特徴を説明する。スーツのデザインの件が不評だったのがよほどショックだったのか、今度は挽回しようとやたらすごそうに身振り手振りを派手にして大袈裟に説明する。セキュリティを強化した事で戦闘に有利になったって事になるの……かな?これについてはよく分からなかったので俺は思わず追加の説明を求めていた。


「それはどう言う……?」


「今後は敵に情報を知られにくくなるわね!」


 この質問に所長はドヤ顔で返したものの、その言葉に俺は何か引っかかるものを感じていた。


「知られない!って断言は出来ないんスか……」


「そりゃ、技術は日進月歩だし、敵だって研究はしてるだろうから100%はないでしょう。でも!これでかなり情報漏えいは防げるはず!」


「その利点は実作業的にはあんま関係ないものですよね」


 俺が知りたいのは戦闘面での現スーツから向上した部分についてだったので、この部分にはあまり興味を抱けなかった。確かに情報が敵に渡らないと言うのも大事だ。大事ではあるけど、もっと……こう……パワーアップ的なワクワク感も欲しいと言うのが本音だった。俺の言いたい事を察したのか所長は頬を膨らませながら新スーツの可能性を力説する。


「むう!後は適合者による能力の増幅の自由度が上がってるのよ!さっきも言ったみたいに適合者の素質次第で魔法みたいな力を使う事も出来る……ハズなんだから!」


「それってスーツを着られれば確実にその力使えるって言うものじゃないんでしょ」


 結局は使う者の素質次第、これは新しいスーツになっても変わらないようだ。確実に使えると断言出来ない以上、俺はこの新スーツに大きな期待は出来そうになかった。この俺の言葉に所長はいやらしい笑みを浮かべて挑発するように言った。


「あ、自信ないんだ?」


「じゃあ教えて下さいよ、どう言う素養があったら魔法が使えるのか」


 この挑発に俺も挑発で反応した。すると所長は重箱の隅をつつくみたいに細かな部分でツッコミを入れて来た。


「魔法じゃないって、飽くまでも魔法みたいな力、よ。素養としては潜在的なサイキック能力があれば、かな」


「俺にそんな潜在能力はないんじゃないかな」


 所長の話によれば、新スーツで魔法的な力を使うには超能力の才能がないといけないらしい。そんな力が凡人の俺にあるはずがない。スプーン曲げも念写も幽体離脱も自動書記も子供の頃に一通り試してみて何ひとつそれらの才能は発現しなかったのだから間違いないだろう。

 俺がそう言う能力がないと言うと彼女は冷めた顔で一言こう告げる。


「じゃあ諦めて」


「ちょ……他に掛ける言葉はないんですか!」


 余りにもあっさりと諦めを促すその言いぐさは流石科学者と言ったところだろうか。俺はその冷酷な言葉にツッコミを入れざるを得なかった。出来ないものは出来ないとハッキリ言うのは別に悪い事じゃない。そう言われる事で無駄な事をしなくて済む。所長は改めて自分の開発したスーツの仕組みを俺に説明する。


「そのスーツもそうだけど、私の作るスーツは基本的に元々ある力を増幅する事しか出来ないのよ」


「でも潜在的なものはやってみなくちゃ分からないじゃないですか」


「でしょ?だから着てみて!着用者の実験データも欲しいし」


 こうして話はうまく(?)まとまって、俺は新スーツの稼働実験をする事になった。ま、別にどんな説明をされたとしても元々拒否するつもりはなかったんだけどね。新しい製品と言うのはやっぱり気になるし、パワーアップしているなら試したくなるのは当然の話だし。

 俺は所長に連れられて久しぶりに以前初めてスーツを装着したあの部屋に入り、早速実験は始まった。


「何かうまい事人体実験に使われているような気も……」


「気のせい気のせい」


 ノリノリの所長は早速パネルを操作して保管されていた何かを取り出した。俺の前に持って来たそれは話に出ていた指輪のようだった。


「これ……ですか?」


「そう、着けてみて。適合したなら指輪が認証してくれるはず」


 渡されたそれは見た目は何の変哲もないシルバーの指輪のように見えた。傍目には特に何のデザインもされていない金属の輪っか。これがヒーローに変身する重要アイテムだなんて誰が想像するだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る