雨と私 (不思議、雨)1390
今日の天気は、雨。
私は、部屋に
昨日ならまだ彼がいたのに。電話をかけてみようと思ったけれど、プライドが許さない。未練なんて、あるもんか。あんな風にふられてもまだ好きな女など、いない。彼への憎しみを最大限にして、その連絡先をブロックした。
どうせ、ネット。どうせ、出会い厨。私と真剣には付き合うはずがないのだから、私も軽く付き合おう、そう思っていたのに、彼に会うたびにより大好きになっていた。
「彼女、欲しい」で検索して見事引っかかった彼と、私は頻繁に連絡を取り合って、異様なほど簡単にオフ会へこぎつけることができた。でも予想通りの短い恋愛で、初めてオフで会ってから一か月で別れた。
ふられ方だって予想通り。飽きた。さすがに、実際に飽きたとは言われなかったけれど、態度と言い方でバレバレだった。
お互いにそのつもりだったんだから、当たり前の付き合いをしたのだから、泣いてどうする。落ち込んでどうする。
つい昨日まで空は青かった。天気予報士が、今週は気分が良くなるほどの晴れ模様ですね、と言っていたのを覚えている。それがどうしたのだろう。不思議なほどに空には青さの欠片もなく、太陽がどこにあるかなどさっぱり分からないくらいに空は暗い。
……私が泣き止んだら、空も泣き止むだろうか。私と同じ反応を空が起こしているのならば、いっそ一緒になっちゃえばいい。
狂った感情に従って私は何も持たずに家を出た。
家の屋根で地面には綺麗な線が描かれていた。濡れていない地面と、濡れている地面。濡れている地面へ足をやると、靴と靴下に大粒の雨がかかった。
そして、思い切ってもう片方の足も踏み出した。私はどこへ向かう気もなく、海の中のような街を歩き始めた。
しばらく歩いた。靴は地面につくごとに水を絞り出して、また上げると水を吸収した。Tシャツだって多分もう結構透けているんだろう。でも今の私はそんなことが不思議と気にならなかった。私は一通りの少ない道を歩いていた。別に、犯されたってどうでもいい。
顔だって髪と一緒にびしょ濡れになって、もう誰も私が泣いていたことには気づかない。大声を出して泣いても、自由。何をしても自由。こんな大雨の中を歩く馬鹿など、私だけらしい。何をしても、誰も見ない。自然と気が楽になっていた。
私は知らないところまで来ていた。ケータイは持ってきていない。このまま行けば、完全に迷子だろうな。そう考えているとき、私は雨の粒が小さくなっているのに気が付いた。
そして、雨がぽつぽつ、と体に当たるごとに、私は寒気を感じてきた。ああ、そうだ。あんな大雨に数十分当たっていれば、普通に考えて風邪をひくだろう。
家に帰ろうかな。そう思って後ろを向いたけど、全く知らない道が続いていた。
私は来たはずの方向へ歩いた。
まっすぐな一本道だった。しばらく歩くと、知っていた場所へ戻った。もう空はずいぶんと明るくなっていて、周りの人は変わった目で私を見た。
家に着いて、私はまずシャワーを浴びた。顔を拭いて鏡を見ると、私は笑っていた。
二時間ほど続いていた大雨はどこへ行ったのだろう。外を見ると、昨日と変わりない大きく青い空が広がっていた。私はまた、インターネットで「彼女、欲しい」と検索をかけた。
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