13時限目

「ふむ。そちの話はなかなかに興味深いな。痛覚の共有、容姿の変化、そして極め付きは超能力か」


 贖罪の意も込めて、昨夜に端を発する奇妙な出来事の数々を洗いざらいぶちまけた。僕は初対面の大人に相談をもちかけるほど社交的ではない。それでもなお口を開いたのは、彼女も自分と同じ境遇に違いないからだ。


「確か望月さん……でしたか。あなたなら何か知ってるんじゃないですか? この力のこと、それにアイスのことも」


 藁にも縋る思いでその妖艶な笑みを見やる。どうやってあの竜巻を静めたのか、当然ながら僕には説明できない。それができるのはおそらくこの場にたった一人、そう彼女に他ならない。


「何故そのようなケースは初耳でな。じゃが、そちの助けにはなれるやもしれぬ」


 彼女が腕組みすると、放漫な膨らみが僕を挑発するように揺れた。いつもなら癇に障るその行為も、今はさほど気にならない。それは僕がどうしようもなく滅入っていたからだろう。


「そちのような常識を超越した存在を、わらわは異端者イレギュラーと呼んでおる。実は来年度の入学生にその異端者が混じっておってのう。通常学級とは別に、彼女たちをまとめた特別学級を設けようと考えておったのじゃ」

「と、特別学級!?」


 唐突に浮かんだその単語に、僕は堪らず素っ頓狂な声を上げてしまう。軌条はなんら変わっていないのに、異なる話題を展開している心地がしたんだ。


「そこではわらわの更正プログラムを基に、一般人との付き合い方を学んでもらうつもりでいる。そこに身を置いてみれば、自ずとそちの謎も解けるのではないか?」

「そんなこと急に言われても……。大体僕には入学金すら用意できませんよ」

「なぁに、心配には及ばない。それくらいならこちらで工面する。クラスメイトから疎まれるくらい頭が切れるのなら、奨学金も降りるだろうて」


 てっきり最寄りの公立高校に進むつもりでいたものだから、未来図を描き直すのに数多のカロリーが費やされる。保健室に掛けられた鳩時計と共に、僕の腹の虫もぎゅるると鳴いた。


「ふふふ、無理もない。かれこれ半日も気を失っておったのじゃからな。ほれ」


 彼女から差し出された正方形のラッピングには、筆記体の英語が記されている。震える指先でどうにか開封すると、甘い砂糖の匂いが鼻孔をくすぐった。


「どうしたのじゃ、そんなにまじまじと菓子を見つめて。もしやそち、クッキーは嫌いじゃったか?」

「いえ、大好物です」


 口いっぱいに広がる懐かしい味を噛みしめながら、僕は肩の温もりに掌を宛がう。頬を伝う雫をアイスが舐めると、僕の舌先がうっすらと塩気を帯びた。

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