ヒーロー活動開始

第4話 名ばかりヒーロー

「おはようございます!今日からよろしくお願いします!」


 言われた時間の20分前に事務所に着いた俺は元気に挨拶をした。

 彼女、アリカも当然のようにそこにいた。スーツを着ると17歳にはとても見えない。大人っぽいんだな。


「おはよう、名刺出来たから渡しておくね」


 会ってまず最初にそう言われて彼女から名刺を貰う。見ると真っ白な紙に幾つかの情報がシンプルに記載されていた。そこにはこう書かれている。


『須藤探偵事務所 所長 須藤アリカ』


「ここ、探偵事務所だったんですか?」


「うん、昨日そう決めたんだ」


 道理でおかしいと思った。しかし謎の行動力だなぁ。本当に昨日まで何をするのか白紙だったんだろうか。

 まぁそれはそれとして初仕事だ。俺は今日何をして過ごせばいいんだろう?目の前に電話とPCはあるけど……。


「で、今日は何をしたらいいんですか?電話番とか?」


「うん、実はもう先方に連絡は付けてあるんだ。早速だけど今からこの場所に行ってくれない?」


 彼女はそう言って一枚の紙を俺に渡した。その紙は地図をプリントアウトしたものでその一角に蛍光ペンで印がつけてあった。


「あ、はい、分かりました。ここに何をしに行くんですか?準備するものはありますか?」


「準備と言えばスーツだけね。もうリングを装着しているんでしょう?何をするかは現場の指示に従ってね」


 リングと言うのは例の変身スーツが収納されているユニットの事だ。どう言う仕組みか分からないけど、解除って言って変身を解くと両の手首に腕輪状のユニットが生成されてその中にスーツの全てが収納される。言ってみればこれ、ライダーの変身ベルトみたいなものかな。


「えっと、それでここで変身してから現地に行った方がいいですか?それとも」


「それも君の判断に任せるわ。準備が出来たらお願いね」


 彼女はそう言うとにこっと笑った。さて、色々と任されたので全部自分の判断で決めなくては。

 スーツ姿で現地まで行くのは恥かしかったので俺は現地で変身する事にした。

 後、持参するものは何もいらないって事だったけど、念の為に絆創膏とか――あ、スーツを着ていればダメージは受けないんだっけ?

 スーツは上着を着た上からも着られるから財布とかもそのまま持っていけるし……じゃあ特に何もいらないか。


「それじゃあ行ってきます。あ、相手側の目印とかあります?迷ったらいけないんで」


「大丈夫よ、そこで一番目立っているのがそうだから。じゃあ行ってらっしゃい。先方によろしく言っといてね」


 そんな謎のアドバイスを頂いて、俺は首を傾げながら取り敢えず出発する事にした。

 昨日の面接時にはなかった電話が今日からはあるのだから、何か困ったらその時に名刺に書いてある電話番号に電話をすればいいや――と、そんな軽い気持ちで。


 渡された地図を見ながら電車を乗り継いで現地につくと、そこにはすごい人だかりが出来ていた。

 もしかして……あの人混みの中に今回の仕事先があるのだろうか?


「あの、すみません……須藤探偵事務所の者なんですけど……」


 そう言いながら人混みをかき分けながら進んでいくと、そこには重装備の1団があった。ひと目で分かる、あれはSWATだ。まさか……まさかね。

 確かにこの人混みの中で一番目立ってはいるけれど――この集団の中に混じって俺が出来る事があるとは到底思えない。


「ここは一般人立ち入り禁止……」


 いつの間にか人混みの先頭まで来ていた俺は屈強な警察官に制止されてしまった。当然だよね。

 その時、俺の風貌に何かを勘付いた警察官のひとりが声をかけて来た。


「もしかして須藤探偵事務所から?」


「あっはい」


 し、しまったー!つい無意識に反応してしまった。でもだからって要件が危険任務とは限らないか。


「ちょうど良かった。君を待っていたんです。すぐにこっちに来てくれませんか」


 どうやらSWATは俺をすぐに必要としていたらしい。そのまま強引に腕を引っ張られて俺は部隊の偉い人の前に押し出された。

 その偉い人は流石部隊のリーダーだけあって、ガタイもそうだけど何より眼力がすごい。何を言われても逆らえない、そんな凄みがあった。


「君の事は所長から聞いているよ。すごい戦力が手に入ったってな」


「それであの……俺は何を?」


「ああ、そうだったな。実はあの建物に爆弾が仕掛けられているんだ。それを解除して欲しい」


「は?」


 俺は耳を疑った。爆弾処理だって?それを俺にしろと?冗談にしてもたちが悪いぞ。

 俺がその言葉を飲み込めないでいると、隊長はズイッと体を乗り出して強引に手を握って懇願して来た。


「爆弾処理班が間に合わないんだ。指示はこちらでするから頼む!もう時間がないんだ」


「なんで俺なんですか」


「スーツの話は聞いている。それを着ればどんな爆発も防ぐのだろう?」


 ああ、それで俺はここに呼ばれたのか。何この便利屋状態。あの所長、こうなる事が分かっていて詳細を話さなかったな。何て策士!

 しかしこのスーツがどんなダメージも受けないって言うのはまだカタログスペック状態なんだよなぁ。本当にそんな効果あるんだろうか。

 まさかその実証試験をこんな極限状態で行う事になるだなんて――失敗したら即おしまいじゃないですかやだー。

 俺は一応ダメ元で隊長に辞退を申し出る。


「いやでもあのまだ一度も試した事ないんで……」


「じゃあここで早速実験すればいい。何、失敗はしないさ。スーツは保険のようなものだよ」


「失敗しないなら俺じゃなくても」


「こんな事で貴重な隊員を危険に晒せるとでも?君なら失敗しても無傷だ。その為に君をここに呼んだんだ」


 うう……その眼力で迫るのやめて……。拒否出来ないよこんなの。やるしか……ないのかな。ここまで来てしまったんだもんな。

 もしもの為に早速変身しとこう。爆弾が急に爆発するかも知れないし。


「変身!」


 俺の言葉に反応して即座にスーツが展開する。周その様子を見てりの隊員達にどよめきが起こる。目の前で見ていた隊長も驚きの顔を隠せなかった。


「いやはやすごいものだな。そのスーツ、俺達も着られるなら着たいものだよ」


「無駄話はいいです。時間がないんでしょう?早速指示をお願いします」


「御協力感謝する。では早速案内の隊員の指示に従ってくれ」


 隊長の声と共に側にいた隊員が俺に声をかけて来た。この人に従えばいいのか。


「えぇと、では私に付いて来てください」


 俺は案内の隊員の指示に従って、その仕掛けられた爆弾の場所までやって来た。爆弾処理の指示を受けるインカムを受け取って人生初の爆弾処理だ。

 あは……あはは。こんな貴重な体験が出来るなんてこの仕事について良かったなぁ(ヤケクソ)。


 爆弾解体はドラマや映画でお馴染みのコードを切ったり慎重に信管を外したりと言う作業で、まさに緊張の連続だった。

 現実の爆弾処理もこんな事をしているのか……これじゃストレス半端ないだろうなあ。


「……それじゃあ最後の処置だ。お馴染みのアレだが青と赤のコードのどちらか好きな方を切ってくれ」


 えぇぇ~!ドラマや映画じゃないんだからさあ。何でそう言う大事な決断を素人にやらせるかなぁ。責任問題に発展しますよコレ。

 とにかく俺はその指示を拒否した。こんな重大な決断を勝手に押し付けないでもらいたい。


「無理です。どちらか分からないならそちらで色を判断してください。俺はそれに従いますから」


「分かった……それでは赤のコードだ。赤のコードを切ってくれ……健闘を祈る」


 ふぅ……これで緊張は軽くなったぞ。もう失敗したって向こうの責任だもんね。俺知らないもんね。

 で、赤いコードね。ええっと、これか――。

 責任がなくなった俺はもう大船に乗った気になって、普通の電子工作のように軽い気持ちでプチッとそのコードをペンチで切った。


 その瞬間、すごい音を立てて爆弾は爆発した。そう、爆弾処理は最後の最後で失敗したんだ。思いの外強力な爆発は建物の柱をいくつも破壊した。

 幸い建物自体の倒壊こそ免れたものの、もうその建物は安全上解体するしかないと言う程の悲惨な状態だ。


 そんなアクシデントの中で俺は全くの無傷だった。すごいなこのスーツ。今まで半信半疑だったけど、これでもう信用するしかなくなった。


「いやぁ、爆弾処理は失敗したが、そのスーツの能力は証明されたな!」


 全ての処理を終え、隊長は俺の背中をバンバン叩きながらそう言って豪快に笑った。

 全く、この人は人事だと思って……でもSWATに人脈があるだなんてあのアリカって子、若いのに只者じゃないな。


 こうして俺のヒーロー初仕事は終わった。明確な敵がいない以上これからもこんな仕事が続くのかなと、沈む夕日を見ながらそう感じていた。

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